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国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、年収1,000万円超の人の割合は全体の6%程度。残りの94%の人からみれば、羨ましい限りですが、そんな高収入の人であっても、老後の不安はつきないようで……。本記事では近藤さん(仮名)の事例とともに、バブル前の日本を知る世代へのマネープランにおける注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。

大学卒業後に大手企業に入社し、家族にも恵まれ順風満帆

現在58歳の近藤さん(仮名)は、有名私立大学を卒業後、都内の大手企業に就職することができ、30歳で結婚しました。その後、36歳のときには、長男、次男、長女と3人の子どもを授かり、大変幸せな日々を過ごします。40歳のときの年収は900万円。仕事も順調です。妻は、一番下の子が少し手を離れてきたタイミングで、扶養控除内で近所のスーパーのレジ打ちを始めます。50歳のときには、長男が私立大学へ進学。その後の2人も私立大学へ進学したそうです。

近藤さんは、子どもが生まれたタイミングで、学資保険に加入しました。保障内容は、それぞれ大学入学時に200万円を受け取れるというもの。このとき、近藤さんは将来のことをそれほど気にしていませんでした。会社に出入りしている保険外交員に勧められたことがきっかけで、「一般的にみんな入っているものだから入っておくべきなのかな」と気楽に考え、加入を決断したそうです。

また、36歳で子どもが3人になったことで、それまで暮らしていた賃貸が手狭になり、都内郊外にある築浅の戸建てをマイホームに選びました。毎月10万円の35年ローン。年収からみれば、無理のない金額です。

「老後がやばい」と思った瞬間

長男も大学を卒業し、末子の長女が大学に進学したころ、マイホームのメンテナンスをすることに。このタイミングで初めて、貯蓄がほとんどなく、自分たちの老後への強い不安を感じました。これまで漠然としたモヤモヤが、明確にすぐ目の前の恐怖へと変化したのです。

「贅沢してきたわけではないのに。子どもが成長したらようやく息をつけると思ったいたのに……」そうぼやきながら、筆者のところへ家計相談に来られたというわけです。

20年前にはわからなかったが…

近藤さんは、20年前にファイナンシャル・プランナーの資格を持った知人と雑談をしていたときにある指摘をされていました。

近藤さんが教育費を学資保険だけで準備していたことに対して、その知人は「学資保険だけでは、学費で苦労するかもしれないから、しっかりお金の価値を考えた準備をしたほうがいいよ」と言っていたのです。

そのときは、子どもたちも小さく、支出が少なかったことや収入が増えていくことを前提に考えていました。そのため、なにか具体的なアドバイスももらったような気がしますが、軽く「そうだね」と返事をして、気にも留めていなかったそうです。今回、家計相談へ来る前に、「そういえば昔、お金の価値を考えるべきといわれたことがあった」と思い出されていました。

また、最近ではファイナンシャル・プランナーという言葉を耳にする機会が増えたのかもしれません。しかしその当時は、なにをする人かもわからず、どんな仕事か聞いても上の空で聞いていたそうです。いま考えると、きっかけがあったのだから、そのときに指摘されたことや将来のことについて、しっかり考えればよかったと後悔されていました。

役職定年と子の教育費の支出増のタイミングが重なって…

不安を感じたのは、次男が大学進学をしたころでした。長男が進学したときには、学資保険もおりて、学費やアパート代など長男の生活費を貯蓄から出していたそうですが、同じように次男にも必要になるのかと考えると不安となっていったそうです。さらに長女も私立大学へ進学となり、貯蓄があっという間になくなっていったということでした。

そこで、家のメンテナンスやリフォームもあり、貯蓄はほとんどゼロに。このころ、生活費は月に30万円程度だったそうですが、住宅ローンの返済があることや仕送りなどで、毎月トータルでは60万円程度の支出となっていました。50歳で部長職に就いた近藤さんは、55歳で役職退職となり、1,000万円あった収入も600万円程度となったようです。

経済の低成長が招いた「お金の価値」を意識しない世代

日本では、1970年から1990年代まで高度成長期であり、国が大きく成長してきた時代です。このときには、お金のことを気にすることなく、働いていれば収入が増え、豊かになると思われていました。その背景には、インフレがあります。このころには、住宅ローンは「限度額いっぱいまで借りておけばいい」といわれることがあったそうです。なぜなら、住宅ローン金利が高くても、収入が増える方が上回ることで、毎月の実質で考える返済は少なくなっていくからです。

また、普通預金や定期預金に預けておくだけで、数パーセントの利息が付くので、積極的に資産運用をするということを考えなくても、銀行に預けておけばお金が増え、収入も増えるのでさらに貯蓄もできるという、いまでは考えられないような時代だったのです。

ただ1990年以降、バブルがはじけて日本は低成長期時代に入りました。預金金利もどんどんと低くなりました。そんな時代が変化していくなかで、人々の意識はなかなか変わらず、お金のことを考える人も少なかったのかもしれません。今回の近藤さんも、そのなかの1人だといえます。

近藤さんへのアドバイス

今後の生活について、現在の職場の定年退職は60歳。しかし雇用延長で65歳までは働けるため、働けるうちは働いて収入を得ること。もうすぐ長女も卒業する時期となるので、支出が減る分を貯蓄に回し、生活費も抑えるよう工夫することをアドバイスしました。特に、今後の老後の生活水準は、現役時代の水準から急に落とすことができないので、年金生活になっても問題なく暮らせるよう、いまのうちから生活水準を考えるべきでしょう。

職場には2000年から企業型の確定拠出年金が導入されていましたが、ほとんどが定期になっていました。そこで、もう少し積極的な運用に変更(株式の割合を増やす)や、自分たちで貯蓄する分も少額投資非課税制度(NISA)を活用することなども提案しました。

近藤さんは「投資はやったことがないので不安」といいます。同じように、未経験である投資に不安を抱く方は多いでしょう。そうした方は、専門家などから定期的に面談等でアドバイスを受け、不安を解消できるよう、そのときどきの状況を確認しながら、資産形成していくことをお勧めします。

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表