かつては仕事がきついというイメージのあった建設業界だが、近年は働き方改革の一環で残業抑制などを徹底する現場が増えている(写真はイメージ、記者撮影)

これまで「きつい、汚い、危険」の3K職場のイメージで語られることの多かったゼネコン業界。ただ、業界団体が「給料がよい」「休暇が取れる」「希望がもてる」に、「かっこいい」を加えた新4Kを打ち出したこともあり、業界イメージに変化の兆しがある。

実際、建設業に就職する大学卒業者は増えた。とくに建設技術者となる女子学生が増加傾向だ(7月23日配信『ゼネコン技術者「現場女子」が4人に1人の就活実態』に詳報)。イメージが改善し職業として人気が高まっているのは事実なのか。若手からベテランまでのゼネコン関係者3人に、現場サイドの視点から本音を語ってもらった。

(座談会参加者)
Aさん 20代女性。準大手ゼネコンの建設技術者  
Bさん 40代男性。大手ゼネコンの建設技術者  
Cさん 50代男性。Aさんと同じ準大手ゼネコンの事務職  

――この10年ほど、ゼネコンに就職する女子学生の数が右肩上がりです。建設現場での女性の活躍状況は?

Aさん 私の7年ぐらい上の先輩が、当社初の女性技術者(総合職)だった。その頃から女性技術者が増えてきている。

先輩などは「ゼネコンに行くぞ」と相当の覚悟(使命感)を持って就業されたと想像する。私たちのときは、ゼネコンはあくまで、就職先の選択肢のひとつにすぎなかった。入社してから、業界全体で「女性が、女性が」(女性の活躍が重要)と言われていることを知って、びっくりした。

Bさん スーパーゼネコン大林組などは、女性技術者が早い段階から活躍している印象がある。かつてとは違い、今の女性技術者は「強そうな人」というよりも、優しさを備えつつも「芯」のある人が多いように思う。

Cさん 今は建設現場に女性がいることに違和感がない。30年ぐらい前に長谷工コーポレーションに女性所長がいたのだが、現場は実家の近くであることなど条件面で配慮があったようだ。

そういった配慮がありながら、実際に現場で活躍する人が増えてきて、現場の雰囲気がすごく変わっていった。それを見た大手ゼネコンが女性技術者を増やしていった。

数年前まで現場には女性トイレなし

Bさん 女性の現場での活躍は、今は一般的かも。それよりも、ここ数年の労働環境の変わりようが激しいと思う。

かつては(工期を間に合わせるために)残業が無制限にあると言っても過言ではなかったが、今は「休みを確保する」という考え方が浸透している。ボーナスを含めた賃金も手厚くなった。

――建設現場では本当に労働環境が改善されているのでしょうか。

Bさん 2024年問題対策(2024年4月から建設業に時間外労働規制が適用開始された)や人手不足を解消する狙いもあり、この10年で就労時間や待遇面などの労働環境が一気に改善している。

Aさん 私が入社したときは、現場に女性トイレがあるのが当たり前だった。数年前までは、業界団体が「女性トイレ普及比率が何%になった」などと発表していて、「女性トイレのない現場もあるんだ」と、びっくりした記憶がある。いまは清潔感のある女性トイレが整備されている。

――しかし、離職する若い就労者も多い業界です。みなさんは学生に業界への就業を勧めますか。

Cさん 客観的に見て、今のゼネコンは就職先として狙い目ではないだろうか。給料が上がっていて、働きやすくなっている。

実は、就活中の息子に「ゼネコンはどうだ」と勧めている。ただ、息子は転勤がある職種であることに難色を示している。最近の若い人は、転勤を避けたいと考える人が増えている。

Bさん かつては(優秀な学生かどうかを)吟味して選別していたが、今は新卒学生の争奪戦が激しくて、会社側にそこまで選択するほどの余裕がない。いわゆる供給者側が優位な状況。給料も上がっているし、学生にとって就職先として考えるのはいいかもしれない。

エリア総合職(給料は若干減るが転勤しなくてもよい働き方)を制度として設けているゼネコンもある。転勤が嫌な場合はそういった会社を選べばいい。

Aさん 確かに私の同期では、「転勤が嫌だ」と言って辞めていった人が実際にいる。会社に残っている人の意見で多いのは、「ボーナスがいいから」という理由。「転職するならば建設業の別の会社に行きたい」と、建設業自体に魅力を持ち続けている人もいる。

建設業に魅力を感じる瞬間

――3人の中でいちばん若手のAさんはどのような動機でゼネコン業界に就職したのですか。

Aさん そもそものきっかけは、学生時代に住宅のビフォー・アフターのテレビ番組を見たこと。あまり深く考えずに、建築ってカッコいいなと思った。

それで大学に進学する際、看護師とか栄養士などの道を進む選択もあったけれど、「やっぱり建築は楽しそうだ」と、フワっとした感覚で選んだ。最初はデザイナーに憧れたが、大学で学んでいくうちに建設技術者を目指すようになった。

――実際に働くとどういうところに魅力を感じるのでしょう?

Cさん 建設技術者は、「建物が完成したときがもっとも嬉しい」とよく言うよね。

Bさん 「足場を解体して建物の全体像が見えるときに感動する」、という人も多い。私は15年ほど前に、問題の起こったマンションを解体・新築するプロジェクトを担当したことがある。

入居者には仮住まいしてもらったのだが、建物ができて、内覧会を経て、最後に入居者にカギを渡すときに、一組のご夫婦から「元の生活に戻れる。ありがとう」と涙ながらに言われた。

このときに初めて、自分が微力ながらも社会貢献をしていると感じた。これから何を大事にして仕事をしていけばいいのか、と気づいた(覚悟を決めた)出来事だった。

Aさん 私は終業時刻が近づいて、電気を消すために建設中の建物の上から下まで降りていく瞬間が好き。工事中の建物は、昨日と今日では形が違う。少しずつ、変化、進行している。日中はあれこれと忙しくて全体を見られないけれども、終わりの時間に変化を感じられるのはいい。

気になる「職人さん」たちとの関係

――「チームで仕事ができること」を建設業の魅力として挙げる人も多いです。

Bさん 現場では喧嘩をすることもあるし、仲の悪い人も必ず出てくる。ただ、建物が完成すると、仲間としての一体感が生まれる。現場が終わって散り散りになっても、再会すると当時の記憶がよみがえってくる。

今でも現場で一緒に働いた職人仲間に会って、「久しぶり」と声をかけてもらうと嬉しい。日常の仕事でモヤモヤしていることがあっても、元気になる。


首都圏を中心に大型プロジェクトが目白押しの建設業界は、人手不足もあって、働き手の確保を急ぐ(写真はイメージ、撮影:今井康一)

Aさん 私は職人さんに支えられた側面がある。みんなが先生だった。私の同期では、鳶職人(高所での作業を専門とする職人)と付き合った人もいる。職人さんは自分たちよりも知識があって、困ったときに助けてくれる。

とくに職長さん(作業グループのリーダー)は知識が豊富。「これはこうなる、だから危ないということがわかるよね」といったことを教えてくれた。職長さんを含めた職人さんは頼りがいがあって、女性から魅力的に映るのだろう。

Bさん 確かに、鳶職人と結婚した現場女子がいると聞く。現場には鳶職人が、組み立てから足場の解体まで携わるので(工期の)最初から最後までいる。現場にいる時間が長いので、自然に現場のリーダー的存在になる。

――今年は清水建設や西松建設など多くのゼネコン建設作業着を刷新します。

Bさん ユニフォームがあるのは、いいことだと思う。スポーツチームと同じで、ユニフォームを着ているだけでも仲間意識ができてくる。われわれも安全や品質面において現場で闘っているので、スポーツと同じように一体感が必要な側面があるのではないだろうか。

Aさん 大学の同期からは、「あなたの会社の作業着はださい」と言われる。「色がださい」と。だから、当社もそうだし、作業着を現代のトレンドに合わせたカッコいいものに替えていくのは賛成。

あと、最近はテレビCMで人気俳優を起用するゼネコンが増えているのだけど、ヘルメットを被ることがNGの俳優もいるようだ。ヘルメットってダサいんだ(イメージダウンにつながると考える人がいる)ということを初めて知った。

「ヘルメット議論」からみる現場の環境

Cさん もちろん、被ってくれる俳優もいるよ。ヘルメットに関していえば、温暖化が進んでいることもあって、建設現場では夏限定でヘルメットを帽子に代えるのはどうか、と個人的には考えている。

土木の現場では、とくに上からモノが落ちてくる危険性がないときに、ヘルメットをつねに被っているのはどうなんだろうか。危険性のないときは外してもいいのでは。

Aさん 現場では、「ここから先のエリアは危ないのでヘルメットがないとダメよ」とか「ここまでは危険性が少ないので大丈夫」とか、細かく指示することができない。なので私は、休憩所やゲートから休憩所までの動線にノーヘルメットゾーンを設け、それ以外の場所では「ヘルメットは必須」と言っている。

Bさん 昔は帽子を被っていた時期もあったけどね。確かに夏場は以前と比べると暑いので、通常よりも短縮した6時間稼働でいいように思う。それぐらい夏場はハードだ。労働時間を短縮する傍ら、職人の給料を減らさない配慮は必要だけど。

ここ最近、周りの工事現場では工期の延長がかなり増えてきた。もちろん延長した経費はこちらが持つが、(発注先の)デベロッパーが工期延長を受け入れてくれるようになってきた。

若い人たちに魅力的な職業とみてもらえるように、労働環境も意識しながら、ゆっくりと、いいものをつくる。業界全体で、そういうことをもっと重要視してもいいはずだ。

(梅咲 恵司 : 東洋経済 記者)