大阪に本社を置く充電機器メーカーのCIOは、ユニークな製品を作っている注目の企業です。これまで、合計65Wの出力で3つのポートをおよそ鶏卵1個分ほどの大きさに収めた急速充電器「NovaPort TRIO 65W」や、Qi2規格対応でコンセントプラグ一体型のワイヤレス充電器「NovaWave SPOT PLUG+C」などを出しています。

 

ユニークさはユーザーにも受け入れられており、ECサイトなどで製品レビューを見ていると、高い点数評価はもちろん、愛用者からの熱い支持のコメントが目立ちます。最近ではIT関連サイトなどに製品のレビューが掲載されるなど、知名度を広げ続けているのも見逃せません。ですが、どんなメーカーか知らない人もまだまだ多いのではないでしょうか。

 

そこで今回、代表取締役の中橋翔大さんにCIO立ち上げの経緯から製品作りに込める想いに至るまで、じっくりと聞いてみました。

↑中橋翔大さんは1990年 大阪府生まれ。2011年に新卒で日本のIT企業に入社。2015年 個人事業主としてガジェット製品の輸入販売を開始。2017年 に『多機能とテクノロジーで新たな常識を』をコンセプトとして株式会社CIOを設立し、2018年に自社で初めて企画・開発を行った次世代モバイルバッテリー「SuperMobileCharger」を応援購入サイトMakuakeにてスタート。以降「多機能と最新テクノロジーでわくわくする未来をつくる」をコンセプトに、ユーザーとのコミュニケーションの中から多機能と最新テクノロジーをまとった製品を多数展開している。

 

製品の特徴は“結果的に”生まれるもの

──御社の公式サイトで沿革を拝見すると、ECサイトからスタートされていることがわかります。

 

中橋 はい。CIOを設立する前は、充電器やモバイルバッテリー、ケーブルなどを輸入して販売するECサイトを運営しておりました。扱う製品は、日本ではまだ目新しいものや機能的に優れたものが中心。気に入ってくださる方も多かったのですが、続けていく中で、課題に感じることも出てきました。

 

──というと?

 

中橋 輸入販売する製品を喜んでもらえる一方で、「こういうものがあったらいいのに」というご意見も頂戴するようになってきたんです。それは、どれだけ探しても見つからないものとか、そもそも存在しないものだったりして。

 

お客さまのニーズに向き合っていく中で、人それぞれによって異なるニーズがあることがわかってきて、自分たちでそのニーズを考えながら、直接作っていきたいと思うようになりました。そうするには、ロット数など満たさなければいけない条件がいろいろあったので、法人化する方向に動きました。それがCIO設立の経緯です。

 

──法人化から7年が経過しています。どんな道のりでしたか?

 

中橋 法人化してからも、いまの方針がすぐに生まれたわけではありません。新しいものをどんどん取り入れて、機能性に特化したものを作って販売しても、すぐに模倣されて、価格的にもっと買いやすい製品がすぐに出回り、売れなくなっていく……そんな時期も1年ほど続きました。ただ、購入してくださった方のレビューに目を向けていると、「次々目新しいものを出してくれるのがうれしい」といったお声もいただいていました。

 

そこで「製品に向き合うことも大事だけど、製品を通じて、お客さまに感じていただける価値を作っていく方に気持ちを向けたい」という考えを持つようになりました。お客さま1人1人の生活の中に、それぞれの価値観に響くワクワクする瞬間を作りたい、CIOの製品を通じてそれを感じてほしいというのが、企業理念の根幹にある想いです。

↑インタビューはオンラインで実施

 

──プロダクト優先ではなく、ユーザーの好奇心を満たしたいという考えが、プロダクトよりも先に、ものづくりのベースとしてあるのですね。

 

中橋 プロダクトアウトになるのではなく、お客さまがCIOの製品を通じてどういう日常を過ごすのかとか、使うシーンの中でどういう価値を得られるのかということを優先して考えています。

 

──“結果的に”多機能であったり、先進的で珍しいプロダクトだったりを安価で販売されているということですね。

 

中橋 特徴的であったり多機能であったりするのは、お客さまの好奇心を満たすことが目的であって、優先事項というわけではないんです。

 

──たしかに、いまは個人でも海外の最新製品を安価に買えるようになっていますからね。多機能とか新しいだけだと、特別な価値にはならないというか。

 

中橋 その通りで、多機能で安価な製品とか、デザインがかっこいい製品、目新しい製品は、探そうと思えば海外の安価なサイトでとことん探せますし、いわばECが加速している世の中なので、物の売買がすごく簡単になっていると思います。その中で、“自分たちよがり”で製品を発信するというよりも、ユーザーの感性や価値観に寄り添って、ユーザーのことを考えてはじめて「これを買って良かったな」と感じてもらえるプロダクトが生まれると思うんですね。

 

製品はユーザーとコミュニケーションを取るためのツール

──「ユーザーの価値観に寄り添う製品」は、どのようにして生まれるのですか? 理念に沿うにはユーザーの声を集めることが重要な気がしますが、なにか特別な仕組みを持っているとか。

 

中橋 していることは、ポジティブもネガティブな声も受け止めて、そこに応えていくという作業です。具体的に言うと、まずYouTube。YouTubeはPR目的というよりも、お客さまと相互にコミュニケーションを取る場所と考えています。CIOの考えをお伝えすることもありますし、ライブ機能で「どう思いますか?」とお客さまに意見を求めることもあります。そうすると「それ、マジで探してたわー」とか「もうちょっとこうだったらいいわー」とかリアクションをいただけるんですよね。

↑CIOのYouTubeチャンネル。製品の紹介動画や開発秘話を語る動画を定期的に公開するほか、ライブ配信も頻繁に実施している

 

──開発中のプロトタイプを紹介しながら、意見を求めることも?

 

中橋 いえ、もちろん企画開発の担当者はいますが、構想そのものがお客さまから出てくることの方が多いです。クラウドファンディングもしていますが、そちらではもう少しコアな方から「生活の中でこういうところに困っているから、CIOで作ってくれへんか?」と言っていただくこともあります。

 

──それに直接的に応える製品を作ることもあるんですか。

 

中橋 そうすると、純粋にその方のニーズを満たすだけになってしまいますが、私たちとしては、いただいたご意見を超えていきたいし、「こういう物を作ったのか!」と思ってほしい。ご意見をベースに「どうすれば期待を超えていけるのか」という視点で会議をすることが多いです。

 

──意見として無茶で、作れそうにないような要望が来たときは?

 

中橋 「実現できるのか?」みたいなところはさておいて、まず話します(笑)。「こういう商品ができたらすごくワクワクしていただけるだろう」という部分を主軸にして「その実現に向けて何ができるのか」という話の進め方をしています。そういう意味で、CIOにとって製品というのは、お客さまとのコミュニケーションツールなんですよね。SNSやレビューサイトからお客さまの意見を抽出して、社内で誰でも見られる形でディスプレイに流すということもしています。

 

技術的に困難な商品もあるが、時代の変化でチャレンジできることも

──製品を拝見すると、技術的に難しいことをしているものも多いように思います。部材選定が大変なのでは、と想像するのですが。これらの難しいスペックの製品はどうにか作れてしまうものなのでしょうか。

 

中橋 正直な話をすると、1年とか2年とかかけても作れない商品ってあります。実際問題、技術的に困難な商品とか、再現が不可能な商品とか。ただ、具体的な例で話すと「あと1mm厚さを持たせればできる」とかってことがあるんですね。1mmの厚さはお客さまの生活にとって、大きな影響を与えない場合が大半かもしれませんが、一方で「お客さまにとって最強で最高のもの」にはならないかもしれない。

 

でも「1年前には実現できなかったことが、いまの半導体の技術なら作れる」ということもあります。そういう風に、時代の変化とともにチャレンジできるようになることもありますし、やはり作れないものもあります。

↑実際の製品をもとに、製品づくりの過程なども話してくれた

 

──製造する工場とも密接にやり取りをしていないと、こういった製品を作るのは難しそうです。

 

中橋 中国に提携工場を持っていて、チップ、コンデンサー、バッテリーなど、目指す製品の仕様に向けて協力しながらいろいろ試しています。工場だけでなく、サプライヤーに対しても「一緒にチャレンジしてくれるかどうか」とか「そのチャレンジに意味を見出してくれているか」という視点で、協力していけるかどうかを考えていますね。

 

もちろんビジネスなので、ビジネスとして継続してやっていける利益が出るのかは大事ですが、実現が難しくて困難な課題に一緒にチャレンジできて、かつそのチャレンジが、工場側やサプライヤー側にとってもメリットになるか。その付き合い方を大事にしています。たとえば、私たちが注文した部材を新たに作れるようになることで、その工場やサプライヤーに新しいメリットが生まれるかといった部分ですね。

 

──そのように苦労して作った部材が他社にも卸されて、似た製品が生まれてしまうということもあると思うのですが。

 

中橋 目指しているのは「その時、その瞬間において、お客さまにとって最強で最高のものを作る」という部分ですし、この分野で、1社だけ独占的に新技術を使っていくということも考えにくいので、そこは割り切っています。これからも技術の転用はどんどん盛んになっていくと思いますし、我々もひたすらにそこを追い続けます。その中で、どうすれば技術を活用できるのかも考え続けていきたいですし、先取りできるような体制も作っています。

 

作りたいのは、CIOで満たされた空間

──お話をうかがって「ユーザーをワクワクさせる」ためにユーザーとコミュニケーションを取ることは、御社のコアになる部分だと感じました。ですが、会社が大きくなっていくと、密接なコミュニケーションが難しくなっていくときもくるのではないかと想像します。

 

中橋 たしかに、YouTubeは続けられるけど、SNSで返信することは難しくなっていく……などが起こると「どこを向いているんだ?」となってしまいますが、私たちがしたいのは「お客さまのことを理解したものづくり」なので、たとえばYouTubeもいま持っているひとつの方法という捉え方なんです。

 

お客さまとコミュニケーションが取れる場所やツールを「タッチポイント」と呼んでいますが、今後は、私たちの製品をしっかりと体験いただき、触れていただく空間を作っていきたいと思っているんです。

 

──というと、現実にお店を作るなどですか?

 

中橋 はい、これからは実店舗展開を積極的にしていこうと考えています。直近では大阪でポップアップを展開していて、4月と5月に東京でも実施を予定しています。将来的には「CIOで満たされた空間」を作っていきたいと思っているんです。

↑1月19日〜2月4日まで出店されたCIOのポップアップストア

 

本当に大きな話でいうと、世界中の方にワクワクしていただきたい。単純な店舗での展開というよりも、CIOが皆さまの生活の中に存在していて、お客さまからの意見も聞いていける環境を作りたいという想いです。

 

注目の充電器やケーブルなどを解説!

ここからは、インタビュー中に登場した製品について、中橋さんによる解説を紹介します。

 

【その1】NovaPort TRIO 65W

↑合計65W出力で、USB Type-C×2、USB Type-A×1を搭載するGaN充電器

 

「この仕様を持つ製品の中で、世界最小を目指すという目的で開発を進めた製品です。4月には、さらに小型になった第2世代を発売します」

 

【その2】NovaWave SPOT PLUG +C

↑コンセントプラグ一体型のQi2充電器。Type-Cポートもそなえ、有線での充電にも対応する

 

「文字どおりの意味での“コードレス”が実現できたらおもしろいなと思って作りました。高い位置にコンセントプラグがある部屋なら、スマホを置き時計みたいにして使えるようになると思います」

 

【その3】ディスプレイ付きシリコンケーブル

↑デバイスへの給電の状況が、LEDでディスプレイに表示されるケーブル

 

「むちゃくちゃニッチな商品だと思いながら作りましたが、実は我々の製品の中でもトップクラスに売れています。パソコンを開かずに、バッテリーに不安を覚えることなく持っていけるかどうかがわかるので『めちゃくちゃ便利で重宝しています』といった声をいただいています」