ケヴィン・グルタート監督 映画『ソウX』メイキングショット

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 ゲームをしよう、生きるか死ぬかはお前次第だ―。残酷で哲学的な試練の“ゲーム”を仕掛ける謎の殺人鬼ジグソウを登場させ、「ソリッド・シチュエーション・スリラー」なる言葉を流行させた21世紀ホラーの代表作『ソウ』(2004)から既に20年。邦題に「オールリセット」と銘打った前作『スパイラル:ソウ オールリセット』(2021)から一転、シリーズ10本目となる最新作『ソウX』(本日10月18日より全国公開中)は原点に回帰し、地獄のゲームマスター、ジグソウが完全復活。余命僅かな彼が企む最も個人的で、未だ知られざる戦慄の“ゲーム”が描かれる。

※映画の内容に関するネタバレを多く含みます。読み進める際にはご注意ください。

【写真】ジグソウ/ジョン・クレイマー役・トビン・ベルの姿も メイキングショット(3枚)

■原点回帰な設定となった本作、その出発点は?

 監督は編集者として第1作からシリーズに関わってきたケヴィン・グルタート。第6作『ソウ6』(2009)で監督に進出、続く第7作『ソウ ザ・ファイナル 3D』(2010)の演出も手がけ、シリーズのすべてを知り尽くした彼が、まさかのサプライズと凄惨な死の“ゲーム”を全編に散りばめ、ファン感涙のメモリアルな1本に仕上げている。

 「僕の人生は『ソウ』と共にある」と監督は断言する。「2007年は4本目をやってたな。あのときはトロントから帰ってきたとこだった。なんて、映画と共に記憶が甦るんだ」と。ただ、第1作に携わったときは、ホラー映画史に残る大ヒットシリーズになるとは夢にも思わなかった。「監督のジェームズ・ワンも続編は作りたくないと公言していたから。多くの観客に愛され、これだけの長寿シリーズになったのは本当に感無量だ」。


 本作ではジグソウが主人公となり、自分を騙した詐欺師たちへの壮絶な復讐が展開する。まさに原点回帰な設定だが、その出発点は前作『スパイラル:ソウ オールリセット』に感じた違和感にあると監督は明かす。「初めてジグソウが登場しない作品になったが、これは良くないんじゃないか、と感じたんだ」。そこで、脚本家のピート・ゴールドフィンガーとジョシュ・ストールバーグが、第1作と第2作の間に時系列を設定したエピソードを考案。ジグソウことジョン・クレイマー(トビン・ベル)の側から物語を描き、彼に心酔する協力者のアマンダ(ショウニー・スミス)も登場する。

 この優れたアイデアに監督は大いに興奮したが、トビンが最後に出演したのは8作目。ショウニーに至っては15年前の6作目だ。果たして彼らは、今も同じキャラを演じられるのだろうか。「有難いことに、2人ともセルフケアが素晴らしくて、若い頃の姿を無理なく演じることができた。この企画にも乗り気で、再登場を心から喜んでくれたよ」。

■“衝撃の新ゲーム”、脚本を読んだ製作陣が「これは無理」と断言


 『ソウ』シリーズの現場では役者に限らず、誰がアイデアを出しても良いんだ、と監督は明かす。もちろん、ダメ出しをすることもあるが、自由に発言できるクリエイティブな空気が『ソウ』のスピリットなのだと。「トビンは毎回、自ら台詞を沢山考えて現場に臨む。基本的に全て撮影はするけれど、長くなりすぎる」。本作の初編集版は何と2時間45分もあったという。それを2時間に切り詰め、更にもう少し削った。「トビンにしてみれば、そこは残してくれよ!って場面もあったと思うけどね」と監督は少々、残念顔だ。

 シリーズの根幹を継承して懐かしい面々を呼び戻しつつ、物語には新しい変化を盛り込む。今回はジグソウが頭脳派の詐欺師である強敵セシリア(シヌーヴ・マコディ・ルンド)に追い詰められることで、「ひとりの人間」としての側面が掘り下げられ、シリーズでも初めてとなる驚きのクライマックスが展開する。

 セシリアがジグソウの声をまねて、彼を「自分のゲームで自滅するなんてね」と嘲る場面は「これはやった!」と感激したと自画自賛する監督。だが、セシリアの相棒パーカーを演じたスティーヴン・ブランドが「僕らが優位な立場を示すために座って台詞を言ったらどう?」と提案した芝居は断った。「映画のルールに反するからね。ジグソウは劣勢にあっても非常に危険な男だ。でも、そのアイデアを経て、怒りに燃える彼がセシリアの髪を掴む芝居が生まれた。油断できないヴィランであると、より明確になったね」。


 狂えるジグソウが考案する今回の“ゲーム”は、目玉吸引に脳味噌すくい、熱線責めとどれも強烈だが、一番のお気に入りは? 「僕のベストは何と言ってもヴァレンティーナ(ポーレット・エルナンデス)が足を切る場面」と監督は興奮気味に語る。脚本を読んだ製作陣が「これは無理」と断言した衝撃シーンだ。「こんな場面をリアルに演じられる女優はいないって。でも、オーディションで第一候補になったポーレットは圧倒的なポテンシャルを持っていた。『ソウ』シリーズのダントツだったよ」と大絶賛だ。

 問題の足切りシーンではダミーボディや特殊メイクを複雑に組み合わせ、人体のリアルな動作を表現。監督にとって「最も厄介で不安が大きい」場面だった。撮影には2日間を要したが、女優のポーレット・エルナンデスは不平ひとつ言わず、何度も足切りに挑戦して絶叫し、汗まみれになり、涙を流した。もちろん、安全性は考慮したが「役柄に没入しすぎて本当に切っちゃうんじゃないかと、本気で心配になった」という。

 観客にとっても忘れ難き体験となる“ゲーム”の数々を、監督は常に全力で演出する。例えば、頭蓋骨を削除する場面ではあらゆる効果音を駆使して、苦悶の表情を捉え、思わず体が震えるような生理的恐怖を刺激したい。「自分なら出来るだろうかとつい、自問してしまうような悪魔的創意に満ちた“ゲーム”の数々が、『ソウ』シリーズの人気の秘訣だ。ローラーコースターと同じで、1番楽しいのは急降下だからね。そして、ああ生きてて良かった!とカタルシスを感じて貰いたい。きっと内臓がひっくり返るような体験が味わえると思うよ」。(取材・文:山崎圭司)

映画『ソウX』は、本日10月18日より全国公開中。