中国動画サイトによる日本アニメ配信栄枯盛衰!反日暴動の陰で始まった日本アニメの今【中国オタクのアニメ事情】

写真拡大 (全5枚)

中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

今回は中国で日本のアニメを配信している、または配信していた動画サイトの栄枯盛衰などについて紹介させていただきます。

反日暴動の陰で始まった日本のアニメの配信

 

中国における日本のアニメ配信が本格的に始まったのは2012年の後半に楽視(LeTV)で配信された「ソードアート・オンライン」からではないかと思われます。

2012年は尖閣諸島問題に関連して中国で大規模な反日暴動が発生した年です。当時の中国ではアニメや声優のイベントなど日本関連のオタク系イベントを行う流れが拡大しており、オタク関連分野の中国進出の動きもそこかしこに出ていましたが、暴動の影響によって大きくブレーキがかかることになりました。中国における日本のアニメの正規配信はそういった動きの陰で始まりました。

 

この配信が成功して「ソードアート・オンライン」が人気を獲得して以降、中国の動画サイトでは日本のアニメの正規配信が拡大していき2013年の終わりごろにはLeTV(楽視)、iQIYI(愛奇芸)、Sohu(捜狐)、テンセント(騰訊)、Tudou(土豆)などのサイトで日本の新作アニメが配信されるようになっていました。(サイト名は2013年当時のもの)

この時点では、各サイトで配信される新作アニメはまだ10作品未満でしたが「黒子のバスケ」や「進撃の巨人」といった作品が配信され大人気となり、日本のアニメが有力なコンテンツとして中国の業界から注目を集めるようになっていきます。

 


ちなみに中国における日本のアニメの権利購入や正規配信に関する大きな動きは2011年ごろからいくつか出ていたものの、当時の中国で発生した動画サイト業界再編の動きもあってか有耶無耶になってしまったようです。

また日本側でも試験的に2011年にニコニコ動画で「Fate/Zero」第1期が八か国語字幕対応の配信が行われたほか、本格的な商業化以前のbilibiliで2012年に「Fate/Zero」第2期が配信されました。

もっとも八か国語字幕版の方は、中国における規制サイトにニコニコ動画も含まれていたため、中国のアニメファンが見るには中国のファイアウォールを突破する必要がありましたし、bilibiliでの配信は現地の許可などの問題があったのか、中国の関連部門から配信中止命令が出てしまったそうです。

2014年に出た外国産コンテンツ規制強化の通知、2015年のブラックリスト発表

 

中国で日本のアニメが正規配信されるようになった時期は、中国国内で欧米ドラマなどの外国産コンテンツ配信が加熱、急拡大していた時期でもあります。

当時の中国の動画サイトにおける外国産コンテンツの配信については、グレーゾーンになっていた部分も多く、実質的に

「動画サイトが運営許可証を取得していれば、簡単な届け出で動画サイトの自主裁量範囲内で配信可能」

といった状況になっていたようです。しかしさすがにそのままではいられず中国では2014年に動画サイトで配信されている外国コンテンツの管理厳格化の通知が出されました。

 

さらに日本のアニメに対しては、2015年に中国の政府機関の文化部(当時)から日本のアニメがアップロードされている動画サイトに対して

「未成年を違法な犯罪に誘導する、未成年を暴力やポルノ、テロ活動、公序良俗を危険にさらすことをさせる内容のアニメ作品を提供した疑いがある」

として取り締まりが入り、中国の動画サイトで多数の日本のアニメ作品が視聴不可になるという事件が発生しました。

その後発表されたブラックリストの中には、当時の中国で正規配信されていた「進撃の巨人」、「寄生獣」、「東京喰種トーキョーグール√A」、「ソードアート・オンライン」、「PSYCHO-PASS」などの人気作品も含まれていたことから現地のオタク関連業界は大混乱に陥りました。

このブラックリストに挙がった作品の中にはその後「復活」した作品もありますが、「進撃の巨人」のように実質的に断絶状態になってしまった作品もあります。

 

この時期の中国における日本のアニメ配信はiQIYIが「進撃の巨人」で大ヒットとなり、さらに当時の中国最大手動画サイトのパワーや検索エンジンのバイドゥによるビッグデータの活用などによって業界トップに躍り出ますが、この規制以降は日本の新作アニメの配信規模を徐々に縮小していき、配信する日本のアニメも一般向けや子供向け作品中心になっていったようです。

また2014年後半からは商業化したbilibiliが日本のアニメの正規配信に参入し、その後の中国における日本のアニメ配信、オタク文化の中心地のひとつになっていきます。

 

この時の規制と取り締まりは、中国における日本のアニメ配信に対する最初の大きな転換点となりましたが、この当時を知る方々と以前話した際には

「あのころは、日本のアニメ作品の版権に関してもある種のバブル的な盛り上がり方になっていた気がする」

「日本の新作アニメの配信作品数はこの数年後の方が多くなるが、どこまで行くかわからない価格の高騰という意味ではこの時期がピークだったようにも思う」

といった見解も出てきました。

 

実際、当時は日本のアニメ番組の価格が高騰し過ぎて現地の動画サイトもさすがについていけない、目玉となる大人気作品は複数の動画サイトで費用を分担して配信しようという動きになったなどの話も聞こえてきましたし、業界に詳しい中国オタクの方からは

「おそらく『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』などが、日本アニメ版権バブルの頂点だったのでは……」

という話も出ていました。

 


この一連の規制によって中国の動画サイトにおける日本のアニメの配信に一時的なブレーキがかかったものの、現地の手続きや権利関係、ビジネスモデルの変化とともに日本のアニメの配信自体は拡大を続けていくことになります。

 

この時期の中国ではネットの広告頼みのビジネスモデルが厳しくなってきたことや、中国国内のソーシャルゲーム産業の急成長もあり、オタク分野でも二次元系ソーシャルゲームが収益の柱になっていきました。

 

当時は動画サイト側も中国産アニメの制作配信に力を入れる、日本アニメの独占配信ラインアップの強化や版権管理の強化を行う、有料会員向けの配信の導入などさまざまな方針を打ち出していましたが、アニメの配信だけではあまり儲からないという状況にもなっていったようです。

 

そして日本の新作アニメを配信する動画サイトも変化していき、2018年前後にはbilibiliとiQIYIが二巨頭を筆頭に、他にはテンセントやYouku(優酷)、Acfunなどが新作アニメの配信を定期的に配信するようになるものの、2020年ころにはbilibiliが一強となり20〜30作品を毎シーズン配信、他の動画サイトにおける新作アニメの配信は毎シーズン数作品程度になっていきました。

もっとも新作アニメの配信を縮小や配信停止したサイトでもそれとは別に一般向け、子供向けの日本のアニメや特撮を配信するなどしていたので、日本のコンテンツと完全に切れているわけではなかったようです。

商業化したbilibiliの拡大、新型コロナ以降の規制管理の厳格化

 

一連の規制によって日本のアニメの配信にブレーキがかかった他の動画サイトとは逆に、商業化したbilibiliは日本系のコンテンツの扱いを拡大していきました。当時のbilibiliはアニメの他にも国産ソーシャルゲームなど自前のコンテンツを展開したり、「Fate/Grand Order」や「プリンセスコネクト!Re:Dive」といった日本のソーシャルゲームの中国版を運営したりと支持を拡大し、いわゆる「二次元文化」の中心的プラットフォームになっていきました。



この時期の日本のアニメ配信はビジネス的には以前ほどおいしいものではなくなっていたようですが、動画サイトを含むネットの各種コンテンツが存在感を強めていた時期でもあり、bilibiliで配信される日本のアニメの再生数も大きく伸び中国における影響力も増していったようです。

 

2020年ごろのデータになりますが、2015年以前にbilibiliの新作アニメ枠で配信された作品で累計再生数1億を超えていた作品は「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」や「四月は君の嘘」、「オーバーロード第一期」程度でしたが、2015年以降は年に数本は1億再生超え作品が出るようになります。それどころか、「Re:ゼロから始める異世界生活」、「小林さんちのメイドラゴン」、「転生したらスライムだった件」、「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」、「オーバーロード第2期」、「オーバーロード第三期」などの作品は再生数が2億を超え、「鬼滅の刃」にいたっては5億を超えるヒットを記録しました。



2010年代後半の中国では、日本のオタク系コンテンツの存在感が以前にもまして強まり、アニメ好きの若い世代だけでなくネットにアクセスできる一般層にも需要を持つジャンルとなっていった感もあります。

しかしそれと並行して、日本の作品に限らずアニメもソーシャルゲームも定期的に規制が入るなど、中国特有の不安定な部分が見え隠れしてもいました。

そして当時の流れを変える決定的な規制となったのが、新型コロナ以降の中国国内における状況変化です。

 

新型コロナの流行以降、中国国内では娯楽分野全体に対する規制が強まり動画サイトもそのターゲットとなりました。そのうえ日本のアニメに関しては2021年から始まったアニメ配信に関する「日本アニメの番号管理厳格化」や、配信前に内容の審査を行う「先審後播」が徹底されるようになり、日本国内での放映とほぼタイムラグなしで配信できていた中国の新作アニメ配信は大混乱に陥ることに。

当時の中国では、bilibiliなどで新作アニメの版権獲得や配信予告が出ていたのに配信されない作品が続出することになり、かなり遅れて配信の始まった作品に関しても以前よりも多くの箇所、内容に削除修正が入っていました。

 

この規制以降、中国で日本での放映とのタイムラグなしで日本のアニメを配信するのは非常に困難になり、作品によっては内容に関しても以前と比べてかなり大きな修正が必要になりました。

現在日本のアニメを配信するために必要な手続きや修正には、以前と比べて高いコストがかかるようになっていますし、審査の通過や規制と通報リスクを避けるために大きめの安全マージンを取って行われる修正削除、自主規制は当然ながら現地のアニメ視聴者には不評です。

 

また中国ではありがちな話とはいえ、規制や審査に関する明確なガイドラインがなく、その時の上の風向き次第だというのも大きな問題になっています。中国のオタクな方々からは

「規制の予測と対応が難しいので配信スケジュールの見通しが立たなくなり、配信予定作品の告知、配信の有無の予告すら難しくなっている」

などといった悲痛な声も聞こえてきます。

そしてその結果、視聴者側が新作アニメの情報に接する機会も減少し、中国のオタク界隈では新作アニメ関連の話題と盛り上がりが目に見えてトーンダウンいくことになりました。

 

この「新作アニメ関連の話題の減少」によって、中国では毎シーズン新作アニメ枠として全体にかかっていた盛り上がりと話題性のブーストも縮小し、日本の放映から時間が空くことによってネット上の盛り上がりも日本や他の国と共有できなくなり、作品数の減少以上に新作アニメの配信は寂しいものとなっていきます。

 

この時期の一連の規制は中国国内の娯楽分野全般、特にネット関連がターゲットになったとされていますし、日本のアニメだけが規制されたわけではないのですが、中国における日本のアニメ配信、特に新作アニメの配信は非常に厳しい状況に直面することになりました。そしてその状況は現在も変わっていません。

最盛期にはbilibiliやiQIYIで1シーズンに20〜30作品の日本の新作アニメが配信されていましたが、現在ではシーズン初めごろから配信される、または配信告知のある作品は数作品程度、その後に徐々に追加されてようやく10作品を超えるくらいとなっています。

 

ちなみに当時この規制に直面した中国の業界に詳しいオタクの方々からは「日本のアニメ作品を買って流すビジネス」は終了したという話も聞こえてきました。また中国のオタク界隈では

「ひとつの時代が終わったということなのだろうか」

という発言も出ていましたが、後から考えてみるとこの言葉のとおりだったようにも思えます。

 

以上のように中国の動画サイトにおける日本のアニメ配信は大規模な規制が発生する度に勢力図が変動してきました。直近での最大手はbilibiliでしたが、ここ数年の規制の影響で何かと寂しいことになっています。そして現在の中国ではbilibiliの後継となるような存在は出ていません。

 

もっとも近年は日本でも何かと目立っている中国国産ソーシャルゲームが二次元系ジャンルの旗印になっていますし、ネット上では二次元関連のショートムービーも大きなジャンルになっているようです。

また規制の影響による所も大きいとはいえ、昔の中国では「現実的ではない」とまで言われていた有料会員、有料配信という形式も今では定着していますし、日本製劇場版アニメの中国国内上映もヒットが続いています。

そんなわけで私自身としては、「日本のアニメを中国で配信する」という形式に関して、今後にあまり希望は持てないものの、中国に広まった日本のオタク文化や日本のオタク系コンテンツの影響、現地での受け取り方や楽しみ方といったものに関しては今後も何かと興味深いことになりそうだと考えております。

 

百元籠羊

90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。


>> 中国動画サイトによる日本アニメ配信栄枯盛衰!反日暴動の陰で始まった日本アニメの今【中国オタクのアニメ事情】 の元記事はこちら