【エディージャパン検証】なぜFB李承信の”妙策”は機能したのか 決勝フィジー戦で注目したいポイントは?
サモアから49点を奪った日本が快勝した(C)産経新聞社
ラグビー日本代表(世界ランキング14位、以下ジャパン)は9月15日にパシフィックネーションズカップ準決勝でサモア代表(同13位、以下サモア)と対戦し、49-27で勝利した。ジャパンは2023年フランスW杯予選プールでの勝利に続き2連勝を飾り、通算成績を7勝12敗とした。
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対戦日2日前に発表された先発メンバーを見て、驚いたファンは多かったのではないか。今までジャパンではSOとして出場してきた李承信がFBで出場することになっていたからだ。
前節のアメリカ戦では、後半途中から出場した立川理道との兼ね合いで、FB相当のポジションでのプレーが散見されたが、先発でのFB起用は初めてのこと。キックやパスなどの基本的なスキル、味方と敵の陣形を俯瞰的に見る視点など、SOとFBには共通して要求されるものは多い。
しかしFBは相手キックのキャッチの際の競り合い、防御ラインの最後尾でのタックルなど、相手と身体をぶつけ合う機会が多い。身体が小さく、コンタクトプレーにはやや難ありと見られていた李が、パワーランナー揃いのサモアの攻撃に対処できるのか少なからず不安はあった。新しい布陣を試すのであれば、サモアに比べれば分のよかったカナダ戦、あるいはアメリカ戦の方がよかったのではないかと感じた方もいたはずだ。
しかし、そんな心配は杞憂に終わった。サモアはハイボールを上げてその落下地点に殺到するというような攻撃は仕掛けて来なかったし、FW第三列、左右両CTBを中心に、サモアの突進をゲインラインの前で食い止める場面が多く、李が1対1で敵プレーヤーにタックルに行かなければならないような場面はほとんどなかった。
むしろ、立川が第一SO、李が柔軟に動き回る第二SOの役割を果たすことによって、相手防御陣を掻き乱し、トライに結びつける効果の方が大きかった。
ディラン・ライリーが最初に奪ったトライは、ライン参加してきた李のゴロパントから生まれた。サモアの守りは速くて堅いが、防御ラインの選手が素早く前に出てくる分、防御ラインの裏には広いスペースがあることを事前の分析でつかんでいたのだろう。SOで培った、防御の隙間を見抜く目で、絶妙な位置に走り込んだ上で転がしたキックは見事にトライにつながった。また長田智希が奪った3本目のトライも、李のキックパスによるものだった。相手タックルに体勢を崩されはしたが、キックを蹴ることができたのは、SOよりも相手から遠いFBに位置していたことで、ほんの0コンマ数秒程度の「間」が生じたからこそだ。
合計7トライを挙げた攻撃は見事。新布陣が奏功したことに加え、相手のミスにつけ込んでの逆襲もこの日は数多く見られた。ジャパンが格上の相手と対戦した時の「いいところまでは攻め込むが、最後の最後でミスをして、得点できないばかりか、逆襲を喰らってトライを奪われる」という、選手も観客も感じるイラつきを、この試合ではサモア、およびサモアの応援団に味あわすことができていた。
一方で前2戦で度々見られたハンドリングエラーがこの試合でも散見された。幸いなことに、サモアの方にジャパンを上回るハンドリングエラーが見られたために得点に結びつくことはほぼなかったものの、依然として課題であり続けている。
ラインアウトも安定していなかった。こちらも幸いなことに敵ボールになる場面は少なかったが、意図したポイントとは別の場所のプレーヤーがなんとか確保したという場面が3度ほどあったと記憶している。
不用意なキックからのカウンターアタックを止めきれずに失ったトライもあった。1対1の場面を作られると、まだまだ力負けすることが多いので、キックの飛距離のコントロールの精度向上と、確実にダブルタックルの餌食にできるようなキックチェイス方法を検討すべきだろう。
決勝の相手となるフィジーは、奔放なランに加え、強力なセットプレーを武器に攻撃的なラグビーを展開してくる、世界ランキング12位の強豪国だ。多くの選手が幼少時からラグビーに親しんでいるため、ハンドリングが実に巧みで、地面に落ちているボールをひょいと持ち上げてしまう器用さをほぼ全ての選手が持ち合わせている。それゆえ、ハンドリングミスは即トライに結びつく危険性を秘めている。ジャパンがどこまで隙のないラグビーをすることができるのか。誰がどこのポジションで出場するのかと併せ、大いに楽しみだ。
[文:江良与一]