オリックス投手陣は主力が軒並み離脱中も明るい兆し 星野伸之が期待を寄せる若手は?
星野伸之インタビュー 前編
オリックス投手陣について
故障者や不振の選手が多く苦しい戦いが続いていたオリックスだが、6月5日のDeNA戦から7連勝を飾るなどチーム状態が上向きになりつつある。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、主力が揃わない投手陣の現状と、そのなかで躍動する新戦力や若手について聞いた。
支配下登録されたばかりの6月9日の巨人戦でプロ初勝利を挙げた佐藤一磨 photo by Sankei Visual
――投手陣は宮城大弥投手をはじめ、故障離脱者が多く台所事情が苦しい印象があります。
星野伸之(以下:星野) 今季の宮城は素晴らしい球を投げていたのですが、山本由伸らが抜けて「自分が頑張らなきゃいけない」と力んでしまっていた部分もあったかもしれませんし、相当気を張っていたのかもしれません。山下舜平大がここまで長くファームにいるのも誤算だったと思いますし、開幕前に故障で離脱した山岡泰輔はまだ登板すらできていませんしね。
それと、山粼颯一郎、宇田川優希、小木田敦也、平野佳寿がまだ一軍に上がれていないのでリリーフ陣も苦しい。投手陣全体がうまくいかない感じですよね。支配下登録したばかりの才木海翔を1点リードの9回(6月1日の中日戦)に起用せざるをえなかったり......。もちろん期待しているからこそ送り出したと思うのですが、チーム状態の苦しさも表れています(結果は2失点で負け投手に)。本当はもっと余裕のある場面で起用して育てたいはずですから。
――そろそろ疲れも溜まってくる時期、という事情もありそうですね。
星野 特にオリックスの場合は、(5月8日に)秋田で試合をした後に宮崎、鹿児島、沖縄と続き、一度大阪に帰ってきた後に北海道へ。交流戦は広島から始まりましたし、遠征が続いて日程的にも厳しかった。体力的に苦しかったでしょう。
――チーム状態がよくない時期に、遠征の疲れが追い打ちをかけた形ですか?
星野 そうですね。ピッチャー陣全体の調子がよくない状況では、比較的にコンディションの調整がしやすい先発ピッチャーがいかに長いイニングを投げられるか、がポイントになります。しかし、多くの投手が先制点を与えたくない気持ちが強すぎて、立ち上がりから全力で投げてしまっていた。リリーフ陣が充実していれば5回まででもいいのですが、手薄な現状だと長いイニングを投げてほしいですし、遠征が続いて体力的に苦しい時期はなおさらです。
曽谷龍平が(5月25日の)西武戦で先発した時も、「少しでも長いイニングを」ということでだいぶ引っ張りましたよね。結果的に6点を取られて7回途中で交代しましたが、その次に登板した中日戦では7イニングを無失点で抑えましたし、曽谷なりに成長していると思うんです。そういった部分的に明るい材料はあっても、チームとして束になりきれていない時期が続いていましたよね。
――長いイニングを投げるためのポイントは?
星野 たとえば、150kmの真っすぐを投げられるけど、追い込むまでは145kmぐらいの真っすぐで投げるといったように、最大の出力で投げる球は温存しておくんです。場面によってはギアを入れてもいいと思いますが、基本は145kmぐらいで投げる。
僕の場合は平均球速が120km台と遅かったですが、追い込むまではマックスより5km程度遅い球を投げるなど、僕なりに長いイニングを投げるために最大出力で投げる球は温存してましたからね。気持ちは全力だけど、ギアの入れどころはわきまえる。そういう"八分投球"の意識も必要だと思います。
【リリーフ陣は「肩を作るタイミングの見極めが大変」】――リリーフ陣もなかなか揃わずに苦しい状況ですが、新戦力が頑張っています。今季から加入したアンドレス・マチャド投手はいかがですか?
星野 安定感抜群ですし、「マチャドで打たれたら仕方がない」という存在になっていますね。平野がいい状態で戻ってきてくれると少しは楽になるのですが、今はマチャドにかかる負担が大きくなります。ただ、途中加入した(ルイス・)ぺルドモが戦列に加わりますし、リリーフ陣の層は厚くなるでしょう。
ぺルドモは昨季、ロッテで残した実績がありますし(42ホールドポイントで最優秀中継ぎ投手を受賞)、彼がしっかり投げられるのであれば、先発ピッチャーも少し早めに交代できるかなと。かといってぺルドモに頼りすぎるのではなく、中嶋聡監督は本田仁海など今いる中継ぎとうまく併用していくと思いますけどね。
――古田島成龍投手は、ルーキーながら19 試合連続無失点。満塁のピンチで火消しした後にイニングをまたいだり、素晴らしい活躍を見せています。
星野 そういう役割を担っていた宇田川や比嘉幹貴らがいないなか、古田島が非常に頑張っていますね。一方で、役割がはっきりしていないピッチャーも多い。イニングの頭からマウンドに上がることもあれば、イニングの途中から上がることもあったり、イニングまたぎをする場合もある。阿部翔太あたりは、肩の作り方がかなり難しいと思いますよ。
以前に役割を明確にできていたのは、それだけ力のあるピッチャーが揃っていたから。試行錯誤しながらやりくりしている今は、肩を作る回数や球数が増えてしまうピッチャーが多いと思いますし、肩を作るタイミングを見極めるのが大変だと思います。
――若いピッチャーがいい経験を積めている、という見方もできるでしょうか。
星野 それはありますね。今は本田や古田島、吉田輝星らが頑張っていますが、よかったり悪かったりを繰り返しながらいい経験を積めています。そこにぺルドモが加わり、山粼や宇田川、平野らが復調して戻ってくれば面白くなるでしょう。
実績のあるピッチャーが復帰する時に「戻るところがない」という状態になっていることが理想ですね。それと、中嶋監督はチームがどういう状況であろうと、各ピッチャーに無理をさせていません。3連覇した過去3年と同様、長いシーズンを見据えて起用していると思います。
【若い先発ピッチャーふたりがプロ初勝利】
――6月7日からの巨人との3連戦では、1戦目で東晃平投手が8回2安打無失点と好投し、2戦目では齋藤響介投手がプロ初勝利。3戦目では6月8日に支配下登録されたばかりの佐藤一磨投手がプロ初勝利を挙げました。上昇気流に乗っていけそうですか?
星野 若いピッチャーふたりが、調子が上向きになっていた巨人打線を抑えて2日連続でプロ初勝利を挙げたので、チームの雰囲気もいいでしょうし、乗っていけるんじゃないですか。今季あまりよくない田嶋大樹にもいい刺激になると思いますよ。
――同じ左ピッチャーとして、佐藤投手のピッチングをどう見ましたか?
星野 右バッターに対してのクロスファイヤー(利き腕とは対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)が効いていましたね。バッターが戸惑っている感じがしましたし、すごく窮屈そうに打っていました。それと、フォークボールのキレもよかったです。
ここまでのローテーションを踏まえると、本来であれば曽谷が投げる日だったと思うのですが、そこで支配下登録したばかりの佐藤を先発起用したところに、先発ピッチャーの駒が足りないなりの戦略を感じます。「佐藤の球なら何とか抑えられるのでは」という考えがあったんじゃないですか。
――また近いうちに登板の機会がありそうですね。
星野 あると思います。打たれるまでは登板させるでしょう。佐藤もそうですし、齋藤も含めてプロ初勝利を挙げたことが自信になるでしょうね。
今季のオリックスは僅差で競り負ける試合が多い印象でした。ここ数年は、逆に僅差を守り、ワンチャンスを生かして勝つことが多かったんですけどね。ただ、若いピッチャーが出てきたことで、宮城や山下が戻ってきた時に先発陣の層が厚くなる。当然リリーフ陣の頑張りもあった上でのことですが、僅差で勝てる"らしい試合"も増えるでしょうし、今後のさらなる巻き返しに期待したいですね。
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【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。