仁川現代製鉄レッドエンジェルズ(韓国) 
田中陽子インタビュー 後編

2019年にスペインへ渡り、2022年からは韓国でプレーしている田中陽子をインタビュー。全力で海外経験を楽しみ、人間性にもより深みを感じさせるようになった。現在所属の仁川現代では、ピッチの内外、若い選手から外国籍選手まで、田中自ら声をかけてディスカッションしている。30歳を迎え、そのプレースタイルは少しずつ変貌。そうした日常にどのような考えで向き合っているのだろうか。

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中編「田中陽子はなぜスペインの次に韓国を選んだのか?」>>


田中陽子になでしこジャパンや現在のサッカーとの向き合い方について聞いた photo by Hayakusa Noriko

【プレースタイルは変わりました!】

――田中さんのなかでのボランチ論は、海外移籍を経て変わってきましたか? というのも、練習を見ていると......常にコンタクトプレーにならないようなポジショニングを取ってますよね。

 ふふふ(笑)、わかります? プレースタイル、変わりました! 実は、今までだったら4−4−2のガッツリボランチって苦手だったんですよね。

――でも4−4−2が苦手だったら、当時の日本では生きにくかったのでは?

 そうなんですよ(笑)。若い頃はもっと攻撃、攻撃! って感じだったから、強いチームに行かないとその形にならないじゃないですか。でもノジマで違う形を学んで、スペインに行って強さとサッカー観を学んで......一番はスペイン人の"サッカーの本来の熱さ"に触れて、ちょっと変わってきたんです。

 当初は「蹴るサッカーの何が面白いんだ」って思っていたんですけど(笑)、やってみて、「こういうところで違いを作ってるんだ」とかがわかってきた。中盤だったら、MF同士で相手に勝つという、細かいところの楽しさが見えてきました。「蹴るサッカー=単純」じゃないんだと気づくことができたんです。守備する強さ、感覚、キック力がついたから、逆に4−4−2が楽しくなってきました!

――そんななか、フリーキックもかなり念入りに練習していましたね。

 一番、確実にゴールに絡めるものですから。スペインでも磨いてきたキック力なので、ゴールは狙っていきたいです。

【代表は"選ばれるもの"】

――これだけいろんな種類のサッカーに触れて、楽しんでいると、代表という存在は田中さんのなかではどういう位置づけになっているのでしょう?

 う〜ん......なんていうか、代表って"選ばれるもの"ですから。初招集の頃って私も若かったこともあって、アンダー世代とフル代表の雰囲気の違いに圧倒されちゃったんです。ワールドカップ優勝後だったし、プライドを持って戦うチームがもうすでにできあがっていて、自分はそこで楽しさを見つけることができなくて、難しさを感じたのを今でも覚えてます。それでも代表に行きたい! ってあの時の自分は思えなかった。

 今、自分のなかではやっぱり「楽しい!」って思うことが大前提にあります。自分にとっては内容、過程がすごく重要だから、あそこ(代表)は選ばれるもの、結果(代表)はあとからついてくるものだと思っています。苦しいかもしれないけど、自分がそれを楽しめるかどうかも大きいから。

――今、ヤングなでしことして一緒に戦った田中美南選手(INAC神戸レオネッサ)選手が、攻撃陣ではなでしこ最年長でがんばっています。彼女の動向は気になります?

 ハイライトでよく見ますよ。ベレーザで、ある時からフィジカルも強くなってたくさん得点し始めて、INACに入ってからプレースタイルも確立したなって思います。今もなでしこジャパンとして生き残って戦ってるんだからすごいですよ。自分のなかのミナのイメージはよく"泣く"(笑)。でもそこは必ず"がんばる!"がセットなんです。そういう感情を出せるのもミナのいいところ。活躍、応援してます!

【韓国での日常会話は問題ないです】

――田中さんはピッチ上でも、すごく周りとコミュニケーションを取っていますが、韓国語のほうは?

 今、聞く、読む、書く、日常会話は問題ないですね。表現が日本語と似てるんです。なんかカワイイんですよ。だから面白くて。すべてが楽しいので、息抜きは必要ないかも(笑)。でもカフェにもサウナにも行くし、美容大国ならではの楽しみもありますし、ゴハンは美味しい!

 日本から近いけど、意思表示は日本より明確にしないといけないし、言葉や環境が違う感覚は海外と同じです。韓国はプロリーグじゃないから興行的なところもシビアでなくて観客は少ないんですけど、プレー環境はおそらく日本よりも整っていると思います。だから、(本格的な)海外移籍の前段階として臨むのもいいんじゃないかと思うんですよね。

――韓国も2年目。そろそろ次の移籍を考えてウズウズしてくる頃でしょうか。今後日本でプレーする可能性もありますか?

 チャレンジしたいことがあれば、それは日本でもどこでも関係はないですね。ただ、今のこの環境にめっちゃ満足してるから、現段階では特にこうしたいっていうのがまだ出てこない。そういうマインドが生じて移籍の流れが来るのがいつものパターンなので、流れが来なかったら、もうしばらく韓国でがんばるかもしれません。

――まだまだ田中選手には伸びしろを感じます。

 韓国では、外国籍のボランチがゲームをコントロールすることがないからこそ、そこにチャレンジする楽しさがあります。難しいからこそ楽しい! 問題が生じた時、その解決策を見つけるのが楽しいんです。新しい発見ってワクワクするでしょ? 何も発見できないほうがつまらないですよ。今こういう状況、自分の問題はなにか、チームや相手の問題はなにか、すべての状況を見ながら改善して、トライしてみると見えてくるものがあるはずですから。


韓国での今のプレーは「難しいからこそ楽しい!」という田中陽子 photo by Hayakusa Noriko

――常に分析するんですね。

 分析できないと何も解決できないからですね。まずは自分を見て、全体を見る。チームメイトにはここまで詳しくは伝えないけど、やる姿は絶対に見せる。サッカーの場合はそれが結果として見えるからいいですよね。話すことと見せること。そこまでやって解決しないなら、ここではなくほかに問題がある。逆にここまでやったんだからって、自分の出した結論に対する自信にもなります。

――大概の人はそうした過程を苦しいと感じるのだと思います。

 それがいいのに! あ〜、でも周りからはよく変態だと言われます(笑)。自分でも自覚はあります。サッカーだけでなく、すべてにおいて変態的に取り組むタイプみたいです(笑)。
(おわり)

田中陽子 
たなか・ようこ/1993年7月30日生まれ。山口県山口市出身。中学からJFAアカデミー福島に所属。2010年のU-17女子W杯では準優勝に貢献。2012年INAC神戸レオネッサに入団。同年に日本で行なわれたU-20女子W杯で活躍、3位の原動力となった。2015年にノジマステラ神奈川相模原に移籍し4シーズン半プレー。2019年からはスペインへ渡り、スポルティング・ウエルバ、ラージョ・バジェカーノ・フェメニーノに所属。2022年からは韓国の仁川現代製鉄レッドエンジェルズでプレーしている。