Amazon年間最大のセールイベント、プライムデー(Prime Day)。データインテリジェンス企業シミラーウェブ(Similarweb)によれば、2日間に及ぶ今年の同イベントは、昨年を上回る147億ドル(約2兆3740億円)の売上を記録することが見込まれているという。シミラーウェブはこの売上増をAmazon.comの1〜5月の売上傾向を追跡して割り出しているが、もしこれが現実のものとなれば、昨年の約130億ドル(約2兆990億円)という記録を14%超上回る、過去最大のプライムデーとなる。Amazonによれば、昨年の同イベントでは、バーゲンに飢えた買い物客により、全世界で3億7500万点以上のアイテムが購入されたという。6月下旬に行われた公式発表によると、今年のプライムデーは7月16〜17日に開催される。シミラーウェブによるこの分析は、さまざまな要因を基に割り出されている。シミラーウェブの概算では、たとえば、Amazon.com上のアクティビティは昨年と比較して売上ベースで10%増加している。販売個数とトラフィックも、それぞれ前年比で14%と7%増加している。

消費者が直面する金利上昇と物価高

引き続きしぶといインフレが支出に重くのしかかってはいるが、大幅なディスカウント目当ての買い物客がプライムデーを大いに盛り上げることになりそうだ。米モダンリテールがすでに報じているように、消費者はかつてないほどバーゲンに目を光らせるようになっている。金利の上昇により、大きな買い物の資金調達にもコストがかかるようになっているからだ。データを見る限りでは、6月に入ってインフレもいくらか弱まってきたが、金利と物価の上昇は依然として続いており、米国内の消費者信頼感はむしろ悪化している。5月の米小売売上高も低調で、消費者が直面している経済的圧力が続いていることを示唆した。シミラーウェブによれば、Amazonの平均販売価格は前年比で3%下がっているという。これは、物価高が買い物客をバーゲンへと走らせていることの証しだ。また、プライムデーでもっとも売れるカテゴリーのひとつである家電の売上も、5月に前年比で10%の下落を記録した。これもまた、プライムデーのディスカウントを見越して、買い物客が高額商品の購入を見送っていることの証しとなる。シミラーウェブでeコマースリサーチリーダーを務めるイネス・デュランド氏は、「インフレが落ち着きつつあっても、依然として消費者には大きなプレッシャーがのしかかっている」と語る。「消費者の大多数は、こうしたバーゲンを利用して、使うお金以上のものを手にしたいと思っている」筆者はAmazonにもコメントを求めたが、回答はなかった。

中国系新興企業の台頭

消費者のあいだで起きている、いわゆる「ステッカーショック」は、テム(Temu)やシーイン(SHEIN)といったAmazonのライバル企業の台頭とも符合している。これらライバル企業は、超低価格を武器に米国での人気を急増させている。オンラインショッピングの王者は依然としてAmazonであるものの、これらeコマースの中国系新興企業が市場占有率をますます高めていることを示すサインもいくつかある。マーケティング企業オムニセンド(Omnisend)が米国内の消費者1000人を対象に行った調査によれば、5人に1人が週に一度、テムやシーイン、TikTokショップ(TikTok Shop)、アリエクスプレス(AliExpress)といった中国系プラットフォームで買い物をしているという。また、この調査から、21%がAmazonは高すぎると感じていることもわかっている。インフレ疲れの消費者にとっては、ディスカウントが最優先事項のひとつとなっているようだ。Appleによれば、2023年に米国でもっともダウンロードされたiPhoneアプリは「Temu」だったという。ちなみに2022年は「SHEIN」だった。デュランド氏によれば、2015年の開始以来、プライムデーの売上は毎年確実に伸びているという。プライムデーはもともと、プライム会員の新規登録を増やすための方法のひとつとして始まった。米国におけるAmazonプライムの現在の年会費は、139ドル(約2万2450円)だ。プライム会員になると、配送料の割引やストリーミングサービスのプライムビデオ(Prime Video)といった特典が利用できる。プライムデーの人気は凄まじく、いまではほかの小売業者も独自の会員限定セールを開催するようになっている。しかも、どのセールもプライムデーとほぼ同時期に行われている。ウォルマート(Walmart)は6月24日、7月8〜11日にかけてセールを開催すると発表した。6月に1週間の会員限定セール、ウォルマートウィーク(Walmart Week)を行ったばかりだというのにだ。

Amazonの攻勢とTikTokの急成長

Amazonは今年のプライムデーに向けて、さまざまなソーシャルメディアインフルエンサーの力を借りて、一部のお買い得商品をいち早く手に入れられるようにするなどのプロモーションを展開している。さらには、ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンに、プライムデーのための楽曲制作を依頼した。これは、AmazonがTikTok(TikTokは昨年、自社のeコマースプラットフォームを米国デビューさせている)を活用して、プライムデーの売上を伸ばそうとしていることを示す、ひとつの証しだ。とりわけいまは、検索エンジンとしてTikTokアプリを使うZ世代が増えている。

ミーガン・ジー・スタリオンを起用したAmazonプライムデーのプロモーション動画

「消費者、そして彼らのショッピングリストにとって、TikTokはますます大きな要因になりつつある」とデュランド氏は言う。「TikTokでトレンドになっていて、消費者のウィッシュリストの対象になり得るものなら、どんなものでも大ヒットするチャンスがある。オンラインショッピングという体験にそれが占める一角は、今後さらに重要度を増していくはずだ」。それはまた、競争激化の一途をたどるeコマース市場におけるシェアを、Amazonが守ろうとしているということも示唆している。そして、その対抗勢力の筆頭が、TikTokショップなどの新興サービスだ。コアサイト・リサーチ(Coresight Research)の小売アナリスト、ジョン・マーサー氏は、「eコマース、とりわけ価格をめぐっては激しい競争が繰り広げられている。それを踏まえると、これは世間の関心を取り戻すための取り組みといっていいだろう」と語る。プライムデーの売れ筋といえば電化製品と相場が決まっているが、今年は美容やパーソナルケアに関連する商品も売上の大きな一角を占めるのではないかと、デュランド氏はにらむ。Amazonはここ数カ月、ビューティブランド、とりわけ高級ブランドのラインアップの強化に取り組んでいる。同社は、今年のプライムデーの日程を発表するプレスリリースのなかでも、エスティ・ローダー(Estée Lauder)のクリニーク(Clinique)やキールズ(Kiehl’s)など、トップビューティブランドの名前をいくつか挙げている。両ブランドはそれぞれ、3月と5月にAmazonのマーケットプレイスに加わった。

効果が薄れつつあるプライムデー

ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)で最高商業戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏によると、プライムデーが誕生して以降、Amazonは年間を通してセールイベントをほかにも開催するようになっており、プライムデーの輝きはいくらか弱まってきているという。たとえば、2022年10月には、プライムデーのような第2のセールイベントが行われた。同じ年にこうしたイベントが2つも行われるのは、はじめてのことだった。そして昨年の秋にも、年末商戦に先駆けてこのパターンは繰り返された。「バーゲンハンティングの仕方を消費者に教えるという意味では、Amazonはいい仕事をしてきた。しかし、Amazonのエコシステム全体のなかでは、プライムデーの効果は弱まりつつある」と、ゴールドバーグ氏は語る。事実、アンディ・ジャシー氏がCEOに就任して以来、Amazonはコスト削減に力を入れる一方で、クラウドコンピューティングや広告といった、利益率の高い自社事業への投資にも力を入れてきた。より正確な広告のターゲティングと測定を求めているマーケターに向けて、Amazonは自社(とそのファーストパーティ顧客データ)を頼りになるプロバイダーとしてアピールしている。年商470億ドル(約7兆5900億円)を誇る同社の広告部門がプライムデーで勢いづいても、何の不思議もない。ゴールドバーグ氏はこう述べている。「すべてがお互いの糧となっているということだ」。[原文:Inflation-battered shoppers are expected to drive another sales record for Amazon’s Prime Day]Allison Smith(翻訳:ガリレオ、編集:戸田美子)