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2024年7月10日に、奈良県の山下真知事が定例会見で、県立民俗博物館に収蔵している資料を3D画像データなどでデジタル保存する方針を示した。新聞各社が報じた。この方針がX(Twitter)で議論を呼んでいる。

デジタル保存と廃棄をめぐりさまざまな意見が飛び交う

議論を呼んだポイントは、デジタル保存するだけでなく「価値あるもの以外は廃棄処分を含めて検討」しているという点だ。県立民俗博物館では、農具や生活納品など約4万5000点の資料を収蔵しているが、収蔵スペースの不足が問題となっている。廃棄処分の検討には、こうした背景がある。

報道を見たXユーザーからは「実物は廃棄するってなかなかの暴挙」「デジタル保存すれば実物を廃棄してよいという発想が理解できない」「デジタルアーカイブはあくまでも副次的な保存方法であって現物にはなりえない」といった批判が相次いでいる状況だ。

また「デジタルは万能じゃないぞ。データが読めなくなることまで想定してるのだろうか」「スキャンデータは解像度やフォーマットなどその時点の技術的な制限に内容が左右される」「3Dデータで保存できるのは表面の形状だけで、内部構造や材質といった情報は残らない」など、3Dデータ保存の将来性についての懸念を指摘する声も多い。

いっぽうで、「全部残せるならそれが理想だけど、現実には管理・維持費や容量の問題もあるわけで」「保管しておくのってただ倉庫に入れておくだけじゃないからね、大変な手間と人員が必要なんだよ」など、廃棄の対応をせざるを得ない状況に理解を示す反応も複数出ている。

この方針を受け、日本民具学会も7月に「民具(有形民俗文化財)の廃棄問題に対する声明」を発表し、貴重な資料を安易に廃棄処分しようとする方針に異議を唱えている。こうした破棄検討に対する批判に対して、山下知事はXで

収蔵する、しないの基準を設け、基準に合致しない物は3Dデジタルで記録化した上で、市町村や民間に受入を要請し、それでも引き取り手がない物は廃棄します。「安易な一括廃棄」という批判は当たりません。
出典:Togetterオリジナル

とも言及している。

実際に、奈良県立民俗博物館が公式Xアカウントで発信している収蔵状況のポストを見ると、収蔵品を大量に抱えている実情がうかがえる。「廃棄検討」も同博物館の現状を踏まえるとまた見方が変わってきそうだ。

収蔵問題は全国的に発生している

Xでは、こうした「貴重な資料や品の廃棄・保存問題」に関する話題がたびたび話題になる。似たような構図の議論としては、たとえば「古文書を図書館に寄贈しようと思ったら『廃棄承諾書』の提出も併せて求められた」という話が注目されたことがある。

この話でも、貴重な歴史資料の価値を理解しない図書館側の対応を批判する人と、図書館という施設のキャパシティや管理コストから廃棄対応になるケースも致し方なし、という立場の人とで意見が分かれていた。

収蔵スペースの不足と資料の保存をめぐっては、全国各地の博物館・資料館・図書館などで同様の問題が発生している。奈良県の方針が今後どのような結果を導くのか、収蔵問題の重要な一例として、引き続き注目を集めそうだ。