40代・50代に差しかかると、避けては通れないのが「実家の片づけ」問題。親への伝え方を一歩間違えると、ケンカに発展することもあるようです。今回は尾花美奈子さん、ふくぴぃさん、きんのさん、大木聖美さんに、「実家の片づけで気をつけたいこと」を聞きました。

片づけのNGワードと魔法のルール

整理上手な母が入院することになり、実家の片づけを経験したライフオーガナイザーの尾花美奈子さん。

【写真】きんのさんの母(80代)の散らかった部屋

少しずつ片づけてきて、とうとうなにもない状態になった実家。さかのぼってみると、父が亡くなったあとの2015年から父の遺品整理と母の生前整理を行ってきたそうです。

今回はそのときのことも含めて、「実家の片づけ」について振り返ります。

やる気があった時期は「捨てなよ」と強要しない

当初は母のやる気があって順調に進みました。父の遺品整理が中心だったので、義務感が原動力になっていたのかもしれません。

ただ、このときの母は60代後半で体力の回復が遅くなっていたし、私は実家に住んでいるわけではないので、次のことを心がけました。

<心がけたこと>
(1)「いる、いらない」などの判断は母。物を運んだり体を動かすのは私。
(2)否定やダメ出しなど、ケンカになるようなことはしない。
(3)「いらないよね」「捨てなよ」と強要しない。

とくに(3)の言葉はNGワードでもあります。親子に限らず夫婦間でも、相手の価値観での判断を押しつけられるのはイヤなこと。あくまでも主役はその家に住まう母。私はサポート役に徹しました。

体力がなくなってきた時期は「安全」を優先

病気をきっかけに母の体調や気分が優れない日が増えてきて、「だからこそ早く片づけてほしい」と思う気持ちと、「無理をさせたらいけないという気持ち」の間で揺れ動いた時期でした。

<心がけたこと>
(1)貴重品や重要書類の整理を整頓を最優先。
(2)「捨てる」「減らす」より「体への負担が少ない」「安全」を優先。
(3)少し疲れたかな? という程度でやめる。余力を多めに残す。

「母のため」と言いながら、「いつか最終的な片づけをすることになる自分のため」というエゴが先走らないように、「母が多くを過ごすスペースが安全であればそれでいい。BESTよりGOOD」と割りきりました。

片づけを「自分のもしものときと向き合うこと」と捉えてしまうと、怖かったり悲しかったりでやる気が起きないでしょうが、そうではなく「より快適に生きるために」と捉えて、できるだけ病気や体に不自由が出る前にスタートさせてほしいと思います。

いつでも初心にかえるための「心がまえ」

実家の片づけで失敗した経験をもつ、整理収納アドバイザー・ふくぴいさん。経験上、実家の片づけを「始める前の心がまえ」として必要なことが3つあるそうです。

ひとつ目は「親の住まいであることを忘れない」ということ。次に、目的はすっきりさせることではなく「安全」や「分かりやすさ」。最後に、すぐに結果を求めず「長期戦で考える」ことです。

今も実家の片づけをしていますが、うまく進まずモヤモヤすることもたくさんあります。そんなときは、この3つの心得を思い出します。

思い出のものがある場所はまず避ける

高齢者にとってものの多さ=安心となっている場合もあるので、片づけ当初は捨てることにフォーカスせず慎重に進めました。

そこで、思い出のものが少なく日用品などの生活雑貨が収納されている階段下からスタート。最初に取りかかったことは、いろんな場所に点在していたものを1か所にまとめていく作業です。

洗剤や掃除道具、ゴミ袋がまさにそれ。一緒に使うものをできるだけセットにしておき、動線を考えるとよりいいです。整理収納の仕事においても、1か所にまとめる作業は捨てることが苦手な人に対して、よい準備運動になると感じます。

ものであふれた実家、一緒に片づけるならどこから?

「今までなんとなく考えていた親の介護問題が、急に現実味を帯び始めました」。そう語るのは、現在50代で団地ひとり暮らしを楽しんでいるブロガー・きんのさんです。

年数回程度しか行かなかった実家によく訪問するようになったら、ものが多い環境を「このまま放置しておいて本当に大丈夫?」と以前にも増して心配になりました。高齢ですり足歩行、なにもない場所でもよろける親の様子から、いつどこで転倒してもおかしくない状態がよくわかってきたからです。

「自分でやるからほっといて」と片づけを拒む親と「危険だから片づけたい」娘。少しでもリスクを減らしたくて、口げんかしつつも一緒に片づける方向に舵を切りました。

親が困っている場所から片づける

自分のテリトリーを勝手に荒らされるのは嫌と思っている親でも、歳を取るにつれて生活に支障が出ている場所や暮らしにくさを感じるところがあるはず。

親の要望を聞き取り、安全に使いやすく片づけることで「片づけると暮らしやすい」と肯定的な気持ちを持ってもらえるようにスタートすることが肝心です。

私の場合、最初の片づけは玄関でした。狭い玄関スペースにあけにくい扉の靴棚があり、奥になにが入っているのかもわかりません。靴棚の周辺には杖や手袋、園芸用品、マスクなどがごちゃごちゃ置かれていて使いづらい様子でした。

外出時に必要なものをパッと取り出しやすいようにすべてを見える化し、よくはく靴だけを玄関に置くことですっきり片づきました。親の困りごとの解消ついでの片づけなら協力も得やすく、「使いやすくなった」と高評価で次の片づけに繋がりました。

片づけが無理なら、コミュニケーションだけでもよい

片づけに拒否反応が強くて、小掃除程度さえも無理なら「これいいね! ちょうだい」と譲り受けることを繰り返し、地道に不用品を減らしていくのも手かもしれません。私はこの方法で親から便利グッズや不要な家具類を手放してもらいました。

片づけを強いるのではなく、まずは親と良好な関係をつくること。親の性格や相性など、個々に違うのでいろんなやり方があるはずです。親の生活が快適になるように困りごとや不用品などを聞き出し、片づけにつながる行動に移すことで、抵抗少なく実家の片づけが進むきっかけになるのではないでしょうか。

ほぼ見返さない思い出のものは「データ化」するのも手

整理収納アドバイザー・大木聖美さんは、まず実家に残してきた“自分のもの”から捨てました。そのひとつとして挙げられる「写真やアルバム」は、持ち帰るだけでなく残すかどうかも判断したいところです。

一生のうちほとんど見返すことのない卒業アルバム。実家に置いておいても仕方がないので自宅に持ち帰りましたが、同窓会の際に卒業アルバムをデータ化してくれた友人がいたのでそれをダウンロードし、原本は破棄しました。自分で写真に撮るなどして保管してもいいですよね。

また、45歳を過ぎた頃にふと「学生の頃の思い出は、心の中にあれば十分」と気持ちが切り替わり、実家にあった写真を9割ほど処分しました。これまで見返すことがなかった写真を最後に確認し、しっかり胸に刻んだので後悔はゼロ。むしろ心がすっきりしましたよ。

高齢の親が片づけようとして、ケガをしてしまっては大変! そうなる前に、自分のものは自分で処分しましょう。

使うことがない古びた家具も、体力があるうちに捨てて

実家の自室クローゼットを開けたら、引き出しは色褪せ、スチールの引き出しは開け閉めするたびに異音がして劣化具合にびっくり。使い続けることは困難と判断し処分しました。

わが家の両親は共に80代。もともときれい好きで整理上手なのですが、子どものものを勝手に触ったら悪いと思って私の部屋をそのままの状態にしていたそう。あるとき、「子ども部屋を趣味の部屋にできたらうれしい」と聞いて猛省。すぐさま自分のものの片づけに取りかかりました。

よく片づけサポートの現場で、入りきらないものを実家に持っていくと話される方がいらっしゃいますが、全力で阻止しています。実家は物置ではないですし、巡り巡って実家の片づけを始めた自分に降りかかってきますからね。実家の片づけをするなら、まずは自分のものから見直してみてください。