旗手怜央がレアル・マドリード戦で感じた衝撃 林陵平が感嘆するグラスゴーのサッカー文化
旗手怜央の欧州フットボール日記 第25回
林陵平×旗手怜央 特別対談・後編
旗手怜央と人気解説者・林陵平氏の対談の後編。旗手選手がセルティックで体験したチャンピオンズリーグやレンジャーズとのオールドファームダービーのすごさを語ります。
対談前編「旗手怜央が目指している選手、林陵平がオススメする選手」はこちら>>
【動画】旗手怜央が語る海外でのプレーの難しさ「強烈な個が必要」
【CLでフェイノールト&ラツィオ、一昨季はレアル・マドリードと対戦】林陵平(以下:林) 昨季はチャンピオンズリーグ(CL)で何試合プレーしましたか?
旗手怜央(以下:旗手) 昨季は3試合に出場しましたが、アトレティコ・マドリードとの試合は、すぐに(前半7分)にケガをしてしまったので、実質はフェイエノールトとラツィオの2試合です。
旗手怜央(左からふたり目)がチャンピオンズリーグやグラスゴーダービーのすごさについて語った photo by Getty Images
林 CLでフェイエノールトとラツィオと対戦して、どう感じましたか?
旗手 正直、(2022−23シーズンに)レアル・マドリードと対戦した時のイメージが強く残っているのですが、国によってサッカーの特徴がまったく異なる印象を受けました。フェイエノールトはボールを大事にする一方で、守から攻に切り替えて、攻撃にクッと出て行く時のスピードが、スコットランドよりもはるかに速さを感じました。ただ、自分たちもチャンスはあったので、そういった決定機を決めきれていれば結果は変わっていたのではないかと思います。ラツィオと対戦した時は、まだ監督が代わる前で。
林 マウリツィオ・サッリ監督が率いていましたよね。
旗手 そうです。監督がチームをしっかりとオーガナイズしていて、対戦していても興味深かったですが、感じたのは純粋に個々の身体能力の高さでした。いわゆる5大リーグといわれる国でプレーしている選手たちは、身体能力が高いことをすごく感じましたし、そこを体感できたのはCLだけでした。
林 ラツィオでは誰がうまいと感じましたか?
旗手 僕が対戦した試合では、途中出場でしたがペドロですね。チームのために走れるし、なおかつ僕らとの試合では、最後の最後で彼に得点を奪われてしまった。途中から出てきて、それをやってのけるんだと、(ベンチから)見ていてもすごさを感じました。あと、10番のルイス・アルベルト、(鎌田)大地くん、アンカーのマティアス・ベシーノもうまいと思いましたけど、個人的にすごさを感じたのはペドロでした。
【バルベルデが想像以上に速かった】林 先ほど、レアル・マドリードと対戦した印象が強く残っていると話してくれましたが、やっぱり衝撃的でしたか?
旗手 かなり衝撃的でした。
林 特に誰がすごかったですか?
旗手 正直、全員です。誰がとかではなく全員がすごかった。そのなかでも、強いて挙げると、フェデリコ・バルベルデとルカ・モドリッチ。彼らは本当にすごかったという言葉しかないですね。
林 ピッチにモドリッチとかバルベルデがいると、ミーハーな気分にならないですか? すごい人たちだなって。
旗手 試合前に整列して並ぶじゃないですか。そこでティボー・クルトワがいた時には「でっかいなー」みたいな。そのあとに、いろいろと有名な選手がいるので、「すごいな」とは思いましたけど、試合開始の笛が鳴る前には、その気持ちがなくなり、戦うモードに切り替わりました。笛が鳴った瞬間はそうした憧れもなくなりましたね。
林 いわゆるゾーンに入ったってことですよね。
旗手 そうですね。ゾーンに入りました。
林 ピッチ上のバルベルデは、アスリートとしての能力もバケモノですか?
旗手 速かったですね。映像で見ても速いことはわかると思うんですけど、想像していた以上にめちゃめちゃ速かったです。加えて賢いので、出ていくところと絞るところの使いわけと、また攻撃でも少しテンポを上げるところと、落とすところも考えながらプレーしていたので、すごいなって。
林 レアル・マドリードは今季、CLで優勝しましたからね。
旗手 そうですよね。「それは」ってなりますよね。
【ダービーでは試合前日から街の雰囲気が違う】林 ホームであるセルティックパークはいつもたくさんの観客が来ていますが、やはり(レンジャーズとの)オールドファームは盛り上がるのでしょうか?
旗手 ホームは毎試合、ものすごい後押しがあるので、サッカー選手としてああいう雰囲気のなかでプレーできることは本当に幸せだと、毎回のように感じています。声援もそうですし、人数もそう。でもダービーの日は、試合前日からちょっと街の雰囲気が違う感じはします。
林 ダービーはやっぱり特別なんですね。
旗手 昨季のレンジャーズとのアウェーゲームには、セルティックのサポーターが入場できなかったんですね。だから、全部がレンジャーズのファン・サポーターだけだったのですが、実はそのなかでプレーする気持ちよさも感じました。相手のサポーターの前で試合をするあの感覚は、ちょっと癖になるというか(笑)。
アウェーでゴールを決めることはできなかったですが、ちょっといいプレーをすると、現地の人たちは嫌でも「あ〜、あ〜」みたいな声を出すんです。その声を聞くと、思わず「いいね、いいね」って感覚になる。そこは日本ではなかなか経験できない反応でした。そういう雰囲気でプレーできることはすごくいいなって思いますし、選手同士もほかのリーグ戦とは異なる球際の激しさも感じます。
林 常に満員の観客のなかでプレーできている慣れがあるからこそ、日本代表の活動で帰国して、満員のスタジアムでプレーする時も、いつもと変わらない平常心でプレーできているのかもしれないですね。
旗手 でも、日本代表は、(周りの)人がというよりも、あのユニフォームを着てプレーする限り、僕は緊張しますね。いい緊張感ですけどね。あのユニフォームを着たいという憧れを持って今までサッカーをしてきたので、今もいざ袖を通すとなるといまだに緊張しますし、気持ちも昂ぶります。観客がたくさんいる、いないは関係ないかもしれないですね。
林 やっぱり、日本代表のユニフォームを着ると、身が引き締まる思いがするというか。
旗手 あのユニフォームは特別ですね。そんなに何回も着ていないですけど、やっぱり毎回、誇りを感じますね。
【グラスゴーでプレーできるのは特別】――オールドファームに話を戻すと、ダービーの前日や翌日の街中の反応も違うのでしょうか?
旗手 全然、違います。(2021−22シーズンに加入した)最初のダービーでホテルに前泊した時に、おそらくレンジャーズのファン・サポーターだと思うんですが、打ち上げ花火をあげてきたことがありました。たぶん、僕らを寝かせないように。
林 海外のよくある話ですね。
旗手 外でバンバン、バンバン、花火が鳴ってるんですよ。それで、次の日のレンジャーズ戦(2022年2月3日)でゴールを決めて、翌日に街に出ると、レンジャーズファンの人が、車を運転している僕を見つけて、中指を立ててきたりして。そこで、「ああそうか」とヨーロッパでプレーしていることを実感しました。
林 ヨーロッパならではですね。
旗手 だから、本当に試合前日、試合翌日の雰囲気はやっぱり違いますね。みんながプライドを持って応援していることがわかります。セルティックならセルティックファンとして、レンジャーズならレンジャーズファンとしてのプライドをみんなが持っている。
これも例えばですけど、家の修理にレンジャーズファンの人が来たことがあったんです。スマホにレンジャーズのマークが貼ってあるからわかるんですよ。「あっ、これ、大丈夫かな」と思って。家を修理してもらったんですけど、「俺はこれ(レンジャーズ)に誇りを持ってるから」って言っていて。「でも、お前のことは応援してるから頑張れよ」とも言ってくれて。誇りを持ちつつも、そうした優しさはどのチームのファン・サポーターも持っているなって思います。
林 やっぱり、フットボールの文化が根づいている。
旗手 それは強く感じます。今はあのスタジアム、あの街でプレーできることが、選手として特別なことなのではないかと思っています。ヨーロッパのほかのチームでプレーしていないので、比べられはしないですけど、特別なことなんじゃないかって感じていますね。
【客席からプレーを要求する声が来る】――セルティックパークでは、「ターン」(前を向け)や「マノン」(相手が来ている)といった言葉がスタジアムに響くという話を聞きました。客席からの声で選手が気づき、危険を回避できると。また、それがセルティックパークの強みでもあると聞いたことがあります。
旗手 選手が言っているのか、ファン・サポーターが言っているのかはわからないですが、その言葉を聞いたことはあります。あとはシュートシーンやペナルティーエリアの外からシュートを打てる状況だと、「打てよ」という意味も込めて「シューー!」って言ってきます。そこもすごいですよね。
林 ヨーロッパと日本で、応援のスタイルは異なりますよね。ピッチ内に向ける見る目が変わっていけば、日本のサッカー界はもっと成長していくと思うので、そこは(解説者をしている)僕の仕事でもあると思っています。
そろそろ時間も迫ってきたので、まとめに入ると、今回初めて対談してみていかがでしたか?
旗手 楽しくサッカーの話をさせてもらいました。僕としてはプレミアリーグの解説でいつも声を聞いている方と話せたのはうれしかったですね。ただ、今回は小ネタを挟んでもらえなかったので、僕がもう少しネタを提供できていればよかったなって反省してます(笑)。
林 真面目に語りましたからね(笑)。僕も今回、旗手選手と対談できて、光栄でした。来季のCLでセルティックの試合を担当した時には、いいプレーを解説することはもちろん、今回、話した内容を小ネタとして紹介できたらと思っているので、その時はよろしくお願いします(笑)。