植物が豊かに生育するためには、十分な日光を浴びて光合成することが重要です。しかし、アルフレッド・ウェゲナー研究所のクララ・ホッペ氏らの研究チームが、光のほとんど届かない北極海の底で光合成を行う植物を発見しました。

Photosynthetic light requirement near the theoretical minimum detected in Arctic microalgae | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-51636-8

Plants can grow in near-darkness, new research shows - here are three promising benefits

https://theconversation.com/plants-can-grow-in-near-darkness-new-research-shows-here-are-three-promising-benefits-238469



ホッペ氏らの研究チームは、光センサーを北極海の水深50メートルまで下ろし、水中の植物が存在しなくなる境界における光レベルを測定しました。その結果、よく晴れたヨーロッパの屋外の典型的な光条件の3万7000分の1〜5万分の1となる、わずか0.04 μmol m-2 s-1の光レベルで繁茂する微細藻類の存在が確認されました。これまでの研究では「0.01 μmol m-2 s-1が植物が繁茂できる限界の光レベル」であることがコンピューターを用いたシミュレーションで示されており、今回の発見で理論上の限界に近い条件での光合成が実際に自然界で確認された形となります。

エッジヒル大学の生物学講師であるスヴェン・パトケ氏によると、ホッペ氏らの発見は植物科学の分野にさまざまな可能性をもたらすとのこと。以下はその一例です。

◆作物収穫量の増加

イギリスでは近年雲量が増加傾向にあり、2024年には1900年以降で最悪の日照時間となっていることがわかっています。また、赤道から離れた国や地域では冬の間、作物が雪に覆われてしまい、生育するための日光が不足することがあります。

しかし、今回発見された北極海の微細藻類を研究することで、光がほとんど届かない場合でも収穫できる作物を開発することができるほか、バイオテクノロジーのアプローチを用いて既存の作物を変化させることで、短い日照時間でもより多く作物が収穫できる可能性が示されました。



◆持続可能な農業

近年では温室や垂直農法など、屋内での作物の生産が盛んになっています。しかし、これらの農法は人工的に照明を浴びせて作物を生育させることから、エネルギーを大量に消費することが指摘されています。

そこで、微細藻類の研究によって作物の収量や味、匂いを損なうことなく、より低い光の強度で光合成できるように設計できれば、人工照明のエネルギー需要を減らすことができるほか、コストが削減され、値下げという形で消費者に還元されます。さらに、テクノロジーの進歩によって二酸化炭素排出量の削減にもつながる可能性が期待されています。



◆宇宙での農業の実現

将来的な月や火星などでの長期滞在ミッションにおける主な課題の1つは、「どうやって食物を入手するか」というものです。月や火星の場合、地球よりも太陽から届く光量が少ないため、エネルギーをあまり使わない高効率な食物生産方法が求められています。

今回の「ほとんど光が届かない場所でも光合成が可能」という発見は、作物が宇宙船など地球以外の場所でも栽培できる可能性を示唆しています。パトケ氏によると、ほうれん草やレタス、ジャガイモなど、宇宙での栽培に適した作物と今回の研究を組み合わせることで、宇宙空間での長期的なミッションにとって重要な第一歩となる可能性があるとのことです。