NTTの澤田純会長(C)日刊ゲンダイ

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【企業深層研究】NTT(上)

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 NTTは6月20日開催の株主総会で澤田純会長(68)の代表権を外した。会長職は続ける。コーポレートガバナンス(企業統治)の観点を踏まえて島田明社長(66)に権限を集中する。

 2022年6月、26年ぶりに代表権のある会長に就き、事実上、トップであり続けた。昨年には経団連副会長に就任。日米経済協議会の会長として財界人の人脈づくりに努めている。

 澤田氏が財界活動に注力するもう一つの狙いは、悲願としてきたNTTの完全民営化を実現させたいからだ。

 自民党は昨年8月、党本部で「NTT法のあり方に関する検討プロジェクトチーム(PT)」の初会合を開いた。NTT法の廃止も含め、競争力強化や経済安全保障などの観点から株式売却の可否について検討を本格化させた。

 NTT株の売却案が浮上したのは、防衛予算の確保のためだ。政府は23〜27年度の5年間の防衛費の総額をこれまでの1.5倍超の43兆円にする方針。その財源確保のため、増税することを決めた。

 しかし、増税には国民の反発が大きい。自民党は増税以外の財源を探すための特命委員会を設置した。そこで急浮上したのがNTT株の売却案だった。

 NTT法で、政府は株式の3分の1以上を保有すると定められている。

 党防衛関係費の財源検討に関する特命委員会の委員長を務める萩生田光一政調会長(当時)は当初、防衛力強化の財源確保に向けてNTT株の売却の是非を検討すると提唱していた。その後、NTT法が世界で競争する制約になっているとし、同法の廃止にまで議論が拡大。国際情報通信大手NTTの変革につながる可能性が出てきた。

 NTTの完全民営化構想に欣喜雀躍したのがNTTグループのドン・澤田会長だったとされる。

 18年6月、NTT社長に就任した澤田氏はグループ再編を進めてきた。20年末に4兆円超という国内企業のTOB(株式公開買い付け)で過去最高額を投じ、上場子会社のNTTドコモを完全子会社にした。

 NTTグループは再統合に向けて動き出した。澤田氏が持論とする「ドコモコムコム(ドコモ、NTTコムウェア、NTTコミュニケーションズ)の融合」だ。グループの再編で「グローバル企業になって国際市場で再挑戦」する。

 NTTは将来的にICT(情報通信技術)の世界標準を握る“切り札”として「IOWN(アイオン)構想」を掲げている。IOWNとはネットワークの技術基盤を丸ごと変えてしまう構想のことだ。現在のITは電子で情報を伝送・処理するのが基本だが、さらにスピードを上げると発熱と電気使用量の増大という壁に直面する。IOWNは光で情報をやりとりすることによってこの壁を越え、低消費電力、大容量を実現しようというもの。

 IOWNを切り札として、海外に打って出る。競争相手は中国のファーウェイであり米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)にほかならない。

 グローバルに再挑戦するには半官半民の企業から脱し完全民営化は願ってもないことだ。

 だが、NTTの完全民営化によって、NTTが外国資本に狙われ、国の重要なインフラである通信を握られてしまうことを強く警戒する議論も自民党内にはある。高市早苗経済安保担当相は、中国などを念頭に「(株を)懸念国に全部買い上げられてしまうようなことのないような議論を期待する」とクギを刺した。

 競合3社のKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは「公正な競争環境の確保のため、NTT法の廃止に反対する」との意見を表明した。

 岸田政権の裏金問題による迷走もあり、NTT法廃止の論議は停滞している。

 澤田会長が財界活動に軸足を移すのは、政治の場でNTT法廃止による完全民営化論議を再燃させるという隠された思惑もある。 =つづく

(有森隆/経済ジャーナリスト)