奥平大兼

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 俳優の奥平大兼が18日、TOHOシネマズ日本橋で行われた映画『Cloud クラウド』(公開中)のイベントに来場し、自身が演じた謎多きキャラクターについて、聞き手の映画感想TikToker・しんのすけとともに考察を重ねた(※一部ネタバレあり)。

 映画『CURE キュア』『スパイの妻<劇場版>』などの黒沢清監督が菅田将暉を初めて主演に迎えた本作は、現代社会に潜む集団狂気を描いたサスペンススリラー。転売業で稼ぐ青年・吉井(菅田)の周囲で不審な出来事が相次ぎ、彼の日常が狂っていくさまを描き出す。奥平が演じる佐野は、吉井の転売業を支えるアシスタント。一見、雇い主の吉井に忠誠を誓っているようにも見えるが、どこか得体のしれない佐野の謎めいた存在感が、SNSでも「佐野くん一体何者?」「佐野の正体が謎すぎる」と話題を呼んでいる。

 佐野とはいったい何者なのか? このイベントは佐野を演じる奥平と共に考察する貴重な機会ということで、チケットは即日完売。映画上映後、奥平がステージに登場すると、会場からは大きな歓声が沸き起こった。奥平は、佐野という謎の多い役柄に「台本を読んだときにも“何を基準にしてやればいいのか?”という疑問がずっとあって。初めて監督にお会いした時に分からないところをいっぱい聞こうと思ったけど、“(助監督が独自に用意した佐野の設定資料などを)読まなくていいです”と言われて鳥肌が止まらなかった」と当時の胸の内を吐露。「僕はこの映画の中でも一番若手でしたから“がんばらなきゃ”という気持ちがいっぱいある中で、その前の役づくりをどうしたらいいのかという気持ちに駆られました」と振り返る。

〜以下、映画のネタバレを含みます〜

 一方の黒沢監督は、海外メディアの取材に「佐野の存在は悪魔だと思ってくれてもいい」とコメントしていたという。「“佐野は悪魔です”と言われたかどうかは覚えていないんですが、演出や台本、物語の進行からも悪魔的な立ち位置というか。吉井を渦の中に連れ込もうとしているようなふしもあって。でも吉井さんの味方でもあるし……。悪魔だったんですかね?」と首をかしげるひと幕も。また黒沢監督は奥平から役について質問を受けたことはなかったとも語っていたそうで、それを聞いた奥平も「確かに今回の黒沢さんの演出が本当に楽しくて。黒沢さんに何を言われるのだろう、と待っていたから、何も聞かなかった。でも黒沢監督はひとつひとつのシーンについて、自分が質問しなくてもお話はしてくれるので、そこで話し合いをした記憶があります」と話す。

 この日の観客は佐野を「怖かった」と感じた人が多かったようだが、その一方で「笑えた」という人も。そんな会場の反応に「なんでこんなに両極端な反応があるんだろうと思いますけど、そこがこの映画の面白さでもあると思います」と奥平。

 その後も佐野と接点を持つ松重豊演じる謎の男についての考察や、「そもそも佐野は吉井に忠誠心を抱いているのか」といった議題で盛り上がった奥平としんのすけだが、そんな考察大会もあっという間に時間切れ。まだまだ話し足りない様子の2人だったが、最後に「果たして皆さんが佐野という人物を分かっていただけたかどうか不安ですが、僕も皆さんと同じ気持ちです。正直に言うと、僕も佐野のバックグラウンドが詳しく分からなくて。ただ映画的な役割であったり、目の前のことにフォーカスを当てると、役ってこんなに面白くなるんだと思わせてもらったのがこの映画でした。荒川良々さんとか、めっちゃ怖かったですし、きっとよく観るといろいろな面白さを見いだせる映画だと思うので。何年後でもいいので2回、3回、4回と観ていただけるとうれしいです」と呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)