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大阪地裁は2024年6月、偽計業務妨害罪で起訴された20代の男性に対して懲役1年、執行猶予3年(求刑:懲役1年)の判決を下した。

偽計業務妨害罪について、聞き馴染みがない方もいるかもしれない。しかし、警察に虚偽通報をした、ネット掲示板で嘘の犯罪予告をして多数の警官を動員させたなどの事件報道などで見たことがあるのではないだろうか。虚偽の風説や偽計を用いて、他人の業務を妨害するおそれのある行為があてはまる。

今回の事件も、警察に対し嘘の通報を行ったものだった。ただ、その動機は「仕事を休みたいから」と身勝手極まりないものであり、被告人はなんと同様の行為で事件の1週間前に罰金刑を受けたばかりだった。(裁判ライター・普通)

●兄弟喧嘩で通報も、兄逮捕しなかった警察に不満

起訴状などによると、被告人は大阪府内を転々と移動しながら「親と喧嘩して、刃物で刺しかけた」、「今、ナイフを持って暴れている」などと虚偽通報を行い、警察官18名を不要な捜査に従事させ、業務を妨害した疑いがかけられている。同居する被告人の親のところへ警察が臨場し事件が発覚した。

法廷で取り調べられた証拠によると、被告人は学生時代から自暴自棄になると、他人を困らせる傾向があることを認識していた。自分のストレスが発散できれば、他の人のことは考えないとも供述している。

過去に被告人が兄と喧嘩した際に、兄が家の物を壊したことがあった。警察に兄を逮捕してもらおうと通報したが、逮捕に至らなかったことから、警察への不満を募らせていたという。

街中でトラブルを起こした際は「人を殺した」と虚偽の通報をした。その件で罰金刑の判決を受けたが、警察への不満とは別に、「留置場にも入れず、残念だった」、「どんな飯が出るのか、どんな犯罪者に会えるのか」など自己中心的な思いを抱いていたという。

その経験を踏まえ、より多くの警官を動員させ、確実に逮捕されるために、各地で虚偽通報を行ったと供述した。

●動機はストレス? 母親「彼女と揉めたのが原因では」

弁護側の情状証人として、被告人の母親の尋問が行われた。

事件自体は警察が自宅に臨場したことで知ったものの、被告人本人から事前に「警察が来ると思う」と連絡を受けていたという。また、同じ日に被告人が交際相手と喧嘩したことを聞いていたので、ストレスを溜めていたのではないかと当日の被告人の心境をはかりながら証言した。

弁護人「今回の原因について本人はなんと」
母 親「ストレスと言っていますが、彼女と揉めたのが原因だと思います」

検察官からも同じく原因を探る質問がされた。

検察官「前回、事件起こしてから何か注意していたことはありますか」
母 親「彼女と距離を置くように言ってますが、守ってあげたいみたい、などと言って」

検察官「母親として何かしたことなどはありますか」
母 親「向こう(交際相手)の母親とも話しているんですが、どうも話が噛み合わなくて」

交際相手の責任と言わんばかりの主張に、弁護人、検察官からは親としての監督状況が聞かれたが、明確な答えが出ることはなかった。

●「警察に逮捕される方が手っ取り早かった」

被告人は公判中、静かにやりとりを見届けながらも、終始ヒゲを触ったり、顔のデキモノが気になるのか落ち着かない様子を見せていた。

弁護人からの被告人質問では、交際相手がストレスの原因だとする母親の証言を否定。仕事が原因だとして、以下のように続けた。

弁護人「事件の日は、どうして嘘の通報を」
被告人「彼女と喧嘩したあと、次の日仕事行きたくないなと思って」

弁護人「会社に休みたいと言わなかったのは」
被告人「当日欠勤だと、診断書を出さないといけないので」

弁護人「では通報するという手段を選んだ理由は」
被告人「前回の事件の時、警察が『次はパクる』って言ってたし、手っ取り早いかなと思って」

弁護人「通報して、警察に出頭するよう言われたのに、行っていないのは?」
被告人「ドライブがてら色んなところから通報してて、ナビもなく場所がわからなかったので。あと、行ったら車をどうしたらいいかがわからないと思って」

周囲に迷惑をかけた反省などまるで感じられないやりとりが続く。しかし、その仕草、口調などから被告人からは決してふざけて答えているという印象は受けない。その場その場で思い浮かんだことを行動して、それを包み隠さず供述しているだけと感じる。

捜査機関での取調べでは留置場への関心を示していたようだが、その時間が堪えたのか「留置場に入って、もう二度としないと決めた」と法廷では供述する被告人。今後同様の行為を行わないためには「イライラしたときに一息つけるように、止めていたタバコを再開する」と答えた。

当然、再犯の抑止として納得できる回答ではないが、自身でも「感情的になりやすい」という性格を把握した上で答えたのだと感じられた。

罰金刑以外の前科がないことのほか、被告人が反省していること、母親による生活の監督が見込まれることなどを理由に、執行猶予付きの判決が言い渡された。

しかし、法廷での印象は、被告人の反省も、母親による生活の監督も具体性は感じられなかった。ただ感じたのは、被告人が独自の思考のもと行動することに、関係者が振り回され、明確な解決案が導けなかったことに対する苦悩だった。