平川動物公園ではユーカリをミキサーにかけて、ドロドロにした「ユーカリペースト」を毎日コアラたちに与えている。「コアラのお食事タイム」で飲む様子が観察できることも(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)

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NHKの「あさイチ」で放送され、「"コアラ丼"がかわいすぎる」と話題になった体重測定。写真はヒナタの子どものアラタ生後7カ月半のころ。赤ちゃんの体重測定は、ぬいぐるみにつかまった状態で“どんぶり”に入ると、落ち着いて測定することができる(撮影協力:平川動物公園、出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)

鹿児島県鹿児島市にある平川動物公園は、これまでに通算105頭ものコアラを飼育してきた動物園。そこで撮影されたコアラの様子がテレビ番組で取り上げられると、特に体重測定時の"コアラ丼"が「かわいい」と話題になりました。

そこで本記事では、平川動物公園の手がけた著書『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』から一部を抜粋、再編集し、実はよく知られていないコアラの生態をご紹介します。

撮影協力:平川動物公園

(編集部注)本記事に記載の情報は2024年9月現在のものです。

国内最多18頭のコアラが暮らす動物園

「コアラ」と聞いて思いつくのは「よく寝ている」、「ユーカリを食べる」そんな印象ではないでしょうか。

もちろん、正解です。しかし、それ以上に「くっついている指がある」、「野太い声で鳴く」、「赤ちゃんはうんちを食べる」など、不思議な生態と、おもしろい魅力でいっぱいの生き物なんです。

平川動物公園は鹿児島市の平川町にある動物園で、1984年に、日本で初めてコアラが来園した動物園のひとつです。今年は初来日から40年。2024年9月現在、平川動物公園は国内最多の18頭、コアラ飼育40年の歴史では通算105頭と、日本一の飼育頭数を誇ります。

【写真】コアラ丼にコアラボウル、可愛すぎる写真の数々(6枚)


平川動物公園で暮らすコアラを「どアップ」で撮影。よく見ると鼻の色や耳の形などに違いがある(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)

この40年の飼育員や獣医師の、努力とチャレンジの積み重ねで今のコアラ飼育は成り立っています。

ユーカリしか食べないコアラにとって、なによりもエサを安定的に確保するという課題。また、食べたユーカリの繊維や毒素を分解するために、1日20時間ほど寝たり休んだりする動物なので、普段通り寝ているのか、具合が悪くて寝込んでいるのかは、飼育員が経験を積まないと判断がつきません。

飼い始めた当時の飼育員は、それまでに接してきた動物とはまったく違う生態を前にして、それこそ未知の生き物を飼育しているような心持ちだったと思われます。


コアラはユーカリの毒素と、硬くて繊維の多い葉を消化分解するため、1日20時間も眠ったり休んだり。寝相にはコアラたちの性格や個性が表れ、たとえば“ノゾム”はいつも幸せそうな顔でよく眠る子だ(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)

また近年では、2019年〜2020年にオーストラリアで過去最大級の森林火災があり、約5万頭ものコアラが犠牲となりました。コアラの住処である森林の減少の影響で、市街地近郊にまで生息域が拡大し、交通事故で命を落とすコアラも数多くいます。

赤ちゃんのエサはお母さんのうんち

コアラには「生まれた日」のほかに、袋から出た「出袋日」があります。生後2〜3カ月すると育児のうの中で動いているのが分かるようになり、4〜5カ月で袋は大きく膨れ、おさまりきらない手足がはみ出ていることもあります。

そして、生後6カ月では体の大半が袋から出てくるのですが、赤ちゃんの全身が育児のうから出たことを飼育員が確認した日を「出袋日」として、動物園の台帳に記録します。ほんの一瞬、子供のお尻を持ち上げ、そこで性別も確認します。

出袋した赤ちゃんは「出てしまった!」という様子で、見慣れない光景にあたふたしていることが多いです。

エサ筒に座っているお母さんのお腹側にちょこんといるのですが、飼育員が近づくと「誰だ!?」と驚き、すぐ袋の中に入ろうとします。出袋しても1カ月くらいはそんなことをくり返していますね。

また、この頃の赤ちゃんのエサはお母さんのうんちで、これを「パップ」と言います。子育て中のお母さんのうんちには、ユーカリの葉っぱを消化するために欠かせない腸内細菌が含まれており、赤ちゃんはこのパップを食べることにより、ユーカリを消化吸収することができるようになるのです。

メスの袋の口は下向きで、かつ総排泄腔の近くにあります。ですから、子は袋の中から顔だけ出してパップを食べることができます。もちろん、うんちを食べるので顔は真っ黒です(笑)。

生後7カ月くらいでユーカリに興味を持ち始めた頃、袋の中に入る回数が少なくなり、母親のお腹や背中にしがみついている姿も観察できます。8カ月になると徐々に母親の横で一緒にエサを食べ、9カ月の後半くらいからは「あれ? お母さんの機嫌悪い?」という雰囲気になってきます。

10カ月を過ぎると母親の発情が戻ってくる兆候があり、子供も1頭で行動する時間が増えてきます。背中に子供を乗せながら、発情行動でそわそわ歩き回っている母親の姿も見られます。

育児期間に注視する点は「出袋後も授乳をちゃんとしているか」です。子供が母親の袋の方へ頭を突っ込んでいる体勢は授乳中の姿です。おっぱいを吸う音もたまに聞こえるんです。

SNSでも話題に!コアラの体重測定

しっかりユーカリを食べ、母親に授乳もしてもらい、生後7カ月くらいから行われる体重測定で毎週100gずつ増えていれば安心です。


子が出袋し、半月くらい経ってから体重測定を始める。母親の計測では、子も乗せたまま行う(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)


子どもだけの体重測定時に使う容器は成長に従い、どんぶりからボウルへ変更。SNSでも「コアラ丼からコアラボウルになっている!」などと話題に。一緒に入っているぬいぐるみは、鹿児島市のマスコットである火山の妖精「マグニョン」(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)


平川動物公園ではユーカリをミキサーにかけて、ドロドロにした「ユーカリペースト」を毎日コアラたちに与えている。「コアラのお食事タイム」で飲む様子が観察できることも(出所:『すごいコアラ! 飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ』)

逆に、母親は子育てに疲弊してくるので、疲れていそうであればユーカリペーストの量を増やす等でケアしていきます。子供といえど握力は強いので、母親の毛並みが薄くなることもあります。

親子共々健康に過ごすためにはまず、食べることが一番なので、日々のユーカリ採取にも力が入ります。

10月25日は「コアラの日」

日本での40年の飼育の歴史を通しても、まだまだ分からないことが多く、コアラの未来のためにはさらに取り組むべき課題があります。だからこそ、この記事をきっかけに少しでもコアラに興味を持っていただけたら嬉しいです。

10月25日はコアラ初来日を記念して、「コアラの日」と制定されています。平川動物公園は、そんなコアラたちと同じ空間を実際に体感できる動物園です。ぜひコアラたちに会いに来てください。

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(平川動物公園)