建築開始から半世紀以上…″日本のサグラダ・ファミリア″ 高知市・沢田マンションはいまだ完成見えず

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高知市の中心部から車で約10分。国道から一本、中に入ると突然、白く巨大な建築物が姿を現す(1枚目写真)。

「日本の九龍城」として知られる沢田マンションだ。建築の素人だったオーナーの故・沢田嘉農(かのう)さんと裕江さん(78)夫妻が、’71年からセルフビルディングで増築を重ねた地上5階建て・約70戸の物件は、「日本のサグラダ・ファミリア」とも呼ばれている。

実際に訪れると、平日の昼間にもかかわらず数十人の見学者がいた。裕江さんによれば、「動画等が拡散されたため、観光客が多い」という。

「平日でも一日20人、大型連休だと50人以上が見学に来られます。建築学科の学生さんに外国人、最近は特に若者が多い。東京からウチに移り住む方も増えました」

大阪から来たという30代男性は「いたるところに面白さがある。まるで迷路のよう」と興奮気味に話す。上階に繋がるスロープや螺旋階段に、手作りのリフトなど、細部に自由なアイデアが詰め込まれており、現在地を把握するのも一苦労。

散策を続けると、畑や釣り堀が突然視界に入り、マンション内で飼われているブタやチンチラが現れるなど、なかなかのカオスぶりだ。裕江さんが続ける。

「お父さんが目指したのは、『住民同士が交流出来るマンション』。スロープや広いベランダもその意図からです。改めてその価値を評価し、自身の研究に取り入れる大学教授の方もいます。住人は50年以上ここに暮らしている人とか、愛着がある方ばかりなので、見学される際には、最低限のマナーは守って欲しいです」

観光地化していく一方で、将来への不安もある、と裕江さんは打ち明ける。

「100年残るマンションにしたいけど、(建物も)生き物だから、このままでは持たんよね。ただ、最近はここで暮らす娘や孫達が修繕を頑張ってくれている。私が生きている間にもし建て直しが出来たら、それは上等よ」

現在、三女の和子さん(51)夫妻が主となり補修や管理などを行っている。

「娘も建築士として外で働いており、将来的にマンションの改修や建て直しに携わりたい、と話しています。何とか後世に残していきたいですね」(和子さん)

沢田夫婦が紡いできた歴史は、子供や孫達が未来へと引き継いでいく。その物語に″完成″の概念はないのだろう。

『FRIDAY』2024年6月28日号より

取材・文・撮影:栗田シメイ