ビッグバンのわずか3億5000万年後に炭素が誕生したことが判明、生命の起源に大きな一石
宇宙が誕生して間もない時期の銀河を観測した結果、驚くほど大量の炭素が含まれていたことがわかったとの研究結果が発表されました。生命の源として重要な元素である炭素が、従来の想定より早く生成されたことを意味するこの発見は、宇宙で生命が誕生するのに必要な条件が早い段階で整った可能性を示しています。
[2311.09908] JADES: Carbon enrichment 350 Myr after the Big Bang in a gas-rich galaxy
Earliest detection of metal challenges what we know about the first galaxies | University of Cambridge
https://www.cam.ac.uk/research/news/earliest-detection-of-metal-challenges-what-we-know-about-the-first-galaxies
James Webb telescope finds carbon at the dawn of the universe, challenging our understanding of when life could have emerged | Live Science
https://www.livescience.com/space/cosmology/james-webb-telescope-finds-carbon-at-the-dawn-of-the-universe-challenging-our-understanding-of-when-life-could-have-emerged
ケンブリッジ大学が率いる国際天文学チームは今回の研究で、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が観測した銀河「GS-z12」を構成する元素を分析しました。
GS-z12は、人類がこれまで観測した中で最も遠い銀河のひとつです。130億年以上かけて地球に届いたGS-z12の光を観測することで、ビッグバンから数億年後の若い銀河の姿を知ることができます。
観測史上最古となる「134億年前の銀河」がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影できていたことが明らかに - GIGAZINE
研究チームがJWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)を使ってGS-z12のスペクトルを分析し、銀河を構成する物質の化学的な組成を同定した結果、GS-z12に大量の炭素が存在することがわかりました。
GS-z12から炭素が検出されたことについて、ケンブリッジ大学カブリ宇宙論研究所のロベルト・マイオリーノ氏は「初期の星は炭素より酸素を多く生成していたと考えられているので、こんなに早い時期の宇宙で炭素が見つかったのは驚きでした。この事実は、最初の星々がこれまで考えられていたのとはまったく異なるプロセスで作られた可能性があることを物語っています」と話しました。
天文学では、ごく初期の宇宙に存在したのは最も単純な元素である水素とわずかなヘリウム、そして微量のリチウムだけだったと考えられています。その後、星の内部の核融合により新たな元素が作られる恒星内元素合成によりさまざまな元素が作られ、それらが超新星の爆発によって宇宙にばらまかれることで、地球のような岩石惑星が形作られていきました。
これまで、炭素は宇宙ができてから約10億年後に合成され始めたと考えられてきましたが、今回の研究によりビッグバンからわずか3億5000万年後の宇宙に豊富な炭素があった可能性が示されました。これによって、ただちに生命誕生に関する理論が書き換えられるわけではありませんが、宇宙の進化に関する今後の研究の大きな手がかりになると期待されています。
例えば、いくつかの宇宙モデルによると、最初期の星が超新星として爆発した際のエネルギーは、これまでの予測より少なかった可能性があるとのこと。そうだったとすると、星の外殻の部分で形成された炭素は爆発で遠くまで吹き飛ばされて銀河全体に広がることができましたが、酸素は逃げ遅れてブラックホールに飲み込まれてしまったかもしれません。
論文の共著者であるケンブリッジ大学のフランチェスコ・デウジェニオ氏は「この観測結果は、初期の宇宙で炭素が急速に濃縮されたことを示しています。よく知られているとおり、炭素は生命の基本要素ですから、宇宙に生命が誕生したのは最近になってからだというのはひょっとすると間違いで、もっと早くに出現した可能性があります。もし宇宙の別の場所に生命が存在していたら、地球とはまったく異なる進化を遂げているかもしれません」と話しました。