(写真:pearlinheart/PIXTA)

「日傘を差す」男性が増えています。まだ全国的な拡がりとは言えませんが「日傘は女性アイテム」というイメージを覆す勢いです。

とくに目的地まで歩く電車移動の場合、「肌に突き刺さるような紫外線をどうにかしたい」と考える方も多いはず。都心部で日傘を差している男性を、例年以上に見かけます。

とはいえ、気恥ずかしさがありまだ一歩踏み出せない、ビジネスシーンで違和感がない日傘の選び方がわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこでビジネスファッションに合う「男性の日傘活用」について、のべ5409人のビジネスマンの買い物に同行してきた筆者がお伝えします。

男性に日傘が浸透してきた「2つの理由」

ウェザーニュースによれば、今年は「観測史上もっとも暑かった」という昨夏に匹敵する猛暑になる可能性があります。高温であることはもちろんですが、浴びるだけでピリピリするような日差しを感じませんか。このような「記録的な猛暑が、男性日傘の浸透に作用している」ことは想像できますが、「日傘は女性アイテム」というイメージを覆す勢いは男性日傘のラインナップ拡充も関係しているのです。

そもそも男性の日傘は、ここ数年の猛暑という一過性のものではなく、2010年ころから「日傘男子」というワードでメディアに取り上げられてきたという背景があります。仕事柄、その年のトレンドについて取材を受けますが、私自身はじめて「男の日傘」について質問を受けた時期が2009年でした。

当時、美肌意識の高い男性が増えてきたという文脈から「メンズの日傘が流行る」予測にピンと来ませんでしたが、今ではユニセックスの日傘を扱うショップも増えています。百貨店から傘専業ブランドまでさまざまな価格帯が登場していて、なかでも3000〜4000円という手に取りやすいラインナップによって「一気にハードルが下がった」のではないでしょうか。

一方、日傘選びのコツについては「遮光やUVカット率」といった機能面の情報はあふれていますが、ビジネスファッションに合わせるコツは見かけませんので、今回は「日傘と服の合わせ方」にフォーカスします。

なぜ「黒い」日傘をおすすめしないのか?

ビジネスシーンの雨傘ならば、黒・紺・グレーを選んでおけば問題ありませんが、日傘の場合、このルールが当てはまりません。というのも「炎天下における黒い傘」は違和感だらけ。もちろん、色の選択は各人の自由ですが、とくに日傘初心者におすすめしたい「晴雨兼用」と呼ばれるタイプは、その性質上「生地に厚みがある」ため、選んだ色次第では余計に重く見えるのです。

そこで私が買い物に同行するときは、ライトグレーやオフホワイトといった低彩度のライトカラーを選びます。モノトーンに近い明るい色なので、天候に関係なく馴染みますし、何より黒・紺・グレーといったビジネスファッション配色とも相性抜群です。どうしてもライトカラーに抵抗感がある場合は、青みが強いネイビーも選択肢に挙がりますが、黒を選ばない理由は炎天下に「重く見せない」ためです。


オフホワイト色の「晴雨兼用」折り畳み傘(写真:筆者撮影)

もしあなたの日傘がダークカラーで「印象が重い」と感じるならば、合わせる服装で工夫しましょう。たとえば黒・紺などのダークカラーのポロシャツ姿ならば、ダークカラーの日傘であったとしても、傘と服のコントラストが弱まるため、日傘が悪目立ちしません。逆にクールビズでよく見かける明るい半袖シャツには、明るい色の日傘が馴染むのです。

つまり男性日傘の基本戦略は、「上半身と日傘のコントラストを弱めること」ですが、例外もあります。真夏におけるダークスーツの場合は、全身の印象が重すぎるため、明るい日傘でバランス調整してみてください。

日傘デザインに表れる!ビジネスファッションの方向

日傘のデザインは、男女で正解が変わります。「日傘もアクセサリー」として捉える女性ものでは、レースが付いたものや明るい色で縁取られたものなど、アクセントが加えられているものが主流です。

一方、男性の日傘については、デザインが2方向に分かれます。「シンプルなもの」と「デザイン重視タイプ」ですが、日傘初心者の男性に、私はシンプルな無地のものがおすすめ。

「主張がないデザイン」を選ぶことで、日傘を全身に馴染ませるアプローチです。ちなみにこの方向は、機能を追求するビジネスファッションによく合います。いわゆるウォッシャブルや防シワ・接触冷感などのビジネスアイテムを軸にした格好、またビジネスリュックやスニーカーを合わせるコーディネートです。

一方、サマーウール100%の天然繊維にこだわったイタリア的なビジネスファッションには、雨傘で見かけるバンブーハンドルと呼ばれる「持ち手が竹でできた」日傘も相性がよいですし、柄ものの張地も似合うでしょう。私は、これらの日傘をデザイン重視タイプと呼んでいます。年齢層は高く見えますが、大人の嗜みといった雰囲気が醸造される方向ですね。

つまり、正解はひとつではなく、「ビジネスファッションの方向で、求めるべき日傘のデザインも変わる」ということです。

進化が止まらない!男性日傘の近未来

撥水効果もある晴雨兼用の折り畳み傘は、文字通り、突然の雨にも対応可能ですので夕立の多いこれからの時期に活躍しますが、「雨傘との違い」を知っておく必要もあります。

晴雨兼用のものは、雨傘とは異なるため、完全防水ではありません。長時間の使用の場合、雨が染みこんでくる可能性もあるので、「雨が一日中続く」という予報の日には向いていませんし、また生地の劣化やカビを防ぐためにも、濡れた後は「完全に乾かす」というケアも必要です。この手の情報も、さほど認知されていないのではないでしょうか。私自身、今年になって晴雨兼用の折り畳み傘を購入して知りました。

今まさに男性の日傘は、「市民権」を得てきた状況です。取引先に日傘を持っていくことで、「アイスブレイクの話題」として盛り上がるレベルまで浸透してきました。今後さまざまな素材の日傘が増えていくことでしょう。市場が活性化していくことで、合わせ方の正解も変わっていくため、今後ますます男性の日傘から目が離せません。

(森井 良行 : ビジネスマンのためのスタイリスト)