ユーロ2024決勝トーナメント準々決勝・最終日。ここまで躍進を遂げて注目の存在となっていたスイスはイングランドに、トルコはオランダにそれぞれ敗れた。

 それまでどれだけいい戦いをしていても、最後はビッグネームの前に萎縮してしまい、本来の戦いができなくなる──。ワールドカップでも見られる伝統国と新興国(スイスやトルコは新興国ではないが)の勝敗の構図に、切なさを感じてしまった。この見えない壁を破るには、年月以外に何が必要なのだろうか。


仲間を鼓舞してチームを引っ張るベリンガム photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 イングランド相手に、先制したのはスイス。後半30分、右サイドでボールを受けたファビアン・シェアが内側に切り込んでエリア内に縦パスを通すと、走り込んだダン・エンドイェがゴール前に折り返し、それをうしろでタイミングを図っていたブレール・エンボロがゴール左隅に押し込んだ。

 ところが、ここからがイングランドの真骨頂。その5分後、ブカヨ・サカのスーパーゴールで同点に追いつく。それまでのらりくらりとしていても、ハリー・ケインやジュード・ベリンガムら生粋のゴールゲッターを擁するイングランドは、流れなどお構いなく一発を決める。試合はそのまま1-1で延長戦を終えたのち、PK戦を制したイングランドが準決勝に駒を進めた。

 今大会で注目を集める21歳のベリンガムは、現在5試合を終えて2ゴール。ファンの期待に100パーセント応えているとは言いがたく、スイス戦でも得点を生み出せなかった。ケインの1トップの下にフィル・フォーデンと並ぶ形では、どうしてもふたりのプレーエリアが重なり、動き回るケインのスタイルともうまく噛み合っていない。この日もシュートも2本しか打てなかった。

 人気選手が期待を裏切れば、それはメディアにとって公然と批判できるチャンスなのだろう。現地メディアは試合のパフォーマンスそのものではなく、スロバキア戦での下品なゴールパフォーマンスにUEFAが罰金を科したことに乗じて、過去の悪態について振り返ったりしていた。

【叩かれまくるベリンガム。本当はいい奴?】

 ドイツ最大のタブロイド紙ビルトのスポーツ版『SportBild』でさえも、「ベリンガムはドルトムントに在籍していた頃も評判が悪かった」と掲載。ドルトムント時代のベリンガムが試合後にファンからセレブレーションを受けている際、拍手を受けてから前に出る主役然とした振る舞いにチームメイトは腹を立てていた......という話まで掘り起こしている。

 その記者は「アーリング・ハーランドがマンチェスターシティに去ったので、おくれをとったことに焦りがあったのだろう」と推察まで加えていた。実際に選手から話を聞いて書いているだろうが、これはもう、ただの悪口だ。ベリンガムには気の毒だが、パフォーマンスを発揮できないとこんな検証しようもない話まで書かれてしまう。

 しかしベリンガムは、スイス戦後も毅然とした態度で前向きな姿勢を貫いている。BBCのインタビューに対して「今大会で最高のパフォーマンスだった」と答え、「試合をかなりコントロールできていたし、スイスのようないいチームに先制された瞬間でも、まだ守備には余裕があった」と話し、0-1になってもなお焦りはなかったと語っている。

 攻撃に関しては課題を感じているものの、それにも自信を示す。

「まだ大きなチャンスが少し足りない。ただ、チャンスは十分につくれなかったが、多くの相手を脅かす攻撃と、すばらしいプレーはあった」

 また、5人全員が成功したPK戦についても胸を張った。

「仲間を誇りに思う。キャラクターやメンタリティは目に見えないものだが、それをPKで証明することができた。試合の途中から出てきて10回もボールタッチしていない選手が、国中の期待を背負ってPKを蹴るなんて特別なこと。成功した選手たちは特別な選手だ」

 彼が発するコメントを聞いていると、自身のゴールが遠くなろうともチームプレーに徹しようとする、なかなかいい奴に見えてくる。

 もちろん、ベリンガムの本当の姿はわからない。だが、周囲から「つまらないサッカー」と揶揄されながらも、主軸としてチームを準決勝まで導いている。イングランドは前回大会、決勝戦まで上り詰めながらもPK戦の末にイタリアに敗れた。その苦い記憶を払拭することができるか、ベリンガムの戦いは続く。