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画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。お金を極力使わない「ケチカロジー」という言葉を生み出し著書も上梓している小笠原さんが実践する、1日1000円生活について詳しく教えてもらいました。

※ 記事の初出は2023年8月。年齢など内容は執筆時の状況です。

73歳おひとりさまの「チープシック」なお金の使い方

「チープシック」とは、自分好みの安価にして品のよい洋服のことを意味する言葉ですが、生活全般の理想でもあります。今回はチープシックなお金の使い方についてお話しましょう。

●1日1000円生活を無理なく継続中

73歳で年金暮らしのおひとりさまは、たしかに"わび住まい"で、体力もありません。ただ、老いても元気だけが唯一の価値ではなく、ポジティブで美的な"枯れ"があってもいいものと思っています。シワやシミをチャームポイントと思えれば、なおいいですよね。

その1つはお金づかいであり、名づけて「ケチカロジー」です。私は1日1000円生活を数十年間続けてきました。

お財布の中には、1000円札で10日分の10000円と予備金を区分して入れておき、買い物にはお札1枚だけ使うという仕組みです。ただ、予備金が入っていることは忘れているくらい、ほぼ使うことはありません。

これが「ケチカロジー」の一例ですが、絶対に1000円以上使わないというわけではありません。それでも月末に、毎日簡単にメモしておく出費額を算出すると、1日平均約1000円になるので嘘でもないのです。例えば2000円使ってしまった日の翌日は、買い物に行かないというようなやりくりをすることもケチカロジーの1つです。

●いざというときの大きな出費にも備える

またときには予期せぬ修繕費や、健康維持のための電化製品や医療費などに、大出費をしてしまうこともあります。そのときは日常通いの銀行以外の、別枠に置いてある預金から捻出します。つまり銀行を2手に分け、ひとつは約10日目に引き出すいわば財布代わりに、もうひとつの銀行はほとんど手出しをしない大出費用です。

その銀行には、若い頃から趣味だったともいえる貯蓄や、特別収入を得たときなど、使わないで預けてきた、いわば「余剰金バンク」です。趣味とは言いすぎでも、現金を手取りで受けとっていた在職時代、給料袋を開封すると即、中身の3割〜5割額は見なかったふりをして袋に戻し、素早く預金してしまうことを意識してきました。

現在、無職である私にとって、貯金は楽しみのひとつ。たとえば1000円さえも使わなかった日に、ポイと引き出しの奥地に入れて、忘れてしまう。それがまとまって出てきたときなどにはとてもうれしいものです。そんなときは、おしゃれしてレストランでも行き、一皿を楽しむ足しにする。そんなささやかな優雅さが、私のチープシック生活なのです。

●お金をかけなくても幸せな食事時間を

さて食事といえば、私は3食のうちで朝食が好きです。若い頃一度高原のログハウスに泊まったことがあり、庭の草地で朝食をとりました。といっても節約家の私が用意したのは、前日に無人の露店で買った野菜と卵くらいでしたが、かぶりついたキュウリが口中に飛沫を拡げた特大の美味は、高原の瑞々しさを飲み干すような爽快さでした。

1本100円もしないチープな野菜から、朝の壮大な爽やかさを体感した瞬間であり、大袈裟であっても、その後を生き抜くためのチープにしてシックなメッセージだったと思っています。

50年もたった今でも、朝露を食むようなキュウリの味覚を思い浮かべ、朝食を楽しみに起床します。おかげで、眠れぬ夜はあっても起きられない朝はないことを幸運に思います。

●おひとりさまであることへの備えはしっかりと

しかし、約束どおり夜は訪れます。最近耳にする”孤立死”。もしくは、近年の危機的気象状況などは危機感をもっています。時代がひとつの文明の極みにきたような今、おひとりさまにとっては忍び寄る足音の予感でもあります。でも悲壮になることはありません。

まず、いざというときのために終活とはしっかり向き合います。こちらは東京都に申し込み、いただいた終活手帳です。

また、しっかり災害への備えが大切です。防災グッズ、非常食、飲料水…トイレが使えなくなること考え、非常用トイレの準備も必要です。すてきなお洋服を買う前に、備蓄品がそろっているかを優先しています。

有事のとき、1人が困ればみんなが困る。1人が益をもたらせば皆の一助になる、かもしれませんから。これがおひとりさまの自覚でもあります。