ウクライナ戦争では、人工知能(AI)を搭載した無人機が攻撃に使われるなど、戦い方が急速に進化している。

 厳しい安全保障環境にある日本でも、そうした技術を確保する必要がある。

 防衛装備庁が今月、「防衛イノベーション科学技術研究所」を東京都内に開設した。情報通信やロボット工学などを専門とする大学や企業の研究者を含む76人体制で、革新的な防衛装備品の開発に取り組む狙いがある。

 現在、装備品を開発する組織としては、陸海空3自衛隊それぞれの研究所に加え、宇宙やサイバーを専門とする研究所もある。

 既存の4機関は自衛隊の技術者が中心的役割を担っているが、新たな研究所は、官民が協力して取り組む点が特徴だ。産業界や学術界の英知を結集しようという狙いは理解できる。

 今後はそれぞれの研究所が連携し、無人化や省人化など、将来の戦い方を大きく変える防衛装備品の研究開発を進めることになる。民生分野に転用できる技術を生み出せれば、日本の国力全体を上げることにもつながるだろう。

 新たな研究所は当面、素粒子を検出して潜水艦を探知する技術の開発を想定している。音波を探知する従来の方法に比べ、遠方の潜水艦を捕捉できるという。このほか、暗闇でも走行できる無人車両の開発も検討している。

 先端技術を防衛目的で活用していくのは世界の潮流だ。

 研究所は、米国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)などをモデルとしている。DARPAは、全地球測位システム(GPS)などの革新的な技術を生み出してきたことで知られる。

 GPSは当初、軍事目的で開発されたが、利便性が高いことから米国が民間での活用を認め、誰もが恩恵を受けられるようになった。先端技術を軍事と民生の双方で活用した好例と言えよう。

 一方、日本では長年、科学者の代表機関・日本学術会議が軍事目的の研究を拒んできたため、軍民両用の研究が進まなかった。

 学術会議は古い体質を改め、新たな研究所に携わりたい、といった学者の意欲を妨げることなく、積極的に協力すべきだ。

 防衛装備庁は過去にも、革新的な装備品の開発を目指した研究機関を設置したが、十分な成果が得られず、3年前に廃止した経緯がある。失敗を繰り返さぬよう、政府は新たな研究所の取り組みに目配りしていかねばならない。