―葬祭市場は実質的な縮小傾向も周辺事業の裾野広がる、葬祭DXも拡大へ―

 2023年の合計特殊出生率が1.20と過去最低を更新したことを受けて、 「少子化」への関心が高まっている。特に、初めて1を割り込み0.99となった東京都では危機感が強まっており、7月7日に投開票が行われる都知事選挙でも、各候補が対策の強化を打ち出し、争点の一つともなっている。

 その少子化と並んで進展しているのが「高齢化」だが、核家族化で高齢者自身が自分の最期をより良いものにしようとする「終活」に引き続き高い関心が集まっている。都知事選で「少子化」が話題となるなか、その一方で注目される「高齢化」に関連する話題として「終活」に焦点を当ててみたい。

●日本の死亡者数は過去最多を更新

 総務省統計局によると、23年10月1日時点の日本の総人口は1億2435万2000人で、前年に比べて59万5000人(0.48%)の減少となった。総人口は08年に1億2808万4000人となったが、これをピークに減少傾向に転じており、11年以降は13年連続で減少している。

 一方、年間死亡者数は第2次世界大戦直後である1947年に113万人を数え、その後は公衆衛生の向上や医療の進歩などで減少していたが、80年代からは増加傾向となり、2003年には100万人を突破。23年には157万5936人と前年に比べて6886人(0.44%)増加し、過去最多を更新した。

●葬儀売上高は回復傾向もピーク更新には至らず

 人が亡くなると必要になるのが 葬儀だ。経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、葬祭業主要社の売上高は年間死亡者数が戦後再び100万人を突破した03年には3646億円だったが、17年にはピークの6112億円に拡大した。

 コロナ禍で20年には急減し、その後売上高は回復傾向にあるものの、近年ではコロナ禍をきっかけにして葬儀のあり方を見直す動きが強まっている。最近では、家族や近しい親族などのみで式を執り行う小規模の「家族葬」が葬儀のスタンダードとなりつつあることから、葬儀単価は伸び悩んでおり、売上高もピークを回復するまでには至らず23年は5945億円となった。ただ、取扱件数は03年の24万3904件から23年には50万1533件と初めて50万件を突破するまで拡大しており、着実に増加している。

●市場規模は実質的になだらかな縮小傾向

 将来的にも、葬祭市場は厳しい環境となりそうだ。矢野経済研究所(東京都中野区)が23年9月に発表した「葬祭ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)」によると、23年の葬祭ビジネス(葬儀費用、飲食費、返礼品)の市場規模は、事業者売上高ベースで前年比5.0%増の1兆7273億円と推計されている。コロナ禍の影響により20年は市場規模が前年比で約2割消失したものの、21年以降は回復傾向にあるという。

 ただ、9年後の32年は1兆7684億円と予測しており、23年比で2.4%の伸びにとどまる見通しとなっている。死亡者数は今後も増加するものの、葬儀形式は大人数・高単価の「一般葬」から少人数・低単価の「家族葬」「直葬・火葬式」「樹木葬」などへの移行が進んでいる。葬儀単価は死亡者数の増加を上回るペースで下落するとみており、実質的にはなだらかな縮小傾向にあると予測している。

●「終活ビジネス」の裾野広がる

 葬祭市場の頭打ちが予想されるなか、注目されているのが「終活」や「葬祭DX」などの新たな取り組みだ。

 全国に5000社以上あると言われている葬儀会社は、地元密着型の小規模の会社が多い。また、主な顧客が高齢者ということもあって、これまでIT化や効率化が進んでいなかった。葬儀単価が下落するなか、利益を確保するためには業務効率化は急務で、DXの導入が求められている。