ちなみに開業したばかりの新エリア「ファンタジースプリングス」はパークチケットだけで入場することはできません。アプリで特定アトラクションの「スタンバイパス」(無料)を取得するか、ディズニー・プレミアアクセスで課金する必要があります。

 また、特定の宿泊プランを利用する客は1デーパスポートの「ファンタジースプリングス・マジック」(大人22,900円〜25,900円)を購入でき、同チケットがあれば新エリア内のアトラクションを時間指定無しかつ並ばずに楽しむことができます。

 このような値上げと課金システムにより、コロナ禍では客単価が増加しました。ただ、物品・飲食販売の増加も客単価増加の要因であると同社は発表しており、実際に入場料の増額分以上に客単価は増加しています。大きく膨らんだ理由として入場料の値上げが客層の“足切り”をもたらしたことが考えられます。7,500円の客と1万円の客では、入場料以外に使える金額も異なるでしょう。ディズニーは足切りにより、上客の絞り込みに成功したといえます。

値上げのきっかけは「満足度の低下」

 従来の客数重視から客単価・質を重視する姿勢に転換した背景には、顧客満足度があります。コロナ禍以前の数年間、ディズニーは顧客満足度の低下に直面していました。日本生産性本部が実施した調査にも結果が現れています。

 繁忙期では2〜3時間待ちのアトラクションも当たり前、異常ともいえる混雑が満足度低下の主な要因です。「地方からせっかく来たのに、混雑であまり乗れなかった」「レストランも混みすぎて行けない」などの意見も聞かれました。値上げにはコスト高を回収する狙いもありますが、こうしたこともあり、同社は質重視への方針へと転換したようです。現在でも繁忙期は混雑していますが、入場者数を見る限り以前よりは緩和していると見られます。

 なお、今後の入場制限について同社は、ゲストの満足度を勘案し、慎重に精査するとしています。国内の消費活動はほぼ正常化し、インバウンドも回復。ディズニーリゾート全体のインバウンド比率はコロナ禍以前で10%程度でしたが、24年3月期は12.7%と比率では増えています。新エリアの人気もあり、国内外問わずディズニーの需要は伸びていくことでしょう。今後の客数次第ではさらなる値上げ、そして“絞り込み”を実施するかもしれません。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_