太古の火星は地球と似た環境だったことが、これまでの調査で判明していますが、現在の火星は生命にとっては極めて過酷な環境を持つ惑星です。そのため、もし火星で生命が誕生したとしても既に死に絶えていると考えられていますが、新たな研究により火星の氷の下に生命の存続に適した環境が残されている可能性があることが判明しました。

Potential for photosynthesis on Mars within snow and ice | Communications Earth & Environment

https://www.nature.com/articles/s43247-024-01730-y

Astrobiology: Potential microbial habitats in | EurekAlert!

https://www.eurekalert.org/news-releases/1061530

Alien life could lurk beneath Mars' protective ice, study suggests | Space

https://www.space.com/alien-life-mars-ice-photosynthetic-zones

火星は地球と同じくハビタブルゾーン(生命居住可能領域)に位置する惑星ですが、数十億年前に地磁気が失われたことで大気の層が太陽風によって吹き散らされてしまいました。

大気が希薄になった結果、火星には致命的な量の紫外線が降り注ぐようになっており、表面で生命が生存することはほぼ不可能です。「地球と違って火星には地表を守るオゾン層がないので、地球に比べて有害な紫外線が30%多くなっています」と、NASAジェット推進研究所のアディティア・クラー氏は指摘しています。

「火星で生命が光合成を行える場所があるとしたら、塵(ちり)を含んだ氷の内部だろう」と考えたクラー氏らは、コンピューターシミュレーションを用いて、火星にある氷の不純物含有量と構造を分析しました。



シミュレーションの結果、塵などの不純物を含んだ火星の氷が内部から融解し、液体の水が蒸発するのを防ぎつつ致命的な紫外線から内部を守ることがわかりました。研究チームによると、氷の中の不純物が多いと太陽光が遮られ過ぎてしまいますが、塵が0.01〜0.1%含まれる氷では深さ5〜38cm、より清浄な氷なら深さ2.15〜3.10メートルの場所にハビタブルゾーンが形成される可能性があるとのこと。

クラー氏は「火星の中緯度にある塵の多い氷の中には、光合成に必要な2つの主要な要素、つまり十分な太陽光と液体の水が存在する可能性があります。火星の濃い雪に関する2つの独立したシミュレーションにより、雪の中に1%未満の少量の塵が含まれている場合、中緯度の地下で氷の融解が発生しうることが判明したのです」と説明しました。

氷の下に生命が存在するという理論は、地球でみられる現象によりある程度裏付けされています。例えば、アラスカなどの氷河では、塵や藻類などでできた黒い粒子が太陽光を吸収し、その熱で氷が融解して生命が繁栄する「クリオコナイトホール」が形成されており、これが地球が完全に氷に閉ざされた時代を生命が生き延びるためのシェルターになったとの説もあります。

また、過去の調査により、火星の地表にも氷が露出した場所があることが判明しました。

火星の表面に地下の氷が露出している場所が見つかる - GIGAZINE



研究者らは、火星に生命が存在できる場所があるからといって、実際にそこに地球外生命体がいること、または過去にいたことが示されたわけではないと強調しています。しかし、火星の中緯度で地表に露出した氷が発見されたことは、今後の生命探査にとって重要です。

クラー氏は「目下、科学者のチームと協力して、現在の火星で塵を含んだ氷の融解に関する改良版のシミュレーションを開発しています。また、そうした氷の融解シナリオを実験室で再現し、より詳細な調査も行っています」と話しました。