川崎フロンターレの復活はあるのか?「ボールを握る」伝統を受け継ぐために必要なこと
6月2日、川崎フロンターレは本拠地で名古屋グランパスを2−1で下している。14位に浮上し、復調の兆しも見えるが、3シーズン前に圧倒的な攻撃力で連覇していた実績を考えたら、まだまだ物足りない。
「全員がこの状況を抜け出したいと戦っています。いかなる時も助け合って。どちらに転がってもおかしくない勝負が続いているので」
5月最後のリーグ戦、柏レイソルと1−1で引き分けた試合後、取材エリアでマルシーニョはそう語っていた。これはチームの総意だろう。負けが勝ちより先行しているが、絶望するほど悪い内容ではない。ちょっとしたボタンの掛け違いというのか。勝ち癖のようなものを取り戻すことができたら、心理面で焦りがなくなり、自信が湧いて、かつてのようにボールを握って翻弄できる気配も......。
2017年から22年までの5シーズンで4シーズン、Jリーグ王座に就いた川崎は岐路に立って、"試されている"のだ。
「足はよく使いますね。今日は運もあって、止められました」
柏戦後、相手に当たってコースが変わったシュートに反応し、右足で弾き出したGKチョン・ソンリョンはそう語っていた。「運と」いうよりは鍛錬の賜物だろうが、ワンプレーが流れを劇的に変えるのは間違いない。
続く名古屋戦では、ソンリョンの足を使った連続セーブが窮地を救い、勝利を呼び込んだ。
後半に入った62分、右からのクロスを味方がクリアしきれず、こぼれたところだった。敵にシュートを打たれたが、ソンリョンが鋭い出足から足で防ぎ、そのこぼれに対しても即座に反応、足を伸ばして続けて止めた。もし失点を喫していたら、同点に持ち込まれていた可能性が高い。終了間際に体を張ったセービングも含めて、負けてもおかしくはなかった。
それだけ、拮抗した勝負をしている。
前節は家長昭博の2ゴール名古屋グランパスを破った川崎フロンターレ photo by Yamazoe Toshio
そう考えると、名古屋戦は家長昭博が序盤で2得点を決めたことが大きかった。コーナーキックからニアで触る味方の球筋を読み、大外から飛び込んでヘディングでの豪快な先制点。さらに、大雨でピッチが滑ることも計算に入れ、慌てた敵ディフェンスの心の内を見透かし、バランスを崩したところでボールを奪い取って、飛び出してきたGKもかわし、冷静にネットを揺らしている。
どちらのゴールも、ベテランならではの老獪さが見えた。39歳のソンリョンが守護神となった一方、38歳の家長昭博が攻撃をけん引する。それぞれ「試合巧者」というのか、全盛期と比べたら衰えは隠せないが、試合の分岐点で、潮目を変えるセービングを見せ、状況を把握して痛撃を食らわせている。
「決めきれないと、苦しい展開になる。チーム全員で確認しないと。我慢強く戦えるように......」
後半に追いつかれて1−1で引き分けた柏戦後、鬼木達監督はそう説明していた。試合の流れは、名古屋戦も大きく変わっていないが、違いはより早い時間帯で2点のリードを奪えたことか。指揮官は「自信を持ってボールを受け、やり続けることが大事」と語るが、追加点を奪えたことがゲームマネジメントを楽にした。
それが単純にドローと勝利を分けた違いだが、勝負の本質はその奥にある。
結果が出ていないことで、川崎は試合序盤からかなり強度の高い攻守で挑んでいる。たとえば柏戦も、前半途中まで優勢で、ポゼッション率は70%以上だった。相手に息をつかせない。30分、家長が縦にボールを入れ、バフェティンビ・ゴミスが戻したところ、脇坂泰斗が遠野大弥との短いパス交換から抜け出し、ゴールネットを揺らした。連係面はハイレベルで、全盛期の川崎を彷彿とさせる美しい得点だった。
全開の攻守がはまればアドバンテージを取れるし、それは川崎らしい。
だが今は、序盤に「得点を取らなければ」という力み、強迫観念が見える。これでは、たとえリードできても、パワーを大量に消耗する危険を孕んでいる。結果、試合が進むにつれて足が重たくなる傾向にある。必然的に相手にアドバンテージを奪われて、守勢に回る。事実、多くの試合でリードを奪いながら、守りきれずに失点し、同点に追いつかれる、あるいは逆転されるというパターンを繰り返している。
怒涛の勢いで畳みかけ、勝ちきるのは理想と言える。しかし、歯車が噛み合うまでは、ベテラン特有の緩急をつけた戦いでしのぐ老練さも必要かもしれない。そのプロセスで、DF高井幸大、MF山内日向汰、FW山田新という生え抜きの若手がフィットするだろう。ベテランと若手をつなぐ脇坂、橘田健人、ジェジエウなど実力者はいるし、エリソン、ゴミスも起爆剤になれるはずだ。
不振が叫ばれているが、絶対的な強さを誇った時代を継承するのは簡単ではない。当時からは三笘薫、守田英正、田中碧、旗手怜央、谷口彰悟、山根視来という日本代表選手たちが次々に旅立っている。エースの中村憲剛が引退し、レアンドロ・ダミアンは退団。小林悠、家長、ソンリョンもベテランの域に入った。本来、チームを刷新するほどのテコ入れが必要なのだ。
しかし、ボールを握ってアドバンテージを作る伝統を受け継ぐには、現在の選手で勝利を重ねるしかない。
6月16日のJ1第18節は、国立競技場でのJリーグ王者ヴィッセル神戸との一戦となる。まもなくシーズンの折り返しで、ひとつの山場だ。
「敵陣でボールを握れなければ意味がない」
そう言いきるチームの試練である。