ビッグテックとビッグミュージックのあいだに不協和音が広がっている。AIの大手企業やスタートアップ企業が、AIが生成する音楽の新機能を展開するなか、レコード会社は著作権で保護されたコンテンツに関する2件の新たな訴訟で、法廷闘争に乗り出したのだ。6月は、業界大手企業やスタートアップ企業による発表が相次いだ。ユニバーサル・ミュージック・グループ(Universal Music Group)とサウンドラボ(SoundLabs)が、アーティストが自分の声を使うためのAIボーカルプラグインを発表したのと同じ週に、テック系スタートアップのフューチャーバース(Futureverse)は、ライセンスされた数十の音楽カタログで訓練されたAI音楽モデル、ジェン(Jen)のアルファ版をローンチした。そのほかにも最近の生成AIのアップデートとして、Googleのディープマインド(DeepMind)はビデオ・サウンドトラックを作るための新しいツールを発表し、イレブンラボ(ElevenLabs)は新たなテキスト音声変換アプリをデビューさせた。また、スタビリティAI(Stability AI)は新しいAIサウンドジェネレーターをリリースした。このような進歩の一方で、人気のあるAI音楽プラットフォームは厳しい監視の目にさらされ、法的な課題に直面し、緊張が高まっている。最近、スーノ(Suno)やウディオ(Udio)といったスタートアップ企業が著作権侵害の疑いで大手レコード会社から訴えられている。しかし、レコード業界の訴訟は、ライセンスデータセットで訓練された生成AIツールの使用を優先させるのに役立つ可能性もある。

データ倫理を守るアライアンス「DPA」が始動

6月末、コンテンツライセンスプロバイダーのグループが、倫理的に収集されたデータの普及を目指す業界団体データセット・プロバイダーズ・アライアンス(Dataset Providers Alliance、DPA)の結成を発表した。創設メンバーの1社であるライトシファイ(Rightsify)は、AI音楽のスタートアップ企業で、ライセンスされた音楽データセットを開発者に提供し、ハイドラII(Hydra II)モデルを使用して、ホテルや動画用のAI生成音楽を作成している。ライトシファイのCEOであるアレックス・ベストール氏によると、DPAの目標のひとつは、音楽、音声、テキスト、動画、画像などのコンテンツ全般の倫理的なデータセットの提唱を支援することだ。同氏は、レコードレーベルの新たな訴訟は、倫理的データセットに関する意識を高め、企業に積極的なライセンス取得を促す「正味のプラス」にもなりうると考えている。さらに、今回の新たな訴えは、AIや著作権に関連する以前の訴訟とは異なるように感じると言い添えた。「今回の訴訟はかなり具体的なようで、おそらく最近でもっとも影響力のあるものだと思う」。「あなたや私が個人として(無許可で曲のサンプリングを)行った場合、それはライセンスされていないサンプルなので訴えられるだろう」とベストール氏は米DIGIDAYに語った。「(AI)モデルを通して行われたという理由で、なぜ免除されなければならないのか。つまり、それはライセンスされていないサンプリングであり、そしてまた、無許可の歌詞を公に演奏しているということだ。私たちの知る限り、複数の著作権侵害が存在している」。

権利保護と倫理的整合性を確保するための取り組み

ハイドラIIモデルを作成するために、ライトシファイはミュージシャンとの直接契約を通じて楽曲のライセンスを取得した。また、肖像権や生体認証の許諾も得ており(これはデータセットが特定可能な音声を含む場合、プライバシーへの影響を考慮すると特に重要である)、ハイドラIIの倫理的整合性を確保するためにフェアリートレインド(Fairly Trained)という組織と協力している。ライセンスされたコンテンツのみで訓練された新しいAI音楽モデルを持つ別のスタートアップにフューチャーバースがあるが、同社は6月に完全にライセンスされた40の音楽カタログで学習させたジェンを発表した。フューチャーバースの共同創業者でCEOのシャラ・センダロフ氏によると、各楽曲に関わった全員の承認を得なければならなかったという。またその学習データは、著作権保護に抵触するものがないことを確認するために1億5000万曲のデータベースを通過し、その後AIが作成したすべての曲は、フラグが立てられていないことを確認するために2回目のデータベースを通過する。

ジェンのX投稿。初期トレーニングセットには40以上の完全ライセンスカタログがあり、透明性、補償金、著作権識別へのコミットメントを強調している

ジェンが作成した各曲について、フューチャーバースはブロックチェーン上に暗号化されたハッシュを生成し、ソース素材とジェンが曲を作成したことの両方を検証する。フューチャーバースが完全なトレーニングセットを公開する予定があるかどうか尋ねると、センダロフ氏は公開しない理由として、「これは正しく行われなければならず、また自分たちの運命を自分たちでコントロールしたいため」と述べた。同氏はまた、AIの音楽モデルを訓練するライセンスアプローチがうまくいくことを示したいと考えている(フューチャーバースはまた、レコード/R3CORDと呼ばれる新しいプラットフォームも発表しており、ユーザーがクリエイターのためのマーケットプレイスを通じてトラックを録音、共有、販売できるようにした)。

「倫理的AI」における同意、信頼、報酬の重要性

センダロフ氏によると、今後半年の間に、ユーザー生成コンテンツ(UGC)から、AI音楽を試すミュージシャン向けのエンタープライズグレードのAPIまで、「かなりの数」のジェン対応の新機能を追加する計画だという。たとえば、ユーザーはジェンを使って曲の一部を削除したり、まったく新しい曲を生成するために個々のステムをアップロードしたりすることができる。同氏は、ユーザー生成コンテンツから、プロ・コンシューマーやAリスト・プロデューサーのためのツールまで、ジェンがあらゆるものを支援することを期待している。「結局のところ、この業界は、創造性を低下させるのではなく、向上させる機会があることを理解している」とセンデロフ氏は言う。「我々は絶対的な共同プロデューサーを作っているのだと信じている」。倫理的なAIにとって、同意、信用、報酬はきわめて重要だ、と語るのは、サウンドエクスチェンジ(SoundExchange)のCEOであるマイク・ハッペ氏だ。同氏は、テック大手はAIが生成したコンテンツから得られる収益を、使用量、アーティストの知名度、影響力に応じて配分するよう、素材提供者と交渉できるかもしれないことを示唆している。ハッペ氏は、これは仮説的な解決策であり、公式な姿勢ではないこと、また、AIのデータセットとアウトプットの双方について個別に検討する必要があることを強調した。「あらゆる種類のものに関して、インターネット上には、存在するものと存在しない、非常に複雑な価格設定と支払いモデルが存在する」とハッペ氏は述べた。「バックエンドで(AIを)運用可能にし、あらゆるタイプのクリエイターが、生み出される富に公平に参加できるようにするにはどうすればよいのか、それは実行可能なのだ」。「インターネット上には、非常に複雑な価格設定や支払いモデルが存在する。「どのようにバックエンドで(AIを)運用し、どのようにあらゆるタイプのクリエイターが公平に創造される富に参加できるようにするのか?[原文:AI Briefing: The music industry raises the decibel for the fight over generative AI]Marty Swant(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)