2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、アメリカやヨーロッパなどの西側諸国(NATO)とロシアとの対立が激しくなっており、ロシアによる核兵器使用の機運が高まっています。海外メディアのFinancial Timesによると、ロシアはNATOとの紛争で、核搭載可能なミサイルを使用してヨーロッパの拠点を標的とする訓練を実施していたとのことです。

Russian navy trained to target sites inside Europe with nuclear-capable missiles

https://www.ft.com/content/237e1e55-401d-4eeb-875b-03fe68f81575



Leaked Documents Reveal Russian Navy's Training for Nuclear Strikes, Including on Allies

https://www.kyivpost.com/post/37328

ロシアでは2024年2月に、戦術核兵器使用の運用原則を議論する海軍将校向けのプレゼンテーション資料や、戦争のシナリオなどを記載した、2008年から2014年の間に作成されたとみられる29の隠しファイルが流出しています。隠しファイルの中には、ヨーロッパにおける32の核兵器の攻撃目標も示されていました。

Financial Timesによると、ロシア西部のカリーニングラードに拠点を置くバルチック艦隊の攻撃目標は、主にノルウェーやドイツに置かれた海軍基地やレーダーサイト、特殊部隊施設とのこと。また、北部ムルマンスクに司令部を置く北方艦隊は、イングランド北西部の潜水艦造船所をはじめとする防衛産業施設を攻撃することが目標とされています。

さらにロシア海軍は黒海やカスピ海沿岸で発生した紛争や、太平洋地域で発生する紛争に関しても核攻撃の議論を進めているとのこと。

文書には「原則として、ロシアの目標を達成するために、核兵器と他の破壊手段を組み合わせて使用すること」「さまざまな方向からの大規模なミサイル攻撃を含めた高い機動性を誇る海軍の突然の先制攻撃が重要」と記載されていました。



ミルドベリー国際研究所で軍備管理を研究するジェフリー・ルイス氏は「ロシアの戦争は基本的に全面戦争です。ロシア軍がバルト三国やポーランドなどの前線諸国に置かれたNATO軍と交戦するようなことがあれば、大陸全体の標的が危険にさらされる可能性があります」と指摘しました。

さらにルイス氏は「彼らは、戦術核弾頭を戦争に勝利するための兵器として見なしており、戦争が始まれば核兵器の使用も議論に上がるはずです」と述べています。

流出したロシア軍の資料の中には、「デモンストレーション・ストライキ」と呼ばれる選択肢も提示されています。これは、実際の紛争が始まる前の「脅威が差し迫った期間」に、その地域から遠く離れた場所で核兵器を使用し、西側諸国に恐怖心を与えるという作戦です。NATOの軍備管理・軍縮・大量破壊兵器不拡散センターのウィリアム・アルバーク氏は「彼らはロシアの核兵器使用への恐怖を、西側諸国に優位に立つための魔法の鍵にしたいと考えているようです」と語りました。



また、ロシア軍はNATOとの紛争において「敵の潜在的な軍事力・経済力を弱体化させる」ことが最優先事項と規定しており、一部のアナリストは、ロシアがウクライナとの紛争で行ったように、民間の施設や重要なインフラを攻撃することを意味すると主張しています。

一方でNATOはロシアから全面的な核攻撃を受けたとしても、ヨーロッパの同盟国を守るために必要な防空能力が大幅に不足していることが指摘されています。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「ロシア軍がミサイル攻撃を開始すると、ヨーロッパはいつか無防備になるでしょう」と語っています。