ダンロップ「夏冬兼用タイヤ」で市場激変の可能性
夏タイヤ/冬タイヤという概念をなくすかもしれないポテンシャルを持つ(写真:住友ゴム)
住友ゴムから新しいオールシーズンタイヤのダンロップ「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」が、10月1日より発売される。この製品の特徴は、住友ゴムの新技術「アクティブトレッド」を採用していることだ。
アクティブトレッドは、水や温度に反応して性質を変化させるゴムの技術で、シンクロウェザーでは、水と温度によってタイヤの接地面のゴムを柔らかくする。
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タイヤ接地面に水が触れることでゴムが柔らかくなり、濡れた路面でグリップ力を高める仕組みだ。また、一般的にゴムは冷えると固くなるが、シンクロウェザーでは冷えていてもゴムが柔らかくなるため、凍結路でもグリップ力を維持できる。
ポイントとなるのは、タイヤに触れる水がなくなったり温度が高まったりすると、“元の硬さに戻る”ということ。この特性により、シンクロウェザーは、夏場のしっかりとした剛性感と濡れた路面のグリップ力、そして冬場の凍結路でのグリップ力のすべてを高い次元で実現したという。
冬の北海道と春の岡山でシンクロウェザーを体験
実際に、真冬の北海道と春先の岡山で実施されたメディア向け試乗会で、シンクロウェザーを試してみて、非常に驚いた。
冬の北海道では、オールシーズンタイヤながら1世代前のスタッドレスタイヤと同等の氷上でのグリップ力と、雪上での優れたコントロール性を実感できた。
真冬の北海道で乗った限り、雪上での性能にまったく不満はなかった(写真:住友ゴム)
シンクロウェザーは、スノーフレークマークとアイスグリップシンボル(国連既定の氷上性能をクリアしていることを示す)の両方が刻印されており、冬タイヤとして認められている。高速道路の「冬タイヤ規制」でも走行可能なタイヤなのだ。
また、春の岡山では、夏タイヤ並みのウェット路面のグリップ性能と、静粛性を含めた快適な乗り心地を確認できた。もちろん、乾いた路面でスタッドレスタイヤと比較してみれば、グリップ力は圧倒的だ。
ちなみに夏場の走行フィーリングは、直進性がよく、ゆったりと乗り心地が良いというもの。個人的には、コンフォート向けの印象が強かった。セダンやSUV、ミニバンなどに向いているだろう。
ドライ路面ではコンフォートな印象。グリップ等に不足はない(写真:住友ゴム)
これまでのオールシーズンタイヤにあった、「夏タイヤとしても冬タイヤとしてもそこそこ」という、中途半端な印象を塗り替える試乗体験となった。“次世代”と名乗るだけの性能を備えているといっていいだろう。
なぜ、日本はスタッドレスタイヤが根強いのか?
夏タイヤとしても冬タイヤとしても十分な性能を持つとなれば、日本のタイヤ市場を変革させる可能性もあるかもしれない。
2023年、日本では4704万9000本の市販用タイヤ(乗用車用)が出荷された。そのうちの66.6%が夏用タイヤ(オールシーズンを含む)で3133万2000本、冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)が33.4%の1571万7000本となる(一般社団法人日本自動車タイヤ協会:JATMA調べ)。
つまり、全需要のうち、3分の1がスタッドレスタイヤなのだ。それに対して、オールシーズンタイヤは、わずか数%しかないと言われている。ちなみに、北米市場は6〜7割がオールシーズンタイヤだという。
シンクロウェザーのトレッドパターン(写真:住友ゴム)
こうした数字からもわかるように、日本はスタッドレスタイヤが強い市場だ。その理由は、日本の気温にある。日本の冬の気温は、0℃前後を行き来することが多い。その温度域だと、雪が降っても解けやすく、それが凍ってアイスバーンになってしまう。
そのため、凍った路面に強いスタッドレスが強く支持され、凍った路面を苦手とする旧来のオールシーズンタイヤは、あまり売れ行きがよくなかったのだ。
オールシーズンタイヤの人気が高い北米の寒冷地域では、マイナス10℃やマイナス20℃もめずらしくない。ここまで気温が低いと雪が解けないため、路面がツルツルのアイスバーンにならないのだ。
そのため日本と違って、オールシーズンタイヤが使いやすい。地域によっては、オールシーズンタイヤが新車装着となっているほどだ。
そんな背景の中で、シンクロウェザーは、オールシーズンタイヤでありながら夏・冬それぞれの性能を格段に高めてきた。特にスタッドレスタイヤに匹敵する冬場の性能を持つことは、注目に値する。
真冬の北海道でテストしたときの筆者。このテスト車両はメルセデス・ベンツ(写真:住友ゴム)
1年を通じてオールシーズンタイヤで済まそうというユーザーも、増えることだろう。サイズのラインナップも15〜19インチと幅広いから、多くの車種で装着できる。
ブリヂストンは国内にオールシーズンタイヤなし
価格的にはダンロップ・ブランド内でも、もっとも高額な商品となる。しかし、スタッドレスタイヤとホイールを購入する費用、オフシーズンに保管しておく場所(場合によっては費用がかかる)、そして交換する手間を考えれば、コスパは悪くない。シンクロウェザーが、ヒット商品となるポテンシャルはある。
ウェット路面もテストしたが、オールシーズンタイヤのネガを感じることはなかった(写真:住友ゴム)
そこで気になるのが、ダンロップ最大のライバルであり、市場の王者であるブリヂストンの動きだ。ブリヂストンは、国内シェアの半数以上を抑える圧倒的強者である。
特にスタッドレスタイヤの「ブリザック(BLIZZAK)」は、市場から高い評価を得ているため、これまでブリヂストンは、国内向けにオールシーズンタイヤを導入していなかった。
しかし、国内市場でオールシーズンタイヤの販売が伸びるようになれば、路線変更もありうるだろう。「次世代オールシーズンタイヤ」を自称するシンクロウェザーが、国内タイヤ市場のゲームチェンジャーになる可能性は十分にある。この冬のタイヤ市場の動きには、要注目だ。
(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )