リチウムイオンバッテリーはさまざまなガジェットやEV、再生可能エネルギーの貯蔵などに利用されており、クリーンエネルギーを推進する上で重要な役割を果たしています。ところが、リチウムイオンバッテリーは「永遠の化学物質」と呼ばれるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)による汚染の原因になっていると、科学誌のNature Communicationsに掲載された論文で報告されました。

Lithium-ion battery components are at the nexus of sustainable energy and environmental release of per- and polyfluoroalkyl substances | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-49753-5



Lithium-Ion Batteries Are an Unidentified and Growing Source of PFAS Pollution | Duke Pratt School of Engineering

https://pratt.duke.edu/news/pfas-lithium-ion-batteries/

Lithium-ion batteries have a forever chemical problem - The Verge

https://www.theverge.com/24194493/forever-chemicals-pfas-lithium-ion-ev-rechargeable-batteries

PFASはアルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物の総称であり、数十年にわたり製品の熱や薬品への耐性を上げるためにさまざまな製品で使われてきました。ところが近年、PFASは分解されにくく長期にわたり環境中に残留し、がんや低出生体重児のリスク増加といった健康被害をもたらすことが判明し、社会的な問題となっています。

今回、テキサス工科大学やデューク大学などの研究チームは、そんなPFASのひとつである「ビスパーフルオロアルキルスルホニミド(bis-FASIs)」という物質について研究しました。bis-FASIsはリチウムイオンバッテリーの電解質や接合剤として使われていますが、それが環境にどのような影響を及ぼすのかは詳しく分かっていません。

研究チームがアメリカやベルギー、フランスのbis-FASIs製造工場周辺のサンプルを調査したところ、土壌・堆積物・水・雪に含まれるbis-FASIs濃度が1ppb(10億分の1)に達していることが判明。アメリカ環境保護庁が2024年4月に定めた規則では、飲料水における主要な5種類のPFAS濃度の上限値が1〜4ppt(1兆分の1〜4)となっており、1ppbという数値はこれらの制限値より桁外れに高いといえます。

さらに研究チームは、ノートPCやスマートフォン、タブレット、EVなどで使用されている17種類のリチウムイオンバッテリーをテストし、そのうちの11種類でbis-FASIsを検出しました。リチウムイオンバッテリーのうちリサイクルされているのはわずか5%と推定されているため、アメリカ南東部の複数の埋め立て地で採取された浸出水のサンプルについても調査を実施。その結果、浸出水からは1ppbに近いbis-FASIs濃度が検出されたとのことで、廃棄されたリチウムイオンバッテリーからbis-FASIsが環境中に放出されている可能性が示唆されています。



記事作成時点ではbis-FASIsに関するアメリカの連邦規則はありませんが、毒性検査ではサンプルで見つかったのと同じ濃度のbis-FASIsが、水生生物の行動やエネルギー代謝プロセスを変化させる可能性があると示されました。その一方で、飲料水からPFASを除去するために用いられている粒状活性炭とイオン交換を使った既存の方法で、水中のbis-FASIs濃度を低減できることも確認されました。

論文の筆頭著者でテキサス工科大学の環境工学准教授を務めるジェニファー・グエルフォ氏は、「私たちの研究結果は、クリーンエネルギーインフラの製造・廃棄・リサイクルにまつわるジレンマを明らかにしました。EVのような技術革新によって二酸化炭素排出量を削減することは重要ですが、PFAS汚染を増加させるという副作用を伴ってはなりません」と述べました。