高橋里奈

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山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」をバックに、男女の淡い恋模様を描いたのが、JR東海「クリスマス・エクスプレス」の有名なシリーズCMである。初代・深津絵里、2代目・牧瀬里穂に続き、3代目ヒロイン役を務めた高橋里奈が当時を振り返った。

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「16歳で芸能界のお仕事を始めたのですが、自分をアピールするのが苦手で‥‥テレビの仕事でもうまくしゃべれないし、人前で歌うと緊張してしまう。思い描いていた理想とのギャップを感じていました」

どこか自身の芸能活動に収まりの悪さを感じていた。そんな彼女の人生を大きく変える初のCM出演は22歳だった。日本のバブル景気が崩れ始めた90年、すでに話題となっていた同シリーズのCMオーディションに足を運ぶと─。

「監督と1分くらい話をしただけでオーディションは終了。『ダメだったのかな』と帰ろうとしたら、スタッフが走ってきて呼び止められました。何かの手違いで、私が競合会社のCMに決まっていると伝わっていたそうです。その誤解が解けて、改めてオーディション。そこでまた監督とお話をして、その日の夕方には出演が決まったと連絡がありました。あのまま帰っていたらと思うと…」

クリスマスの夜、華やかなショーウインドーに飾られたドレスをさみしく見つめる高橋演じる女性。公衆電話から恋人に連絡をするがつながらない。落胆したまま自宅に戻ると、ドアに絆創膏で貼られたメモ書きが。それを見た瞬間に満面の笑顔になった彼女は、恋人のもとへと走り出す。

「深津さん、牧瀬さんのCMを見て、『すごく素敵だな』と思っていました。それを私がやることになって、何とも言えない不思議な気持ちでしたね。2人より年上だったこともあって、内容は少し大人のストーリー。当時では珍しい90秒のロングバージョンで、映画のように作り込んだ撮影は3〜4日かけて行われました」

ドアに貼られたメモを見て、暗い表情から一転、あふれんばかりの笑顔に変わるシーンは演技ではなかった。

「あれは素の笑顔です。撮影は設定だけ伝えられて、自由なリアクションで行われました。私は決められたセリフや演出があったりすると、すごく考えてしまうので、そうするとわざとらしい作り笑顔になっていたと思います。絆創膏で貼ってあったメモに『今年もいつもの場所で』と書いてあったのが目に入った時、自然と私もうれしくなって、あの笑顔になったんです。一発OKでした」

自然体で臨んだCMは話題を呼び、不朽の名作として今なお多くの人の記憶に残っている。

「クリスマスの時期になると、インスタグラムにメッセージをいただいたりします。かつてのCMでの表情が、私の高校生の長女と似ていると言われることも。子供たちが小学生の頃、『クリスマス・イブ』が町で流れて『これ、ママの歌?』と聞かれたこともありました(笑)」

時代を超えても色褪せることなく、支持される理由を本人はこう分析する。

「懐かしくなって、たまに見返すことがありますが、『頑張らなきゃ』って、今でもエネルギーをもらいます。あの時、CMを見た誰もがあの女の子に恋をしていたと思うんです。私も男の子だったら、絶対あの子に恋をしていると思います(笑)」

同CMシリーズは、クリスマスは恋人と過ごす─というスタイルを若者の間に広めた。ヒロインを務めた、高橋自身のクリスマスシーンを振り返ってもらおう。

「今みたいにスマホがなかったので、彼氏、ボーイフレンド、友達に限らず、なかなかつながらない時代でした(笑)。家に電話していなかったら、それまでですもの。個人的には仕事が忙しかったので、CMみたいなクリスマスを送ったことはなかったな。お正月の帰省を楽しみにしていたくらいです(笑)」

その後、「キリンラガービール」のCM(92年)で俳優・堤真一と共演。ユーミンの名曲「無限の中の一度」をバックに、堤が演じる彫刻家と高橋が演じるカメラマンが徐々に心を通わせていくラブストーリーだった。撮影は「クリスマス・エクスプレス」と同じ手法だったようだ。

「市川準さんが監督だったのですが、セリフはなく、『こんな感じで』と言われただけでした。だから自由な雰囲気の中、自分らしさを発揮できたと思います。10日間かけて撮影したんですよ」

現在、モデルとして活躍する一方、「RINa PRivé」「irima」という2つのブランドのプロデュースも行っている。

「『クリスマス・エクスプレス』のCMのように、いつまでも観てくださる方の心に残るような物、消耗品ではなく、自分が本当に思う大切な物を届けたいですね」

あくまでも自分らしく、自然体というスタンスは今も変わらない。

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