「日本の都市部」が壊滅する…能登では「豪雨×地震」で発生した「ダブル災害」、目をそむけたくなる「その最悪のパターン」

写真拡大 (全7枚)

能登半島で起きていたこと

能登半島北部に位置する奥能登地域は、今年相次いで2回の大災害に見舞われた。元日の令和6年能登半島地震は、兵庫県南部地震、熊本地震の2倍以上大きなエネルギーであるマグニチュード7.6を記録し、数千年に一度レベルの大地震と評する声もある。

そして、その地震の傷も癒えない9月21日、奥能登では24時間に400ミリを超える豪雨が降った。大地震でダメージを受けていた山や川は至る所で崩れ、また溢れることで、多くの被害が生じたが、この雨も「1000年に1度程度の確率でしか起きないような現象」とみる声もあった。

豪雨災害において能登半島において大きな被害が生じた理由は、まず記録的な雨量であったこと、次に、地形的に能登は急峻で街中を流れる川も上流部は勾配の極めて急な河川であり、市街地のすぐ背後に標高300〜500m程度の山地が広がっていることが挙げられる。

都市は沿岸のわずかな低地に発達するしかなく、例えば中核都市の輪島市も、そもそも洪水リスクの高い低地か、その周囲に土砂災害リスクのある山地が取り巻いているという地形だ。

このような元々の地形的な条件に加えて、能登半島地震による被災の影響が加わったことが想定される。著者は能登半島地震後、また豪雨災害の後に輪島市を中心とした現地調査を実施し、地震で家屋の倒壊などの被害が大きかった同じ地域で、再び豪雨による浸水被害等に見舞われた実態を目の当たりにした。

二重の災害

地震で崩れた斜面が、豪雨でさらに大規模に崩れ一面に岩塊が大量に崩落した事例もあった。地震で大きく亀裂が入った丘の上にあるグラウンドから、豪雨によって土砂と水が大量に流出、下流側の家々に土砂と水が流れ込んだ被害もあった。地震で家を失い、仮設住宅に避難した方が、再び浸水被害に遭い、二重の被害となった地域もあった。

仮設住宅の浸水被害に批判的な声もあったが、実態としては仮設住宅の多くはもともとの市街地やその周辺の商業エリアなどの空いているスペースに作られており、周囲の住宅や店舗も被災しているのだ。

河川の上流域は、国土地理院が公開する斜面崩落、土砂の堆積分布のデータでは、地震で崩れた地点の周囲や起点として、豪雨後に斜面崩落等が発生しているとみられるケースもみられた。山は崩れやすくなっており、また保水力の低下もあるだろう。

崩れ落ちた土砂や倒木が水を溜めた「土砂ダム」が流出すれば、「土砂・洪水氾濫」となってしまい、土砂が混じった濁流による被害も著しい。上流側の被害は倒れた流木が流されてくることによる河川の閉塞も課題だ。川の流路を閉塞してしまうと、周囲に河川の水が氾濫しやすくなる。

輪島市では、河川の氾濫があった地点付近において流木による橋の閉塞がみられた。ハザードマップが作られている大きな河川だけではなく、ハザードマップが作られていない小さな河川でも発生していた。

このほか、地震後には輪島市や珠洲市で河川の護岸や堤防の損傷などの被害が発生しており、大地震で被害を受けた流域の豪雨災害と考えられる被害として、様々な被害の影響が生じていたことが明らかになりつつある。

地震後の都市において懸念される豪雨・洪水災害

このような二重の災害による被災は、決して能登半島だけで起こることではない。東京、名古屋、大阪を中心とした都市部では、より大きな被害が想定される。

日本の各都市は沿岸部の低地に発達しており、多くの都市が大河川の下流〜河口域に発達している。こうした都市は、地震による被害も甚大になりやすい傾向があるが、そもそも水害リスクの高い低地に発達しており、過去に洪水が繰り返している場合も多い。過去にも平野部は甚大な水害に見舞われている歴史を持つ。

例えば1947年(昭和22)年9月に発生したカスリーン台風は、日本で最大の流域面積を持つ利根川流域では24か所で堤防が決壊、死者1,100人、家屋浸水303,160戸、家屋の倒半壊31,381戸という甚大な被害をもたらしている。

現代では、ダムや遊水地、堤防などの多角的な治水施設により洪水に至る可能性は低くなっているが、それでも2015年の平成27年関東・東北豪雨では鬼怒川の堤防決壊、溢水による被害や、2018年の平成30年7月豪雨による高梁川水系小田川の堤防決壊など、近年においても堤防決壊による洪水は発生している。

流域の降水量によっては、洪水を防げるどころか、決壊等による氾濫流で家屋は流失し、また押し流され、周辺は大きく土砂がえぐられて甚大な被害を及ぼしている状況だ。

堤防の復旧作業中の洪水や高潮

巨大地震における被害として、2011年3月11日に起きた東日本大震災では、各地で堤防の損傷が発生していた。

国が管理する区間では、関東・東北で2115箇所が被災し、北上川では道路兼用の河川堤防が1,100mにわたって流出したほか、関東でも利根川水系などで堤防の基礎地盤や堤体液状化の被害もあったとされている。

このような被災箇所のうち、同年7月までに1箇所を除き応急対策が完了。翌2012年3月末時点で、1791箇所については、被災前と同程度の安全水準を確保する本復旧を完了している。

しかし、仮に地震による堤防の損傷の復旧がままならないうちに、台風や集中豪雨による洪水や高潮が発生した場合には何が起こるか。堤防などが万全であれば洪水に至らない雨量であっても、堤防が損壊していることで水位の上昇に対応できず、周辺の都市部において氾濫が発生して、大きな被害が発生することも想定される。

さらに、大きな河川水位の危険度レベルが上昇してきた段階で、ダメージを受けた堤防が耐えきれずに決壊などがあると、決壊地点からの激しい氾濫流やよる甚大な被害が懸念される。

河川の氾濫は木造住宅の損壊・流出のみではなく、河岸が浸食されてしまえば建物が建つ地盤が削られてしまうことになるため、RC造の住宅などでも倒壊が懸念される。

沿岸部においては、海からの高潮被害も無視できない。地震による揺れや液状化現象などで堤防、水門などの被害があれば、川だけでなく海からの脅威に対しても無防備になってしまう。1959年(昭和34年)台風15号(伊勢湾台風)によって、台風災害としては明治以降最多の死者・行方不明者数5,098名に及ぶ被害が生じたが、その8割以上は伊勢湾台風洪水よりも、高潮による被害が懸念される。

考えられる最悪のシナリオ

既に大地震によって大きなダメージを受けた直後に豪雨があった際には、地震からの復旧はおろか人命救助もままならないうちに、洪水を迎えるということになれば、考えられる最悪のシナリオであるといえるだろう。

大規模な水害が発生すれば、地震による被害に加えて家屋でも浸水被害や土砂の堆積、その後の後片付け、衛生状態の悪化、備蓄してあった飲食料・資材の喪失などの被害が加わることになってしまう。広域に被災していれば、救援やボランティアの手が行き届くことも難しくなってしまう。

逆に、「豪雨後の大地震」も懸念される。近い事例としては、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震がある。この地震は、大阪などに大被害をもたらした平成30年台風第21号が、北海道の西海上を通過した直後に発生し、道内でも地震の前日から鉄道の運休なども発生していた。

この地震では、山肌が一気に滑り落ちるような土砂災害やのほか、札幌市郊外の丘陵地における盛土地で液状化による地下の土砂流出被害が発生した。

台風による雨量は30〜40mm程度であったが、特に液状化現象は地下水の水位が高いと起こりやすくなることから、先日の雨により地下水が豊富であったことで被害が拡大した可能性を指摘する声もある。

30〜40mm程度に留まらず、記録的な豪雨後であったとしたら、被害は更に拡大する懸念もあったであろう。実際に、現地付近では倒木跡の穴に水が大量に溜まっているケースなども目にしている。

「海溝型地震×活断層の地震」ダブル震災による被害

想定される悲観的なシナリオには、地震×地震というパターンもある。数10年〜数100年単位と活断層による地震より再来間隔が短く、発生確率が高い南海トラフ地震などの海溝型地震で最悪ケースの被害を被っているところに、活断層による地震が発生するような「海溝型地震×活断層の地震」のダブル震災は絵空事ではないのである。

人口が密集する平野に発達した都市部では、首都圏であれば首都直下地震、大阪・名古屋を中心に西日本一帯は南海トラフ巨大地震に警戒が必要だが、各地域で注意すべき地震はそれだけではない。

「南海トラフ地震臨時情報」は解除されたが…じつは過去にも例の多い「誘発地震」のおそろしさ」で指摘したように、巨大地震に誘発される地震、とくに内陸活断層の地震が発生する可能性もある。

大阪では上町断層、福岡では警固(けご)断層という国内でもトップクラスの注意を要する活断層もある。首都圏のほか名古屋や広島、札幌なども周囲に複数の活断層がある都市である。

内陸直下の活断層による地震は、震源が都市に近く浅い場所にあることから、熊本地震や兵庫県南部地震のように建物への被害が発生しやすい。

巨大な海溝型地震でダメージがあったところに、内陸の活断層による地震が発生すると、耐震性が衰えている住宅に住み続けてしまい、復旧が間に合わないうちにより建物への被害が大きい地震により倒壊が起こるという最悪な組み合わせも想定される。

このような「海溝型地震×活断層の地震」のパターンは決してありえない想定ではなく、今から80年前といったそう遠くない過去、昭和年間に実際に発生している。1944年(昭和19年)12月7日に起きた昭和東南海地震(海溝型地震/南海トラフ半割れ地震)の37日後、1945(昭和20年)年1月13日に三河地震(活断層による地震)が発生した。

三河地震はマグニチュード6.8と、熊本地震や兵庫県南部地震(マグニチュード7.3)と比べると1/5程のエネルギーの地震であるが、死者2,306人、行方不明者1,126人、家屋の全壊7,221戸、半壊1万6,555戸と被害は甚大で、昭和東南海地震でダメージを受けた家屋が三河地震で倒壊したとみられる被害などにより、多くの死傷者が発生している。

結び

以上のように、「大地震×豪雨災害」のみならず、「海溝型地震×活断層の地震」は都市圏において懸念される複合的な災害として、無視することはできないといえる。

ただし、基本的に各災害で起こる現象は、地震による家屋の倒壊、液状化被害、津波被害、土砂災害などに加えて、豪雨では水害(洪水、内水氾濫、台風時の高潮)、土砂災害が懸念されることには変わりがない。

これらの被害は、例えば土砂災害であれば崖、斜面の近傍や、洪水であれば河川に近い低地などで発して被害が生じるなど、立地によりリスクは大きく異なる。複合的な被害によって被害範囲や規模の拡大の懸念はあっても、映鏡を受ける地域は基本的には変わらないといえるだろう。

住む場所の立地のリスクが低い場所を避け、高台の台地の平坦地で、盛土造成地などでない場所であれば災害が起きても被害に遭う確率は低減できるだろう。

避難が実用な場所であれば、どの災害でどのタイミングで、どこにどのルートで避難するかの備えが必要だ。

それぞれ、必要な備えを万全にしておくことが重要であることには変わりない。立地のリスク把握、家屋の耐震性確保、その次に屋内で怪我をしない家具固定などを行った後、避難の要否によって備蓄や持ち出し袋の準備をすることが重要だ。

「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」