西田敏行さん

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 映画「釣りバカ日誌」シリーズなどに主演し、人間味のあるユニークな演技で親しまれた俳優の西田敏行(にしだ・としゆき)さんが東京都世田谷区の自宅で死去したことが17日、明らかになった。76歳だった。

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 【評伝】「池中玄太80キロ」や「釣りバカ日誌」のような愛きょうある市井の男を演じたかと思えば「アウトレイジ」「ドクターX」で見られるようなクセのある悪役も難なくこなす。大河ドラマでは歴史上の重要人物を説得力たっぷりに演じきる一方で、三谷幸喜作品や宮藤官九郎作品などのコメディー演技も絶品だった。

 人が内面に隠し持つ微細な心のひだを自在に演じ切る西田さんは、主役から脇役まで引っ張りだこ。どんなキャラクターでも硬軟自在に演じ分け、体温の乗った人間味ある芝居で存在感を放った希代の演技巧者の原点は、幼少期の経験にあった。

 5歳の時に父を亡くし、母が再婚。実母の姉夫婦の元で養子として育った。17年のスポーツ報知のインタビューでは「『かわいい子でいないと僕に居場所はない』って、かわいい子を一生懸命に演じました。そんなような思いが俳優という意識につながっていったと思います」と述懐していた。養父母に認めてもらいたい、といういじらしい自己表現はやがて、かけがえのない武器に変わった。

 病に苦しんだ晩年だったが「好々爺(こうこうや)にはなりたくない。生々しいもの、怒りや嘆きを持ち合わせて、まだまだ表現者としてのポテンシャルを探ってみたい」と貪欲だった。生涯で一度演じてみたいと公言していたのは、昭和の政界で存在感を放った田中角栄さん。「ヒーローでもヒールでもなく、普通のオヤジが『角栄』を演じ切ったのかもしれないとも思う。演じられたら幸せだなあ」と願っていたが、“西田版・田中角栄”を見ることは、もうかなわなくなってしまった。