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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 日本フードサービス協会によると、2024年5月の居酒屋業態の売上高は2019年同月比で67.2%。コロナ禍が収束してもなお、7割にも達していません。店舗数も3割以上減少しています(「外食産業市場動向調査」)。

 飲み会文化が消失した日本において、居酒屋企業は大きく変化しました。

◆2019年から「255店舗」を閉店していた魚民

 居酒屋を運営する企業の中で、収益力の回復が特に著しいのが「魚民」を運営するモンテローザ。店舗数を大幅に削減して営業利益率を高めたのです。

 同社の2019年3月期の売上高は1081億円でした。2024年3月期は634億円まで減っています。需要の減少よりも早いスピードで売上高は下がりました。

 チェーン店の公開情報を調査した日本ソフト販売によると、2024年1月の「魚民」の店舗数は337(「【2024年版】飲食店チェーンの店舗数ランキング」)。2019年9月は592でした。実に255店舗も少なくなっています。

 モンテローザが保有する店舗や設備などが主となる有形固定資産は、2019年3月末時点では370億円ありましたが、2024年3月末は133億円まで縮小。閉店によって圧縮する様子がわかります。

◆他社を圧倒する「モンテローザの利益率」

 モンテローザは杉並区梅里にあった本社を2022年に高円寺に移転しています。本社ビルは売却したとも言われており、コロナ禍で徹底的な資産の整理を行ったものを考えられます。

 それにより、稼ぐ力は劇的に上がりました。2024年3月期の営業利益率は9.2%。2020年3月期は1.9%でした。「鳥貴族」を運営し、業績が堅調のエターナルホスピタリティグループの営業利益率は4.2%。モンテローザと同じく不採算店を閉鎖し、業績回復が著しいワタミの外食事業が4.1%。現在のモンテローザの利益率は他社を圧倒しています。

 モンテローザ原価率は25%でコロナ前と変化していません。すなわち、物価高に合わせて価格調整を行っていることになり、値上げによって利益率を高めたわけではないことになります。

 販管費率はコロナ前の70.8%から66.0%まで下がりました。不採算店舗の整理と店舗オペレーションの最適化によって経費の削減に成功しているのでしょう。アルバイトなどの人件費が高騰する中でこれだけの利益を出しているところに、今のモンテローザの強さが出ています。

◆“非上場ならではの戦い方”が成功

 数多くの居酒屋企業は、宴会需要消失の煽りを受けて新業態を立ち上げました。ワタミは焼肉店、大庄は定食、鳥貴族ハンバーガーショップを新たに開発しています。モンテローザも「からあげの鉄人」や焼肉「俺の店」などを立ち上げていますが、店舗数は限定的。退店して経営効率を上げることに集中したのでしょう。

 株主への配慮や説明に気を取られることなく、やるべきことに集中する姿は非上場のモンテローザらしい戦い方だと言えます。モンテローザの売上高は600億円台で下げ止まりました。今後は競合他社の動向を見極めながら、出店攻勢に出る可能性もあります。

◆ワタミと鳥貴族、それぞれの現在地

 ワタミも収益力を高めました。2024年3月期の国内外食事業のセグメント利益率は4.1%。2020年3月期は0.5%でした。ただし、売上高は2020年3月期の7割程度。店舗は491から328まで減少しました。

 2024年度のテーマの1つにインバウンドの獲得を掲げています。2021年12月に「すしの和」を出店してすし業態に参入していました。2023年7月にインバウンド出店戦略の1号店と銘打って浅草に同じブランドの店を出店しています。握りずしを一貫88円から提供するなど、いわゆる外国人向け価格ではありません。