猫は興奮したりすると、ユニークな動きで向かってくることがある。猫飼いたちは愛情をこめて“やんのかステップ”と言ったりもするが、この姿を描いた作品Xで注目を集めている。

オレはやるぜ!

日本画家として活動する小熊香奈子さん(@dorodangobonta)が投稿したのは、猫を題材とした2枚の絵。盛り上がる背中や膨らんだ尻尾、鋭い眼光など、やんのかステップが見事に表現されている。

2枚の絵は対になっていて、猫の姿勢や色遣いも違うように見える。足元には毛玉なども転がっていて「これで遊んでいたら興奮したのだろうか」といった、想像もかきたてる。

その完成度の高さもあり、小熊さんの投稿はネットで話題に。「屏風にしたい」「毛の描写がゴイゴイスー」などの反応が寄せられ、4万2000以上のいいねを集めた(10月1日時点)

小熊さんは猫が体を丸める様子など、猫のさまざまな魅力を描いているが、今回はなぜ、やんのかステップを題材としたのだろう。きっかけや作品制作の流れを、小熊さんに聞いた。

「作品にしたい」モデルは家猫

――猫の絵を描いているのはどうして?

きっかけはコロナ禍です。2020年にどこにも行けない自宅待機生活の中で、一緒に暮らす猫を見ると、のんびりとした振る舞いに心が癒されました。仕草が魅力的でスケッチするうちに「作品にしたい」という気持ちが湧いてきて、猫の作品を描き始めました。

――作品のモデルとなった猫はいる?

家猫の「コイモ」がモデルです。近所で弱っているところを保護してうちの子になりました。推定6歳の“キジトラ女子”で、性格はのんびり屋ですが、家族の足首をハントするワイルドな一面もあります。人見知りで、私たち家族にしか甘えてこないところが可愛く愛おしいです。

――今回のやんのかステップはなぜ描いた?

コイモは子猫の時からやんのかステップをしていましたが、今も遊びが絶好調だと披露します。一瞬ですが、シルエットや猫らしいしなやかさが美しいです。やんのかステップを題材にした作品も見ることがあまりないので「見たいものは描いてみよう!」と制作しました。

猫のポーズには「静と動」がある

――やんのかステップを描いて感じたことは?

動きのあるポーズな上、ステップをするのも一瞬なので大変でした。シルエットを覚えて紙にざっくりと描き、細かなところは観察してパーツごとに少しずつ描きました。猫のワクワクする気持ちや躍動感が伝わるよう、表情や体のライン、毛並みの表現に気持ちを込めました。

――やんのかステップの作品、2枚で対になっているのはなぜ?

描くうちに、コイモのポーズにも「やるのか?」と気持ちを昂らせる姿と「さあ!飛びかかってやるぞ」という姿、「静と動」があることに気付きました。2枚の写生が狛犬や仁王像のように向かいあったので、対で描いたら面白いと思いました。狛犬ならぬ“狛猫”ですね。

(作品としては)静は毛を逆立てて、睨みをきかせながら、静かに気持ちを高ぶらせる感じ。動はいよいよ飛びかかる寸前で、ほんのかすかに口先を開けた描写にしました。

――普段の作品はどのようにして完成するの?

コイモの魅力的なポーズや仕草を描き留め、ピンとくるものをピックアップし、作品にします。画材は墨、胡粉、水干絵具、岩絵具を使っています。毛を描く時は細い筆を使って一本一本描きます。絵の大きさによりますが、1枚を1週間くらいで仕上げることが多いです。

制作数は約80点!お気に入り作品「のび」

――作風は日本画のタッチに見えるが?

はい、日本画家として活動しております。(日本画のタッチで描いているのは)キジトラ猫の美しい毛並みや模様、深い色味を表現するのに、墨や顔料といった和の画材での描写が合う気がしているからです。墨の細い線を重ねて猫の毛を表現するのが、私にとって楽しいです。

――描いた中で、お気に入りの作品はある?

猫を本格的に描き始めてから約4年になりますが、大小含めると80点ほど描きました。すべて、コイモがモデルとなっています。お気に入りは「のび」という、背伸びをしている絵です。猫らしい仕草がいい感じに描けた気がして、とても気に入っています。

――今後の目標はある?

これからもコイモとの暮らしで気付いた、猫の魅力を描きたいです。そして先の偉大な作家が描いた素晴らしい作品から画材や表現なども勉強していきたいです。猫を通して、日本画の表現を探っていきたいですね。

やんのかステップの絵は、コイモちゃんへの深い愛情から描かれていた。小熊さんは作品をXのアカウントに投稿しているほか、公募展や企画展などで発表しているというので、機会があれば訪れてみるといいかもしれない。

(画像提供:小熊香奈子さん)