若村麻由美が六条御息所と娘の秋好中宮、岡本圭人が光源氏を演じる 『若村麻由美の劇世界「あこがれいづる」源氏物語より』の上演が決定
2024年11月22日(金)~24日(日)銕仙会能楽研修所にて、『若村麻由美の劇世界「あこがれいづる」源氏物語より』が上演されることが決定した。
2011年にスタートした若村麻由美の劇世界は、役者 若村麻由美が未知なる演劇領域に挑戦する実験的プロジェクト。これまでの劇世界では、およそ800年以上前の源平合戦を琵琶法師が伝えた『原典・平家物語』や19世紀のパリを生きた彫刻家カミーユ・クローデルの半生を振り返る『ワルツ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~』、近松門左衛門作の原文による『原文・曽根崎心中』を上演してきた。
若村麻由美 (C)KEITA HAGINIWA 2024
今回の劇世界では、平安時代中期に紫式部が書いた世界最古の長編小説『源氏物語』を演出家 笠井賢一が語り芝居として書き下ろし上演する。
若村麻由美 (C)KEITA HAGINIWA 2024
若村麻由美は、底知れぬ情念の深淵を描いた『憧れいづる魂 - 六条御息所』で六条御息所と娘の秋好中宮を演じる。“鎮魂としての芸能の本質”を描く本作で、役者として円熟期を迎えた若村が演じる六条御息所に期待が高まる。
岡本圭人 (C)KEITA HAGINIWA 2024
岡本圭人 (C)KEITA HAGINIWA 2024
また、今回の劇世界では岡本圭人をゲストに迎え、岡本は『光添へたる夕顔の花 - 光源氏』で『源氏物語』の主人公光源氏を演じる。若村の背中を追って成長を続ける岡本が初の一人芝居、そして初の古典劇に挑戦する。
若村麻由美 コメント
若村麻由美
今回の冒険企画『若村麻由美の劇世界』は、時空を超える幽玄の劇空間“能舞台”で、およそ千年の昔に書かれた日本が世界に誇る『源氏物語』より「六条御息所」にスポットを当てた二作品を発表します。
現代演劇の役者が古典作品に取組むことは雲の上の峰を目指す意気込みなのですが、前回の『原文・曽根崎心中』を観劇された岡本圭人さんから「僕もやりたいです!」と言われた時は驚きと共に古典に挑戦するきっかけになれたことが素直に嬉しかったです。というわけで、瑞々しい感性の圭人さんへの書き下ろし『光添へたる夕顔の花 - 光源氏』が誕生します! 17歳の光源氏と24歳の六条御息所の恋の哀しみの始まり。私は六条御息所の生霊として登場します。また、『憧れいづる魂 - 六条御息所』では、この世を去った後も光源氏への執着に苦しむ六条御息所の亡霊と、亡き母を慕う娘の秋好中宮の二役を語り芝居として演じます。
この“もの珍しき冒険”を能舞台で目撃していただけましたら幸いです。
岡本圭人 コメント
岡本圭人
源氏物語より『光添へたる夕顔の花 - 光源氏』で光源氏を演じます、岡本圭人です。
以前、若村麻由美さんの『曽根崎心中』を観劇したときに、見終わったあとで劇場の座席から離れるのが名残惜しいほどに、若村さんの劇世界、そして日本の古典劇の魅力にすっかり虜になっていました。その時の経験がずっと忘れられず、いつか必ず自分も日本の古典劇に挑戦してみたい!と心から願っていました。この度、若村さんがライフワークとされている『若村麻由美の劇世界』に参加できることがとても嬉しく、光栄に思っています。
日本最高峰の古典といわれ、千年前に紫式部によって書かれた『源氏物語』を演出家の笠井賢一さんが今回の公演の為に語り芝居として書き下ろしてくださっています。
初の一人芝居。初の日本の古典劇。初の能舞台。
しっかりと稽古を重ね、今の自分にしか出来ない光源氏をお客様にお届けします。
「よりてこそ それかとも見め黄昏に ほのぼの見つる 花の夕顔 」
お会いできる日を楽しみにしております。
(C)KEITA HAGINIWA 2024
【光源氏と六条御息所 解説・あらすじ 笠井賢一】
『源氏物語』のなかでの六条御息所は、物語を通しての光源氏の色好みの負の半面を照らし出す、重要な存在です。
六条御息所は大臣家の娘として、知性と品位をそなえた美しい女性として育ち、十六歳で皇太子(源氏の父桐壺帝の弟)妃となり、宮廷での華やかな日々を送ります。そして一人の姫宮を設けます。しかし二十歳のときに皇太子に先だたれ、若くして未亡人になってしまいました。十七歳の光源氏は七歳年上の高貴な未亡人に心惹かれ、ひたむきに思いを訴えついに愛人とします。しかし彼女の気位の高さや息苦しいほどの情の深さに、光源氏は恋の情熱を失い、光源氏の訪れも途絶えがちになります。おりしも娘が伊勢の斎宮(天皇の代替わりに未婚の皇女が定められ伊勢の神に仕える)に定められたことを機に、娘とともに伊勢に下り、光源氏との関係を断ち切ろうかと逡巡しています。夏、賀茂の斎院(賀茂神社の神事に仕える未婚の皇女)御禊(新斎院が賀茂河原で禊をする葵祭のなかの重要な儀礼)に供奉する光源氏をひと目なりとも見たいと御息所は忍んで出かけます。そこへ光源氏の子を身ごもっている光源氏の正妻葵上の車が、後から来たにもかかわらず、お忍びの御息所の車を押しのけ、行列も見えない奥に追いやり、車を打ち壊してしまいます。名高い車争いです。気位の高い御息所には致命的な屈辱でした。その結果六条御息所の愛の妄執は生霊となって知らぬまに、お産の床に伏せる葵上に憑き祟り、ついには葵上の命を奪ってしまうのです。その場面に立ち会った光源氏は、たがいに愛の執心の恐ろしさを思い知り、御息所は翌年、光源氏との愛を清算すべく伊勢に下っていきます。その最後の別れをしたのが嵯峨野の野宮(斎宮が伊勢に下る前に精進潔斎する場)でした。
六年後、朱雀帝から藤壺の子冷泉帝(実は光源と藤壺との不義の子)に代替わりで、六条御息所と斎院の役を終えた娘は帰京し、六条御息所は重い病となって出家、光源氏に遺言として娘の後見を託し、同時に色めいた心は持たないようにと念をおして他界します。光源氏は藤壺と相談のうえ冷泉天皇の中宮(秋好中宮とよばれる)として入内させ、母御息所とはちがって平安な暮らしをわがものとするのです。
『源氏物語』では、六条御息所は死んでから後も死霊となって、紫上や女三宮に取り憑き、愛の妄執のゆえに成仏出来ないと光源氏に訴え、そして光源氏の一見華麗な愛の遍歴の裏側をいやおうなく照らし出します。光源氏の栄華を象徴する六条院は、御息所の死後娘の秋好中宮が相続した御息所の旧邸も取り込んで大きくしたものでした。六条御息所の魂魄はこの地にとどまって人々の愛憎の推移をみることを余儀なくされたのです。
若村麻由美の『憧れいづる魂 - 六条御息所』 は娘の秋好中宮が、母が死後も成仏できずに光源氏への妄執に苦しんでいるという世間の噂を耳にするにつけて、せめて私が供養の花を捧げ祈る所から始まります。そこの六条御息所の霊が現れて光源氏への断ち切れぬ切れぬ思いを語り舞うのです。
岡本圭人の『光添へたる夕顔の花 - 光源氏』 は、光源氏が十七歳で六条御息所のもとに通い始めたころ、その道すがら夕顔の花の縁で知り合った女性とのはかなくもつかの間の恋。二人が一夜を過ごした廃屋で、六条御息所の生霊の出現で、悲劇的な結末を迎える物語です。