ユーロ2024準決勝4強が抱える強みと弱み 優勝候補筆頭スペインに死角はない?
ユーロ2024準決勝は、スペイン対フランスが7月9日(日本時間10日4時〜)にミュンヘンで、オランダ対イングランドは7月10日(日本時間11日4時〜)にドルトムントで行なわれる。
2戦とも、どちらが勝ってもおかしくない好カードである。しかし、この4チームのなかで準々決勝の戦いぶりが最もよかったチームを挙げるならば、断然、スペインとなる。ここにきて英国のブックメーカー各社がスペインを優勝候補の本命に推す理由はよくわかる。
ブックメーカーの下馬評は以下、イングランド、フランス、オランダの順で並ぶ。つまり、スペイン対フランスは1番人気対3番人気、オランダ対イングランドは4番人気対2番人気の戦いとなる。
スペイン対フランスは、1996年欧州選手権以降だと公式戦で7度対戦していて、スペインの2勝2分3敗となっている。直近の対戦は2021年にミラノ・サンシーロで行なわれたネーションズリーグ決勝で、この時はフランスが2−1で勝利した。
当時と現在とで、顔ぶれ的にもサッカー的にも変化が著しいのはスペインだ。ニコ・ウィリアムズ(左/アスレティック・ビルバオ)とラミン・ヤマル(右/バルセロナ)の両ウイングが出現したことで、従来の"中盤サッカー"から一変。左右の均整が取れたピッチを広く使うサッカーに様変わりした。ユーロ2008、2010年W杯、ユーロ2012と、国際大会を3連覇した当時とはまったく別の方法論で頂点の座を狙っている(カッコ内は2023−24シーズンの所属クラブ。以下同)。
準々決勝ドイツ戦で勝利の立役者となったダニ・オルモ(スペイン) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
ただこの両ウイング以上にノッたプレーをしているのがダニ・オルモ(ライプツィヒ)だ。それまではスタメンではなく、ペドリ(バルセロナ)と交代で出場することが多かったが、前戦のドイツ戦ではペドリが前半早々に負傷退場したことで登場時間が早まり、プレー時間が延びた。その分、抜け目のなさ、勘のよさ、キレのあるドリブルを披露する機会が増えた。1ゴール1アシストはその産物だった。
ダニ・オルモこそが勝利の立役者だった。ペドリの回復次第だろうが、フランス戦は先発が濃厚だ。さらに左SBのマルク・ククレジャ(チェルシー)、センターハーフ的なファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)も特筆すべき活躍を見せている。好調な選手を数多く抱えている点にスペインの強さを垣間見ることができるのだ。
【スペインに弱みがあるとすれば...】フランスの決定的な問題は得点力不足だ。5試合で奪った得点わずかに3。失点も1と少ないので、堅守を称えることもできるが、ゴールへのルートが不鮮明な、非攻撃的で娯楽性の低いサッカーを展開していることは確かである。これまで使った選手も18人で、25人のスペインと比べて7人も少ないことも、見劣りする。よく言えば少数精鋭となるが、使える選手の絶対数が不足した状態にあると言ったほうがいい。
延長PK戦で勝利したポルトガル戦も、峠を過ぎたクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)を引っ張りすぎた、相手の敵失に救われたと言うべきだろう。直近のW杯2大会で連続して決勝に進出している"顔"で、なんとかここまで勝ち上がってきた印象だ。
しかし、このフランスを相手に、国際大会3連覇した実績を持つスペインがビビることはないだろう。
スペインに弱みがあるとすれば、センターバック(CB)のロビン・ル・ノルマン(レアル・ソシエダ)と右サイドバック(SB)のダニエル・カルバハル(レアル・マドリード)のふたりが出場停止になることだ。フランスの左ウイング、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン→レアル・マドリード)と対峙することになる代役候補が38歳のヘスス・ナバス(セビージャ)だとすれば、不安を覚えずにはいられない。
もっとも、スペインの右ウイング、ヤマルが活躍すれば、一方のフランスの左SBテオ・エルナンデス(ミラン)は、低い位置に留まらざるを得なくなる。エムバペをサポートする余力は失われる。
同じ理屈は逆サイドの関係にもあてはまる。
スペインの左サイド=ニコ・ウイリアムズ、ククレジャと、フランスの右サイド=ジュール・クンデ(右SB/バルセロナ)とウスマン・デンベレ(右ウイング/パリ・サンジェルマン)だ。この両翼における2対2の関係になにより目を凝らしたい。この優劣が勝利の分かれ目になるだろう。
翌日のオランダ対イングランドだが、ブックメーカー各社の予想では、スペイン対フランスより接戦度が低いと読まれている。つまり、イングランドに楽観的な予想を立てている。
【弱点はイングランドの左、オランダの右】事実、オランダの準々決勝対トルコ戦の戦いぶりは芳しくなかった。トルコを甘く見たのか、楽をして勝とうとした感じがありありで、秩序に欠ける、ノリの悪い雑なサッカーに陥り大苦戦した。印象を10段階評価で述べれば、ギリギリ5といったところになる。
スイスを延長PK戦で制したイングランドも、格下に苦戦するという構図は同じで、褒められる出来映えではなかったが、オランダとの比較でいえば上だった。10段階で6程度だろう。
しかし、だからと言ってこの準決勝が5対6の関係になるとは限らない。イングランドは安定感で勝るが、マックス値ではオランダが勝る。オランダの場合は情緒不安定なところもあるので、そのマックス値が90分間でどれほど維持できるか怪しい限りだが、ツボにハマるとイングランドには拝みにくい高度なプレーが飛び出す。
具体的な見どころは、左ウイングのポジションでありながら、これまで3ゴール、1アシストを決めるなど、オランダ最大のストロングポイントとなっているコーディ・ガクポ(リバプール)を、イングランドがどう止めるかだ。
切れ込んでシュートもあれば、縦突破もある。ガクポの凄みはトルコ戦でも存分に発揮されていた。また、メンフィス・デパイ(アトレティコ・マドリード)、シャビ・シモンズ(ライプツィヒ)とのコンビネーションも上々だ。
ガクポと対峙するイングランドの右SB、カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)との1対1は、まさにプレミア対決である。ここでウォーカーが押し込まれると、その前方で構えるブカヨ・サカ(アーセナル)は孤立する。
一方の逆サイドは両チームにとってウィークポイントだ。イングランドにとっての左サイド、オランダにとっての右サイドだ。
キーラン・トリッピアー(ニューカッスル)とフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)で縦関係を組むイングランドの左。デンゼル・ダンフリース(インテル)がドニエル・マレン(ドルトムント)、ステーフェン・ベルフワイン(アヤックス)、シモンズら複数の選手と縦関係を組むオランダの右だ。
トリッピアーは後方待機型で、フォーデンは左にいたたまれず、真ん中にポジションを移動する癖がある。両者のコンビネーションはかなり悪い。オランダも右ウイングに最適解が見つかっていない。右のサイド攻撃はSBダンフリースの攻撃参加に頼りがちで、安定性に欠ける。お互い左右のバランスが悪いのだ。
イングランドは先のスイス戦で相手の5バックに対抗して3バック的な変則4バックで戦い、フォーデンのポジションもそれにともなって内寄りになった。終盤、故障で休んでいた本来は左SBのルーク・ショウ(マンチェスター・ユナイテッド)が左のCBで登場。オランダ戦は左SBとして出場する可能性もあるが、それでもフォーデンの問題は残るだろう。
両サイドで抜けが悪い現象に陥るとサッカーは活性化しない。真ん中攻めに偏ると非効率を招く。そうした視点に立つと、4チームのなかではスペイン、さらにはフランスの優位性が高くなる。サイドを制すものは試合を制す展開になると、筆者は見ている。