輪島高校の教室を借りて再開した学習支援で生徒と話す、地域おこし協力隊員の藤川恵里さん(右)=6月19日、石川県輪島市

写真拡大 (全2枚)

 石川県輪島市で地域おこし協力隊員を務める藤川恵里さん(40)が、輪島で暮らす100人へのインタビューをまとめた冊子作りを進めている。

 取材も残り2人だけとなった1月、一緒に取り組んでいた仲間を能登半島地震で失ったが、話を聞いた人々の熱い思いを形にすることを選択。5月に最後の取材を終え、年度内の発行に向け作業は佳境に入った。

 広島県廿日市市出身の藤川さんは、3年前に旅行で偶然訪れた輪島の温かな人や自然に魅了された。高校生と地域をつなぐ協力隊員に応募し、2022年12月に移住。オーストラリア留学で培った英語力を生かして高校生の英語学習を支援するほか、輪島の朝市で生徒と一緒に訪日客の観光案内も行った。

 昨年4月から、同じく協力隊員の末藤翔太さん=当時(40)=らが取り組んでいた企画に加わった。輪島に住む漆器職人や漁師、農家、医師ら100人に話を聞き、地域の魅力や仕事の楽しさを高校生に伝えてもらう内容だった。話を聞いた人に次の人を紹介してもらい、毎週2〜3人にインタビュー。98人まで達し、年明けに次の取材をしようとしていたところで元日に地震が起きた。

 帰省先で被害を知った藤川さんが、知人の車に乗せてもらい、輪島に戻ったのは1月28日。末藤さんが倒壊した自宅の下敷きになって亡くなってから約1カ月がたっていた。夜になっても明かりのない静かな街。身近な人の死にも実感が持てなかった。

 それでも、冊子作りの手は止めなかった。地元を愛する人たちが語ってくれた輪島の将来や夢を形にしたかったからだ。5月中旬には100人目のインタビューを終えた。今年度中に編集を終え、100部を学校の図書館や公共施設などに配布。高校生に限らず幅広く読んでもらおうと考えている。

 地震後は輪島市外へ避難する高校生もおり、学習支援も以前のようにはできていないが、活動をやめたいとは思わなかった。「末藤さんがいたから最後までできた。優しく熱心で、一緒に仕事をするのが心強かった」と藤川さん。冊子が完成したら、今度は地震後の思いを聞くインタビューを行いたいという。「輪島でしかできないことがたくさんある。いろいろな人とつながり続けたい」。