eコマースの巨人Amazonがその広大なオンラインストアの一角に、ティームー(Temu)を思わせる格安商品の売り場を開設するという。Amazonではことしも各種販売手数料の値上げが相次いでおり、低価格ストアの開設計画という「追い打ち」に、出品者たちは戦々恐々としている。

6月下旬、ニュースサイトの「ジ・インフォメーション(The Information)」が、Amazonは低価格の衣料品や家庭用品を中国の倉庫から直接出荷するオンラインストアの開設を計画しているようだと報じた

困惑するほどの激安価格で知られるティームーやシーイン(Shein)との激化する競争に対抗する動きであることは明らかだ。

市場シェアと競争力の課題



ジ・インフォメーションは中国の販売業者が招待制の会合に参加したこと、およびその際配布されたプレゼンテーション用のスライド資料に言及しているが、この資料を見る限り、新設される低価格ストアはAmazonのウェブサイトに独自のセクションとして表示されるようだ。同じくこの資料によると、商品は9日から11日程度で顧客の手元に届くという。

また、Amazonが中国の販売業者に語ったところによると、出品者登録はこの夏から始め、在庫の受け入れは秋になるもようだ。これまで、中国を拠点とする出品者は米国にあるAmazonの倉庫を経由して商品を配送していた。

米モダンリテールが取材した6人ほどのAmazon出品者は、価格に敏感な米国の消費者が中国のネット通販業者に流れている昨今、「低価格ストアは市場シェアの侵食につながりかねない」と口を揃える。eコマースマーケティング企業のオムニセンド(Omnisend)が行った最近の調査によると、「ティームーを信用している」と回答した米国の消費者がわずか7%だったにもかかわらず、過去1年間にティームーで商品を購入した人は68%にのぼった。

洗える犬用トイレパッドを販売するパピブー(Pupiboo)のロリ・バーズビー氏は「新しくできるという低価格ストアは、米国の出品者の競争力に大きな影響を与えるだろう」と話し、「Amazonの買い物客はただでさえ価格に敏感だ。格安商品専門のストアが開設されれば、我々の市場シェアをさらに脅かすことになりかねない」と続けた。

ティームーとシーインはいまや米国でも人気のプラットフォームだが、信頼性の問題から利用をためらう顧客も少なくない。しかし、「Amazonのネット通販業者としての定評はこの障壁を取り除き、中国勢の激安商品へのシフトを加速させるおそれがある」とバーズビー氏は言い添えた。

しかも、Amazonではことし手数料の新設や改定が相次いでおり、これがこの問題をさらに深刻化させている。以前の取材で複数のAmazon出品者が米モダンリテールに語ったところによると、おかげで事業の全面的な見直しを余儀なくされ、利益率も圧迫されているという。

パピブーのバーズビー氏もこう語る。「各種手数料の値上げの上に低価格ストアとの価格競争が重なれば、小規模な事業者は立ちゆかなくなる。Amazonでの事業継続は難しくなるかもしれない」。

模倣品問題への懸念とプライベートブランドへの影響



一方、Amazonの広報を担当するマリア・ボスケッティ氏は、「Amazonは、より豊富な品揃え、より低い価格、より大きな利便性で顧客に喜んでもらうため、販売パートナー各社と連携する新たな道を常に模索している」とコメントしている。

ゆりかごやおむつ替えマットなどのベビー用品を販売するジュールベイビー(Jool Baby)で最高経営責任者(CEO)を務めるジュダ・バーグマン氏は、「Amazonに低価格ストアが新設されることで、もっとも大きな打撃を受けそうなのが知名度の低いプライベートブランドだ」と指摘する。

同氏自身のブランドはAmazonだけで年間8桁の売上があり、ほかにもウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)などの大手小売店を通じて商品を販売しているため、それほど大きな脅威を感じていないという。同氏はむしろ、Amazonにはびこる模倣品の問題がさらに悪化することを懸念しているようだ。

Amazonは同社プラットフォームでの模倣品の販売や知的財産権の侵害を禁じており、問題解決のための措置を講じている。Amazonが2023年に開設を阻止した模倣品業者のアカウント数は70万件にのぼるという。

それでも、模倣品の根絶は難しい。過去にはビルケンシュトック(Birkenstock)やナイキ(Nike)など、模倣品対策の不備を理由にAmazonでは自社製品を販売しないと表明した有名ブランドもあった。

「中国の出品者が海外から安く容易に販売できるようになれば、多くの腐ったリンゴを招き入れることにならないかと懸念している」とバーグマン氏は述べている。

ブランド計画の見直しと品質管理



一方、Amazonでキャンドルやコーヒーなどを販売するエヴァ・ハート氏は、家庭用のインテリア製品を扱う別ブランドの立ち上げを計画しているが、ティームーのような低価格ストアができるなら、新ブランドの計画は中止したほうがよいかもしれないと悩んでいる。

「新設のプラットフォームで安く売られることが分かっている商品を、新たに扱うことなど検討することさえ慎重になる」とハート氏は述べている。

Amazonが高級品を含む有名ブランドの出店勧誘にことさら力を入れていることを考えれば、この低価格ストア開設のニュースはいかにも不可解だとハート氏はいう。

たとえば、Amazonは2020年には「ラグジュアリーストア(Luxury Stores)」を立ち上げ、出店する高級ブランドに商品の表示方法などについてより広範な裁量を認めている。

ベビーカーやチャイルドシート用の遮光サンシェードを販売するスヌーズシェード(SnoozeShade)のカーラ・セイヤーCEOは、「Amazonの低価格ストアはコンプライアンスや製品の安全性などについても問題を提起する」と指摘する。

「いったんこの制度がはじまれば、製品の品質管理は難しくなるだろう。それでも顧客は、Amazonで売っているのだから使っても大丈夫に違いないと思い込む」とセイヤー氏は話す。

「このストアで販売する商品の品質管理は誰が担当するのか。何か問題が生じた場合、誰が責任を負うのか。誰も燃焼性試験を行っていないのであれば、子どもが火傷を負ったからといって、中国の製造工場に乗り込むわけにはいかない」。

スヌーズシェードが実店舗での販売から撤退し、シアトルに本社を置くAmazonのプラットフォームに移行したのは10年以上前のことだが、以来、Amazonで競争力を維持するのは難しくなる一方だとセイヤー氏は打ち明ける。ティームーのような競合ストアの出現は、この問題に拍車をかけるだけだ。

「我々は非常に厳しい状況に追い込まれている。破綻する事業者がいくつも出てくるだろう」とセイヤー氏は続ける。「正直に言えば、顔面に一発食らった気分だ」。

[原文:Amazon’s reported Temu-like discount store likened to ‘slap in the face’ by sellers]

Allison Smith(翻訳:英じゅんこ、編集:坂本凪沙)