元マッキンゼーで、女性が自信をもつための服を提供するグラビタス社を経営するリサ・サンさん。リサさんによると、自信を邪魔する大きな敵のひとつが、「自己批判」や「自己弁護」です。そこで今回は、それらとのつき合い方を教えてもらいました。

「あなたならできる!」に追いつめられたら

だれにでも、思春期の頃に出現した「内なる批判者」がいます。内なる批判者とは、自分の中の批判者のこと。

この批判者は、自分が快適でいられるコンフォートゾーン(快適な空間)から出たくないために、無理めの課題を渡されたときに「まだ準備ができていない」とつぶやくのです。

女性リーダーシップの専門家タラ・ソフィア・モアが言うように、管理職がよくやる間違いは、「部下が自信を失って苦しんでいるときに、励ましたり褒めたり応援したりするのが自分の仕事だと思うこと」です。

たとえば、「あなたなら絶対にできる!」「あなたのことは全面的に信頼している。あなたにできる能力がないと思ったら、この役割を与えなかった」などの声かけがそう。でも、演技がかった決まり文句で「内なる批判者」を黙らせようとするのはエネルギーの無駄遣いです。説得力がないですし、自己疑念から脱出する効果的なツールにはならないから。

むしろ「内なる批判者」のタイヤの空気を抜くために、それがなんであるかを特定し、現れる理由を理解し、自分に与える影響を和らげることが大切です。「内なる批判者」は永遠に消えることはありません。だったら、上手に管理して力を弱めるのが得策なのです。

では、どうすればいいか? 「内なる批判者」を受け入れましょう。存在を認めて名前をつけ、それが非現実的な思考を反映していることに気づくのです。

理不尽で残酷な「内なる批判者」は、心配性で悲観的で反復好きで、うしろをふり返ってばかりで、問題に目を向けすぎています。だからその正体を言語化して、それをあなたの強みを基盤にした現実的な思考と対比しましょう。

自分の強みに意識を向ける話し方

次に、「内なる批判者」ではなくあなたの強みをベースに方向性を決める決断をしましょう。

これにより、最悪のシナリオと可能性が高い最高のシナリオを考慮することができます。私が指導したワークショップに参加したある女性は、フォローアップのメールでこんな感想を送ってくれました。

「自分の思考の癖として、ひとつ気づいたことがあります。それは、たとえ真実ではなくても、自分についての否定的な思考を、脳に事実として取り込んでしまうことです。肯定的なセルフトークが大いに役立つことを知りました。頭の中のつぶやきを変えるのは手ごわいことですが、長い目で見て価値があります」

「内なる批判者」は黙らせようとせず、あなたの強みのメガホンを使って声をかき消せばいいのです。

女性が厳しい対処をすると、「怖い」と思われる

「内なる批判者」を管理すると同時に、現実世界における組織的な偏見やマイクロアグレッション(無自覚の差別行為)、悲観論者からの否定をかわす必要もあります。

そんなときは、覚悟を決めて、あなた自身の物語からぶれることなく、過剰に説明したり中傷する人に勝たせたりするデフォルトモードに戻らないようにしましょう。

例を挙げさせてください。友人のハンナは、オンラインの小売会社で運営の仕事をしていて、ベンダー(売り手)に商品を出荷させて期日内に配達させる責任を負っています。

ある日私とランチをしていたときに、ハンナは同僚のひとりと交わした気まずい会話について話してくれました。それはあるベンダーについての会議のあとに起きたことです。

そのベンダーが期日を守らなかったので、厳しいやりとりをするはめになり、ハンナは、もしも対処を怠ればあなた方に責任を求める、と伝えました。会議が終わり、部屋から出ていこうとすると、親しい男性の同僚がハンナに向き直って首を振り、「きみ、おっかない態度だったねえ」とひと言。

ハンナはショックを受けて、「ごめんなさい。期日内に配達してもらわないと私たちが大変なことになるから、責任を追及する必要があったの…」と、口ごもりながら言い訳をしました。

とっさの自己弁護を手放す訓練

私はそこでハンナの話を止めて、こう言いました。

「信じられない、どうして言い訳するの? あなたが男だったら、その同僚はあなたにハイタッチをして『会議を盛り上げてくれたよ! やつらも大慌てだろう』と言ったでしょうね」

そのあと2人で、ハンナが同僚に対して、ほかの応じ方はできなかったかと話し合いました。「そうよ、私は威圧していたの。まさにそういう印象を与えるのが目的だったの」と切り返したり、「それは批判なの? ほめ言葉なの? もしも前者なら、お門違いだわ。後者なら、ありがとう」と同僚の意図を尋ねたりできたはずです。

なぜ私たちは自己弁護をするのがデフォルトなのでしょうか? そしてなぜ、ハンナは「おっかない態度」を否定的な批判だと決めつけたのでしょう? その会議でのハンナの対処には、なんの改善点もありません。男性の同僚がそれは違うと推論するなら、たてついてもいいのです。