この稽古場で小劇場からはじまって 40歳のワハハ本舗全体公演『シン・シンワハハ 40』喰 始(主宰・演出)×久本雅美×梅垣義明×大久保ノブオにインタビュー
旗揚げから40年。ワハハ本舗が、40歳記念全体公演『シン・シンワハハ 40』を上演する。東京公演はシアターサンモールにて2024年9月28日(土)から10月6日(日)まで。その後、宮城、青森、兵庫、岡山、広島、高知、愛媛、熊本、福岡、長野、愛知、富山、新潟、大阪へを巡る。
メンバー30名以上が総出演する、笑いのレビューショーだ。バカバカしい笑いで観客を巻き込み、本気のエンターテインメントが一体感を作り上げる。旗揚げから40年。主宰・演出の喰 始(たべはじめ)、久本雅美、梅垣義明、大久保ノブオに意気込みを聞いた。
ーーワハハ本舗、40年おめでとうございます!
喰:前回の全体公演は『シン・ワハハ』というタイトルでやりました。今回は、さらに新しい『シン・シンワハハ 40』です。我々は小劇場ではじまり40年続き、1000人、2000人の大きな会場での公演が続いていました。東京公演ではあえてキャパが300人ぐらいの小劇場で10公演。初心に戻り近い距離でお客さんに楽しんでいただけたら。その後の全国公演は、ホール・会場に向かいます。
ーー構成や演出などのイメージをお聞かせください。
喰:すでに結構アイデアがあるんです。
久本・梅垣・大久保:聞いてない!(笑)
喰:40周年ということで、これまでのベスト盤を想像される方もいるかもしれませんが、新ネタです。新しい作品でないと気が済まないんです。
久本:“シン”・シンワハハですもんね。過去は振り返らない。これからも、まだまだいきますよ、という意味ですね。
喰:そして今までの全体公演と少し違い、短めのやつをとんとんとんとやっていこうと。その中には、たとえば名作映画のパロディ。昔、久本と大久保が小津安二郎の『東京物語』を京劇で表現したでしょう? あのくらいの長さのもあっていいかもしれない。それから梅ちゃん。梅垣は前回で一応引退したんです。
喰 始
梅垣:引退した、と自分で言ったことはありません。(喰のアイデアで)強制終了な感じでした。
喰:その引退したはずの梅ちゃんがここにいます(笑)。なので新生梅ちゃんとして出るとかね。梅ちゃんと言えば鼻から豆を飛ばす「ろくでなし」ですが、あのネタは実は全体公演ではやってないんです。集大成的な形で豆を飛ばしてもらおうかな、と考えています。
久本:ちょっと待って。全然新しくないじゃん!(笑)
梅垣:もう30年やってますよ?
喰:でも新しいんです。お客さんが豆を飛ばします。
全員:えっ!
喰:果たしてそれをどうやるか。それは当日のお楽しみです。東京公演なら1公演300以上、ツアーは1000以上の豆が降るんじゃないでしょうか。「♪まめ、まめ、ふれふれ、もっとふれ~」なんて歌があうかもしれません。
(うなずく梅垣)
久本:今うなずいていますけれどね、梅垣は毎回喰さんに全部考えてもらうんです。私たちは、いつも自分でそれぞれにアイデアを出すけれど、梅垣は今までに1個も自分で考えたことがないんだよね。
梅垣:(笑)。
喰:考えてないわけではなく、考えてきたものを僕がボツにしているんですよね。
久本:40年ワハハにいて一回も採用されていないってどういうこと? それなのに、人に出してもらったアイデアを一回は否定するでしょ? 文句言っちゃだめじゃない?
ーー鼻から豆を飛ばすアイデアは……?
喰:はい、私です。女装してシャンソンを歌いながら。その時も「喰さん、それで笑いがとれたら苦労しませんよ」と言われましたね。
久本:それでいてお客さんが笑うと、さも自分が考えたかのような顔をするでしょ!?
久本雅美
大久保:ははは!
梅垣:30年前、はじめて豆を飛ばした時の映像が残っているんです。お客さんにものすごくウケていて。本当にうれしそうな顔をしていましたね、僕(一同笑)。
■小劇場からはじまって
ーー今回、東京公演は収容人数300人の小劇場で9日間11公演を行います。
喰:300足らずのキャパで11回だと3000人。少ないですねえ。
(久本、梅垣・大久保、うなずく)
喰:会場をおさえた時期がコロナ禍だったんです。ワハハのやりたいことをやらせていただける会場、というのも限られていて。
ーーワハハ本舗の東京公演といえば、1000人2000人の大ホールで数日間というイメージがあります。
久本:本当はもっとやりたかったですよね。とはいえ、うちはもともと”小劇場”のグループ。40年の節目に小劇場に戻るのも新鮮ですし、お客さんには距離の近さを楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。私たちもそこは楽しみです。
喰:下北沢の駅前劇場とかでもやりましたね。ぎゅうぎゅうにいれて150人ぐらいのところに300人詰め込んで。
久本:酸欠で倒れそうになったりもして(笑)。
喰:床が抜けたら大変なことになるから、もうやめてくださいと劇場から言われました。
(左から)大久保ノブオ、喰 始、久本雅美、梅垣義明
ーー小劇場からはじまり大ホールへ。その勢いは何によるものだと思われますか?
喰:この間、ダウ90000の公演を本多劇場でみたんです。10日間くらいの公演が連日満員。彼らと同世代のお客さんたちは、ネット配信で彼らを見つけて「俺が見つけた」「俺たちの劇団」「私達の劇団だ」と応援している雰囲気がある。これは昔の人気劇団と似ているなと思いました。ワハハがはじまった頃は、インターネットも何もなかったけれど、やはり僕らと同世代のお客さんが口コミで「面白いよ」と広めてくれて、追いかけてきてくれた。時代が変わり情報の伝達方法は変わっても、「俺たちの」と応援するエネルギーの伝わり方は同じなんだなと。ただしワハハの場合、あの頃20代だったお客さんが、僕らと同じように年をとってきています(笑)。
梅垣:こうやって続いているのもすごいことですよね。当時たくさんの劇団があり、打ち上げ花火のように消えてしまった劇団、コロナ禍で解散してしまった劇団などがある中で、僕らは40年間やらせてもらっている。みんな60を過ぎて、おばあさんとおじいさんになって、ここが痛いとかあの病院にいったとかそんな話ばかりしながらも、やっぱり続いているのは幸せだと思う。
久本:まさにこの稽古場から始まって、奇跡だよね。みんなおじいさんおばあさんになって、私なんかおばあさんからおじいさんなりかけてきて(笑)。40年続いたことが意外、とは思わないんです。「60過ぎてもお尻出すぐらいくだらないこと、やっていようね」ってみんなで言っていましたから。でも本当にそうなれるとはね。
ーーターニングポイントとなる舞台や出来事はありますか?
久本:テレビの力も大きかったです。当時、新しい芸人やミュージシャンを発掘して紹介する『冗談画報』という深夜番組がありました。例えば爆笑問題とかもそう。その番組でうちも取り上げていただいたんです。ある時、新宿タイニイアリスの楽屋で公演前にストレッチをしていたら、窓の外に長蛇の列が見えました。バーゲンでもやってるんだと思ったら、「全部ワハハのお客さんです!」って言われて。100人でいっぱいになる小劇場に、テレビで興味をもってくれた方々がつめかけてくれた。昼夜公演の後、急遽、深夜公演までやりました。来てくれた人をひとりも帰すな! って私たちも必死でしたし、お客さんも誰も帰らなかった。お客さんのエネルギー、喰さんのアイデア、私達の想いが重なって、そこからお客さんが増えた感覚がありました。
喰:「オカルト二人羽織」で仕事が一気に増えましたね。
久本:当時ワハハにいた吹越(満)くんが羽織の後ろに入ってくれて。この稽古場のそこの鏡の前で、ああでもないこうでもないと試行錯誤しました。喰さんに見せたとき、思った以上に面白くなったといってもらえた時はうれしかったですね。そしてお客さんにも大ウケで。
喰:それまで久本は、かわいい役が多かったんです。ワハハの原田知世で売ろうと思っていたから、下ネタはやらせたくなかった。でも「オカルト二人羽織」からは、バンバン下ネタをやってほしいと。
大久保:そして今では……。
久本:ワハハの下ネタを全部背負っています!
梅垣:でもさ、その下ネタが下品じゃないんだよね。久本がケツを出しても下品にならないし、生々しくない。下ネタにも品格がある。
久本:そんなこと言われたら……今年もやっちゃおうかな!(笑)
原田知世さんに会うたび「すみません、いつも」と頭を下げているという久本(右から2番目)
■既成概念を打ち破りまくり
久本:大久保は、10年くらいたったところでワハハに入ったんだよね。
大久保:はい、ポカスカジャンが今年28周年です。
喰:ワハハでは昔から音楽パロディみたいなことをいろいろやっていましたが、みんな本業で音楽をやっていたわけではなかった。そこへ元々はロックミュージシャンだったポカスカジャンが入ってきてくれた。僕が「こんなことをしたい」と言うと、「そしたらこうなりますね」と音楽で形にしてくれる。大きいです。
ーーワハハに入られたきっかけは?
大久保:たまたま観にいったんです。久本さんはもうテレビの人気者で、ワハハは知らないけれどマチャミが出ているならって。それまでずっとロックをやっていて“渋谷のカミソリ”とか呼ばれたりして。ロックこそが既成概念を打ち破るエネルギーだと思っていたのに、ワハハは既成概念を破りまくりだったんです。久本さんと柴田さんが裸タイツで出てきて梅垣さんが水撒いて精子と卵子のダンスがはじまって、こんな世界があったのかと。見終わった後、冗談じゃなく「俺、今日でバンドやめるわ。みんなごめんな」って。「マジか!大久保!」って(笑)。
久本:渋谷のカミソリが、ワハハの太鼓持ちに。
大久保:そうです。ドンドコドンドコね(笑)。
ロッカーだった頃は「オレンジ色のドレッドヘアが腰まであった」という大久保(左)
ーーロックからお笑いへ、スムーズに切り替えられましたか?
大久保:それがですね(笑)。
喰:梅垣のライブでデビューさせることになって、梅ちゃんが「新しくこういう連中が入ってきたんで! 大きな拍手でお願いします!」って盛り上げて、お客さんが総立ちで迎えてくれたところに、「何で俺らみたいな無名な人間に、そんなに拍手するわけ?」っていったんだよね。
久本:ロックが抜けていなかったんだね。
大久保:ロックな感じの、ちょっと生意気な感じでやってみようぜって。言った瞬間お客さんがサーっとみんな座りましたよね。そして喰さんが舞台袖に飛んできて「大久保しねー!」って(笑)。
梅垣:そんなダメ出しなかなかないよ? 衣裳を変えて舞台に戻ったら客席はすごい静まり返っていました(笑)。
ーー梅垣さんの転機は、豆とシャンソンと……。
梅垣:そんな「部屋とワイシャツと私」みたいな。
久本:良い方に捉えすぎだよ(笑)。
梅垣:よく覚えてるのは、喰さんのアイデアで、桟敷席で、少し料理も出して1万円のライブをやった時のことです。価格設定に気持ちで負けちゃったのもあり、初日は大失敗でした。
喰:俺は大スターだ! みたいな気持ちでないといけなかったんだよね。美輪明宏さんが好きなら、美輪明宏さんのような気持ちになってやれと。
梅垣:その言葉を聞いて2日目。美輪明宏さんが見に来てくださっていて、お客さんもびっくりしている。立ち方と気持ちを変えてやってみたら、同じことをしていてもお客さんの反応がまるで違ったんです。よく覚えているライブです。
梅垣義明
ーーちなみに喰さんは、テレビの放送作家としてキャリアを積まれた後にワハハ本舗を立ち上げました。あまり大きな失敗をなさらない方なのでしょうか。
喰:してますしてます。
久本:大失敗していますよ。
梅垣・大久保:(笑)。
久本:旗揚げから4年目くらいの頃、3本立ての公演のうち1本がね。
喰:台本が間に合わなかったんです。「この公演は、3本立てのうちの1本しか僕は書きません」と言ったんです。なぜなら僕が本を書いている限り、台本が良くてお客さんにウケた時の手柄は役者本人のもの。ウケなかった時には、「本がよくなかったから」と逃げ場所にしてしまう。自分で書く経験は、すべてが自分の財産になるからって。一人ひとりが引き出しを増やして成長していってほしいと思っているんです。
久本:……で、喰さんの書く1本を待ちながら、自分たちで書いた2本だけを稽古するうちに本番当日になってしまって。1時間押しで開演したけれど、過去にテレビ用に書いたコントをその場で喰さんが書きなおして、私たちはそれを渡されて舞台袖で覚えてすぐお客さんの前に出る、みたいな……地獄でした(苦笑)。
(梅垣、目を閉じてうなずく)
久本:カーテンコールでは喰さんと役者が喧嘩だし、お客さんもブーイングでアンケートも散々で。その夜、皆で10円玉を握って公衆電話からお客さん一人ひとりに「申し訳ありませんでした。また来られたらご招待させていただきます」って電話をしたんです。
(梅垣、目頭をおさえ感慨深げにうなずく)
ーー2日目からはどうなったのでしょうか?
喰:作・演出家として大失敗をしたけれど、僕はプロデューサーとしての仕事もしないといけません。このまま休演にしたら大赤字で解散の危機です。結局、書けなかった1本の代わりに、過去に評判が良かったものをお見せすることにしました。お客さんには事前に説明をして「それなら見たくない」という方にはお金返します、と。
久本:「役者にも作家性が必要。今回僕は書きません」と言われたときは、「なんでよ~、書いてよ~」と思いました。でも、あの一件以来誰も「書いて」と言わなくなりました(笑)。
喰:今でも、全体公演は構成・演出なんです(苦笑)。
■50周年もあるんですか
ーーそのような危機を乗り越えて続いてきたんですね。
大久保:28年お世話になって思うのは、ワハハには「お客さんのためにやる」という、強くぶれない姿勢が一個ある。だから続いてるんじゃないかな、といつも感じていて。
大久保ノブオ
久本:以前、客席におひとりでいらしてくださったおばあちゃんがいたんです。83歳で、ワハハはもう4、5回見てるって。うれしくて「どこが好きなんですか」と聞いてみたら、「時代とずれてるところ」って。
(一同、爆笑)
久本:ある意味当たってると思っちゃった。時代関係ない。もちろん今の流行りを入れたりもするけれど、迎合してません。そして根本的なところはぶれない。全部お客さんに楽しんでいただくためなんですよね。
ーー今年の全体公演も楽しみにしています。
大久保:僕はワハハ本舗を見て人生が変わった人間です。皆さんも、見たらきっと今までにない体験によって、今までと違う感情が生まれると思います。ぜひ生で見に来てください。
久本:私も40年経って、40年を支えていただいたお客様と、それからまたこれから頑張ろうとする私達のエネルギー。これがまた新しい出発になるならいいなと思ってます。不屈の魂で笑いをしっかりお届けしたいです。熟年のお笑いを楽しみに、ぜひ遊びにきてください。
梅垣:僕ら全員息をきらして踊って、一公演終わるころにはハアハア言っている熟年です。しんどいです。でもワハハの公演はお客さんも参加型。お客さんにもたくさん笑っていただいて、終わる頃には、いい意味で「はー、つかれた」と笑顔で帰っていただけたらうれしいです。
喰:全体公演には「おやじバンド」と呼ばれる、役者以外の人がやる素人バンドが登場します。今年はそれを「おやじ合唱団」にしたいと思っています。ここはお客様参加型。事前に“おやじ”を募集して、おやじ、またはおやじの見た目、服装の方ならどなたでも参加いただけます。果たして何人のお客さんが舞台に上がってくれるか。それを楽しみにしています。
久本:うちのお客さんはノリがいいですからね。「40年のいい思い出だ」って結構参加してくれるんじゃないですか?
梅垣:ところで喰さん、50周年もあるんですかね?
喰:まあ、僕が生きてれば(笑)。とはいえ僕は、ワハハ本舗は劇団じゃなくて集団だと思っています。クレイジーキャッツがそうだったのですが、「解散はやめよう。誰かひとりでも生きていて活動をしている限り、クレイジーキャッツは続いている」と。ワハハもそんな風に続いてくれたらうれしいですね。
久本:でも喰さんが生きてないと、梅垣は何にもできないよ?
大久保:大変だ、梅垣さんが丸腰になっちゃう。
梅垣:なんだよそれ!
一同:(笑)。
(左から)大久保ノブオ、喰 始、久本雅美、梅垣義明
ワハハ本舗40歳記念全体公演『シン・シンワハハ 40』は、 2024年9月28日の東京公演を皮切りに全国16ヶ所27公演(群馬公演が決定)開催。
取材・文=塚田史香 撮影=岡崎雄昌