林陵平のフットボールゼミ

ユーロ2024の準決勝、優勝候補と見られていた同士の大一番、スペイン対フランスは2−1でスペインが勝利、決勝へ進出した。勝負のポイントとなった戦術はどこにあったのか。人気解説者の林陵平氏に教えてもらった。

【動画】林陵平のスペインvsフランス レビュー フルバージョン↓↓↓

【ヤマルのスーパーゴール。急激に成長している】

 ラミン・ヤマル、スーパーゴールでしたね。あのシュート、しっかりカーブをかけて巻いてますし、フランスGKのマイク・メニャンが届かない場所にしっかり届けている。16歳ですよ。とんでもない選手ですね。


ラミン・ヤマルはユーロ2024準決勝でスーパーゴールを決めた photo by Getty Images

 バルセロナでのヤマルのプレーを追ってきましたが、昨シーズン、最初のほうはああいうシュートが決まらなかったんです。だから、本当に急激な成長で、すごいなと思いました。トレーニングをしっかり積んでいるんだと思います。シュート練習していないとあそこまで上達しないと思うので。また、クロスのクオリティもすごく高いですね。

 さて、それでは試合の解説ですが、まずはスペインのメンバー。ケガをしたペドリのところに、ダニ・オルモが入りました。また出場停止があって、センターバック(CB)のロビン・ル・ノルマンのところにナチョ、右サイドバック(SB)のダニエル・カルバハルのところにヘスス・ナバスが入りました。

 一方のフランスは、アントワーヌ・グリーズマンをベンチに置いて、ウスマン・デンベレを入れました。グリーズマンはリンクマンとしてこれまでフランス代表では攻守に利いていましたが、ユーロ2024ではコンディションがあまり良くないように見えました。また、今日のゲームの戦い方を踏まえたうえで、デンベレを使ったのかなと思います。

 立ち上がりから本当に攻守に目まぐるしく、すごくテンションの高い試合になりました。そのなかで少しずつスペインがボールを保持し始めました。フランスはある程度自陣に下がって、守備のブロックを作りました。フランスの狙いは、スペインにボールを握らせて、奪ったあとにデンベレやキリアン・エムバペ、コロ・ムアニら前線のスピードを生かすことだったのかなと思います。

【中でも外でも攻撃をつくれるスペイン】

 スペインは今大会、基本的に4−3−3の初期配置から、アンカーのロドリが捕まえられた時にはインサイドハーフのファビアン・ルイスが下りてきて、ダニ・オルモまたはペドリが相手の2ライン間(DFとMF)をとる、4−2−3−1の形を使っていました。ただ、今回はフランスが自陣にブロックを作ったことで、CBのエメリク・ラポルトとナチョがフリーになるので、ファビアン・ルイスが下りてくる必要がなくなり、ダニ・オルモとともに2ライン間をとる位置が多かったです。

 フランスの中盤の3人の守備は、アンカーにオーレリアン・チュアメニ、前にエンゴロ・カンテとアドリアン・ラビオの逆三角形でしたが、スペインの攻撃時の3人も逆三角形になることが多かったので、噛み合わない状況が見られました。フランスがマンツーマン気味で捕まえようとするも、スペースが空いてしまうなど迷いが見られました。

 ただ、フランスは押し込まれた状況からボールを奪ったあとの個人の技術が高く、スペインのカウンタープレスを回避するシーンが見られました。そうしたなかで先制ゴールを奪いました。右サイドでデンベレが時間を作り、左のエムバペに届けてナバスとの1対1、そこからのクロスをコロ・ムアニがバックステップでフリーになり、ヘディングで流し込みました。

 先制はされましたが、スペインのやり方は変わりませんでした。今大会で非常に完成されているなと感じるのは、オルモとファビアン・ルイスの生かし方がうまくて、中を使ってから外に展開するシーンが多かったです。通常であれば、ウイングにニコ・ウィリアムズとヤマルがいるので、外から1対1で突破するというのが多くなるんですが、中でも外でも攻撃をつくることで、相手が読みにくくなっています。

 またニコとヤマルのポジションも外だけではなく、ハーフスペースに入ってSBのオーバーラップを使うなど、4−3−3におけるウイング、インサイドハーフ、SBの関係性が左右ともにすばらしいです。

 この試合では、フランスの1トップのコロ・ムアニの守備に対し、ラポルトとナチョの2CBのどちらかがフリーになって、ドリブルで持ち運べるのも大きかったです。フランスはこれを嫌がってカンテが前線に捕まえに出ると、今度はロドリやファビアン・ルイスにボールが渡る。これでボールの出し手を抑えにいくか、受け手を抑えにいくかでフランスには迷いが生じていました。

 スペインのヤマルの同点ゴールは、ナチョからオルモに縦パスが入り、押し込んだところから生まれたものでした。逆転ゴールも先述したサイドの関係。右から上がったナバスのクロスから生まれました。オルモのゴール時のボールタッチは、ちょっと異次元でしたね。

【フランスは大会を通じてパッションに欠ける戦い】

 対してフランスのほうは、スペインとは違って外のデンベレ、エムバペを使っての展開だけになってしまいました。スペインのように中盤の3人をうまく使って、中を見せておいてから外、となると、もっと外のふたりが生かされるんですが。

 チームとして中からどうやって前進するか、中を使ってどう相手を攻略するかが見えなかった。これは大会を通してずっと見えなかったので、得点も少なかったのだと思います。

 スペインがリードして、今度はフランスがボールを持って押し込む時間が出てきましたが、アンカーのチュアメニがDFラインに下りてくることが多かったんです。状況に応じて下りるのは全然問題ないと思うんですが、チュアメニが下りることで中盤ではラビオも下りてきて、全体的に後ろに重いポジション取りになり、1トップのコロ・ムアニが孤立することにつながりました。

 後半、フランスはラビオがボールを触り始め、中を使えるようになり、外からのクロスが多くなりましたが、なかなか決定機にはつながりませんでした。62分にカンテ→グリーズマン、ラビオ→エドゥアルド・カマビンガ、コロ・ムアニ→ブラッドリー・バルコラと3枚替えで動き、エムバペを真ん中にしました。

 個人的にはボールを触り出していたのでラビオを残してほしかったですし、クロスが上がっていたので、この時点でオリビエ・ジルーを入れたほうが相手は怖かったのではないかなと思いました。

 ジルーはその後79分にデンベレと代わって入ってきました。エムバペとふたりで前線を組み、グリーズマンが右サイドの方へいく形になりましたが、グリーズマンはサイド突破からクロスを上げるタイプではないと思います。このあたりの選手交代の使い方や時間など、狙いがよくわからなかった部分がありました。

 フランスはどういうわけか今大会はテンションが上がらず、パッションや迫力に欠けるところがありました。戦術や個人の技術よりも大事なもの。選手から見えるオーラや勝ちたいという思いが見られなかった感じがします。

 スペインはリードしたあともゲームをコントロールしながら、うまく戦っていました。攻撃だけでなく守備、攻守の切り替えの部分など、攻守4局面での完成度の高さが見られました。