エアバスが現在生産している旅客機のラインナップのなかで、異色の経歴を持つモデル「A220」。この機体がすでに1000機近い受注を獲得しています。その要因はなんなのでしょうか。

もともとは「別メーカーの旅客機」

 ヨーロッパの航空機メーカーのエアバスが2024年現在生産している旅客機のラインナップのなかで、異色の経歴を持つモデルがあります。同社最小の旅客機で、もっとも近年に就航した“末っ子”機「A220」です。この機体がすでに1000機近い受注を獲得しています。その要因はなんなのでしょうか。


エアバスA220(島田 駿撮影)。

 エアバスA220はもともと、カナダのボンバルディアが同社のリージョナル(地域)旅客機CRJシリーズの後継に開発した「C」シリーズというモデルです。当初は、客席数100〜120がC100、120〜150人乗りはC300と名付けられ、ボンバルディアにより初飛行も行われています。

 しかし、初飛行から5年後の2018年、両社の業務提携とボンバルディアの旅客機部門撤退により、エアバスの“一員”となり、名称もC100がA220-100、C300がA220-300へ変更されています。

 しかし、エアバスには当時、同じ100席クラスのキャパシティを持つ旅客機としてA318がありました。100〜150席クラスとして専用設計されたA220に対し、A318は、同社のベストセラー単通路機A320の胴体を短くした改良型でした。

 このためかA220に押されるように、A318ではエンジンなどを更新した次世代のneoシリーズではつくられませんでした。そうしたことから、現在ではA220がエアバスの最小クラスの“推し”になっています。

 A220は最近ではリージョナル(地域)航空が大型の機材へ更新する際に都合の良い機体とみられていますが、その始まりとなった1社が米国のLCC(格安航空会社)ジェットブルーといえるでしょう。

 ジェットブルーはちょうどCシリーズから「A220」にモデル名が改称された2018年7月、エンブラエルE-190の更新機材としてA220-300の導入を発表しています。現在確定している発注数は90機ということです。

「A220」なぜ売れやすい?

 かつてE-190を真っ先に受領したのもジェットブルーでしたが、A220は低燃費のPW1500Gエンジンの使用も合わせて、前世代機と比べて1座席あたりの燃費が25%減り、騒音や二酸化炭素排出量も削減されるなど環境によりやさしく、こうした背景がジェットブルーの導入につながったとみられています。

 機内についても工夫が凝らされています。筆者は、まだボンバルディアCシリーズと呼ばれていた2013年9月の初飛行から約半年後に客室の実物大模型を見学する機会がありましたが、機内が思った以上に広く、一部トイレのドアでは、便座正面に加えて、便座横にもドアを設けて開口部を大きくしていたのを覚えています。

 また、客室も横3−2列と独特で、「同クラスの機体とくらべてもっとも横幅が広い」とされる座席や大型の手荷物棚、「ボーイング777より大きい」と同社がアピールする大型の客室窓など、「ワイドボディ機(複通路機)なみの居住性」も強みとされています。


エアバスA220。他のエアバス機と“顔”が異なるようにも見える(島田 駿撮影)。

 A220は2024年7月の英国ファンボロー航空ショーでもジェットブルー塗装の-300(N3203J)が展示されましたが、こうした大きなショーで特定の航空会社へ納入した機体を展示するのは、メーカーがその航空会社へ敬意を表していたり新造機だったりもします。

 また、ジェットブルーに納入される機体は米国で生産されるため、米国内の雇用にも貢献します。A220自体も2026年までに現在ひと月あたり6機の生産数を14機へ引き上げるとしているので、雇用へ追い風となり、ひいては米国内でのA220のセールスに良い印象を与えるでしょう。エアバスのお膝元であるヨーロッパはもちろん、A220製造国であるカナダ・アメリカと、それぞれの国の航空会社に売り込みやすいモデルであるわけです。

 ライバルとみられる126〜170席のボーイング737-7と120〜146席のエンブラエルE195-E2は、いずれも既存機の改良型で、A220のみが完全な新規設計です。これもエアバスがA220のセールスをかけやすい背景かもしれません。