出場チーム数が16から24に増えてから3大会目となったユーロ2024も、あっという間に50試合が終了。決勝戦1試合を残すのみとなった。

 過去2大会同様、今大会もファンを楽しませてくれたのが、いわゆる優勝争いの常連とされる強豪国以外の第2、第3勢力の躍進。これは"拡大ユーロ"の特徴のひとつとなりつつある。

 今大会でそれを証明してくれたのは、ベスト16に食い込んだジョージア、スロベニア、スロバキア、あるいはグループ首位通過を果たしたオーストリアやルーマニア、そして4大会ぶりに存在感を示してベスト8入りを果たしたトルコといった国々だった。

 いずれも日本のサッカーファンには馴染みの薄いチームだが、そのなかには、今後のヨーロッパクラブシーンでも脚光を浴びそうな注目すべき選手がいる。そこで、今大会の活躍によって評価を上げ、さっそく移籍マーケットの"人気銘柄"になっているマイナー国の注目選手にスポットを当ててみたい。


トルコのベスト8進出に貢献したフェルディ・カディオグル photo by AP/AFLO

 まず、初出場でベスト16入りを果たしたジョージアでは、3ゴールをマークしたゲオルゲス・ミカウターゼ(23歳)が挙げられる。

 ジョージアでは、すでにGKギオルギ・ママルダシュヴィリ(バレンシア)やFWフヴィチャ・クヴァラツヘリア(ナポリ)が有名だが、ミカウターゼの名が広く知れ渡ったのは、今大会の活躍がきっかけと言っていい。

 フランスのリヨン出身のミカウターゼが頭角を現したのは、下部組織出身選手としてプロ契約をかわしたメス(今季はリーグ・ドゥ/2部)時代。デビュー当初はあまり出番がなく、ベルギーの下部リーグへのレンタル移籍で経験を積むと、2022−23シーズンはメスのエースストライカーとしてリーグ・ドゥで23ゴールを記録。得点王と年間ベスト11に輝き、フランス国内では一躍、注目を浴びるストライカーとなった。

 チームのリーグ・アン昇格の立役者となったことで、さっそく昨年の夏にオランダの名門アヤックスに引き抜かれたミカウターゼだったが、新天地ではフィットできず。ただ、今年1月に古巣メスにレンタルで復帰すると、水を得た魚のごとく、後半戦の20試合で13ゴールを量産。その勢いのまま、今大会に乗り込んだ。

【プレミア、セリエAの有力クラブも触手】

 フランス移民のジョージア人の両親の間に生まれたミカウターゼには、フランス代表を目指す道もあったが、2021年に元フランス代表DFのウィリー・サニョル現ジョージア代表監督が招集をリクエスト。それに応じたことが、結果的に今回の活躍につながった。

 今大会で記録した3ゴールのうち2ゴールはPKによるものだが、トルコ戦のゴールは彼らしいテクニカルなダイレクトシュートだった。スピードを武器とするミカウターゼはDFの裏に抜け出すプレーも得意とするが、何より、ゴール前で左右両足から正確なシュートを決める能力の高さが最大の売りだ。

 今夏の市場ではメスがアヤックスから買い戻し、現在はメスが所属クラブとなっているが、早くも日本代表FWの南野拓実が所属するモナコが2500万ユーロ(約43億2000万円)で獲得することが濃厚と見られており、今シーズンはチャンピオンズリーグリーグ(CL)の舞台に立つ可能性も高まっている。年齢を考えてもまだ伸びしろは十分で、今後は日本でもミカウターゼの名前を目にする機会が増えるはずだ。

 フランスやオランダを抑え、グループDで首位通過を果たしたオーストリアであらためて評価を高めたのが、ボローニャに所属するシュテファン・ポッシュ(27歳)だ。

 今大会の4試合すべてにフル出場を果たしたポッシュは、不動の右サイドバック(SB)としてグループリーグから大車輪の活躍ぶり。トルコに敗れたラウンド16では、身長190センチの高さを生かしてヘッドでアシストも記録した。

 ポッシュはブンデスリーガのホッフェンハイムで長くプレーしたこともあり、ドイツ国内ではそれなりの知名度があったが、当時は本職のセンターバック(CB)でプレー。ところが、2022−23シーズンにレンタル移籍先のボローニャでプレーしていた際、シーズン途中に就任したチアゴ・モッタ監督により右SBにコンバートされたことをきっかけに、ブレイクを果たした。

 2023−24シーズンは、ボローニャにとってクラブ史上初となるCL出場権獲得に主軸として貢献。持ち前の守備力に加え、労を惜しまない上下運動や高いビルドアップ能力、そして攻撃時における中央でのチャンスメイクなど、以前になかった攻撃性を兼ね備えたことで、代表でのポジションも右SBに変化していった経緯がある。

 昨夏にボローニャが買い取ったばかりなので、CLを戦う今シーズンを前に移籍する可能性は低いと見られるが、モッタ監督がユベントスの新監督に就任しただけに、引き抜きの可能性も否定はできない。もしボローニャに残留したとしても、CLでポッシュのプレーを目にすることは確実だ。

 DFとして脂が乗る20代後半にさしかかったポッシュ。今夏のマーケットにおける動向を含め、今後もチェックしておきたい注目すべき選手と言える。

 ベスト8で敗退したトルコにも、人気銘柄の選手がいる。現在フェネルバフチェでプレーする、オランダ生まれのDFフェルディ・カディオグル(24歳)だ。

 今大会で戦った5試合にフル出場を果たしたフェルディ・カディオグルは、左サイドを縦横無尽に動き回って攻守にわたって大活躍。もともとCBや右SBも対応可能な万能型DFとして注目されていたが、今大会で見せたハイパフォーマンスによって、今夏の移籍市場での評価がさらにアップした。

 さっそく、マンチェスター・ユナイテッド、ドルトムント、ナポリ、そしてアーセナルといった有名クラブが獲得競争を展開している模様で、なかでもアーセナルは40億円以上を用意して獲得交渉に臨むとする報道もある。

 仮にアーセナルに移籍となれば、日本代表の冨安健洋とポジションや役割が重なるだけに、日本のサッカーファンにとっても気になるところ。すでにフェネルバフチェ会長も今夏の引き抜きを覚悟しているといったコメントをしており、今後もアーセナルをはじめとする各クラブの争奪戦は激しさを増していくだろう。

 果たして、トルコの人気銘柄を落札するクラブはどこになるのか。新シーズンのヨーロッパサッカーを楽しむうえでも、ぜひ注目しておきたい選手のひとりと言える。