「紀州の角中勝也」和歌山東・谷村剛は木製バットでヒットを量産 初見の投手でもフルスイングできる強みでプロを目指す
金沢高×和歌山東 ゲームレポート(後編)
前編:金沢高の遊撃手・齋藤大翔は全国トップレベルの守備力と強メンタルはこちら>>
今春にドラフト戦線に台頭してきた齋藤大翔(金沢)と谷村剛(和歌山東)が直接対決した、高校野球練習試合レポート。後編では「近畿トップクラスの強打者」と評判の谷村について紹介していこう。
「紀州の角中勝也」の異名をとる和歌山東の谷村剛 photo by Kikuchi Takahiro
和歌山の高校野球関係者の間で谷村剛が「紀州の角中勝也(ロッテ)」と評されていると聞き、思わずヒザを打った。
金沢との練習試合では、谷村の「安打のバリエーションの豊富さ」が際立った。バットの芯を外されながらも、しっかりと振り切って一、二塁間をゴロで抜くしぶといヒット。変化球を手元まで呼び込んで、左半身で粘ってとらえる技ありのレフト前ヒット。自分の間合いで強くとらえて、ライナーで左中間を抜くパワフルな二塁打。しかも、そのすべてが木製バットを振りこなしての打撃だった。
打球が力強いだけでなく、確実性もある左打者。たしかに、NPBで首位打者を2回獲得している角中と打撃スタイルが重なって見える。
谷村に自身の打撃について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「最近はずっと木のバットで打っているんですけど、バットを柔らかく使うことを意識しています。バットをしならせる感覚が自分には合っているので、金属より木のバットのほうがいいですね。どんなピッチャーのボールでも初見からしっかりと振っていけて、2ストライクに追い込まれたらコースに逆らわずに広角に打てるのが持ち味です」
6月上旬の時点で高校通算19本塁打。そのうち2本を木製バットで放っている。とはいえ、高校生の強打者としてはとりたてて多い数字ではなく、守備・走塁面に大きな特徴があるわけでもない。ドラフト指名を狙うにあたって、アピールが難しいタイプの選手と言えるかもしれない。
それでも、谷村は高らかに「プロ志望」を明言する。
「冬に監督さんから『プロを狙え』と言っていただいて、自分もプロに行きたいと思っていたのでプロ志望届を出すことにしました」
【木製であれだけ振れる選手はいない】和歌山東の米原寿秀監督は、2010年に軟式野球部から硬式野球部に移行したばかりの同校をゼロから育て上げた指導者だ。教え子には津森宥紀(ソフトバンク)らがおり、2022年春には甲子園初出場へと導いている。
米原監督はプロ志望の教え子であっても、メディアやスカウトに対して過剰なプレゼンテーションをする指導者ではない。選手のいい部分も悪い部分も、包み隠さずに伝えることが選手の将来につながると考えているからだろう。
その米原監督が谷村に「プロを狙え」と伝えたということは、相当な自信があるのではないか。そう推察して米原監督に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「木のバットをあれだけ強く振れる選手は、近畿地方にもそういませんから。どんなタイプの投手が相手でも、強いスイングができるのが強みです。体もまだまだ大きくなるはずですし、伸びしろがあります。レベルの高い世界で技術を吸収した時、もっと成長できる選手だと感じています」
高校時代に本塁打を量産した打者であっても、プロ入り後に木製バットへの順応やキレのあるボールの前に伸び悩むケースも多い。だが、谷村のように打撃の引き出しが多く、初見の投手にも強く振っていける打者なら、ハイレベルな環境に順応するスピードも早いのだろう。
夏に向けての課題を聞くと、谷村はやや浮かない表情でこう答えた。
「今日は、単打はよく出たんですけど、最近、打球が上がらないんです。突っ込んでしまうクセをなくして、打球に角度をつけていきたいですね」
金沢との練習試合のあと、谷村は練習試合で4本塁打を重ね、高校通算本塁打数は23本になった。夏の和歌山大会は7月13日、南部龍神との初戦を迎える。
「気持ちを前面に出す野球で、チーム一丸となってやっていきたいです」
そう言って、谷村は口元を引き締めた。初見殺しの「紀州の角中勝也」は、第1打席のファーストスイングから見逃せない。