ハーバード大学の神経科学者であるジェフ・リヒトマン氏らの研究チームが、脳サンプルを厚さ34ナノメートルにスライスし、電子顕微鏡を使って構築した3Dマップを公開しました。記事作成時点で3Dマッピングされたのは脳の1立方ミリメートル分で、そのデータサイズはなんと1.4ペタバイト(1400テラバイト)に及びます。

Released Data | H01 Release

https://h01-release.storage.googleapis.com/data.html



A petavoxel fragment of human cerebral cortex reconstructed at nanoscale resolution | Science

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk4858



Cubic millimetre of brain mapped in spectacular detail

https://www.nature.com/articles/d41586-024-01387-9

3Dマッピングされたのはヒトの大脳皮質の一部で、学習、問題解決、感覚信号の処理に関与する脳の部分です。体積はわずか約1立方ミリメートルで、マップには約5万7000個の細胞と1億5000万個のシナプスが含まれており、データサイズは約1.4ペタバイトだとのこと。

リヒトマン氏らの研究チームは、てんかん治療のために手術を受けた45歳の女性から採取した脳の断片をサンプルとして使用しました。サンプルは保存液に浸され、細胞を見やすくするために染色されたもので、研究チームはこのサンプルをわずか34ナノメートルの厚さで約5000枚の薄切片に切断し、電子顕微鏡で撮影したとのこと。さらにGoogleの神経学者であるヴァイレン・ジェイン氏らがAIを用いて電子顕微鏡画像から3Dマップを構築しました。

3Dレンダリングされた無数のニューロン。ニューロンのサイズによって色分けされています。



1つの白いニューロンから伸びる軸索はなんと約5600本もあるそうです。その間に網のように張り巡らされた緑色の線が、情報伝達経路であるシナプスです。



3Dマップを調べることでヒトの大脳皮質への理解を深めるための膨大なデータにアクセスできます。実際にこの3Dマップを詳しく調べたところ、お互いに最大50個の接続を形成する非従来型のニューロンや、自分自身の周りに巻きついて結び目を形成するニューロン、ほぼ完全な鏡像のニューロンのペアを発見したと研究チームは報告しています。ただし、これらのニューロンがどういった役割を果たしているのかは不明です。

研究チームは他の人からの脳サンプルについても同様のマップを作成することを計画していますが、脳全体のマップ作成には数十年かかる見込みだとのこと。研究チームは「大脳皮質の働きをより深く理解することで、いくつかの精神疾患や神経変性疾患の治療法の手がかりが得られる可能性があります。この前例のないほど詳細なマップにより、ニューロン接続の新しい法則が明らかになり、ヒトの脳の内部動作の解明に役立つでしょう」と述べています。