埼玉西武ライオンズ
平良海馬インタビュー前編

 ラプソードやトラックマンという球質を可視化するテクノロジーの登場や、ウエイトトレーニングの進化などにより、投手のレベルアップが著しく進んでいる。そんな現代を象徴する投手が、西武の平良海馬だ。

 173cmとプロの投手として小柄ながら、鍛え上げた肉体は公表93kg(101kgという報道も)。ストレートは最速160キロを誇る一方、昨季の投球割合は4割に満たない。ピッチデザインで多彩な球種を完成させ、打者を幻惑させていくのだ。

 先発転向1年目の昨季は23試合で11勝7敗、防御率2.40、リーグ3位の153奪三振。今季はどこまで飛躍するのか──。野心あふれる男を直撃した。

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173cmながら93kgの巨漢ピッチャー平良海馬 photo by Jiji Photo

── 日本のプロ野球で最先端を走る投手が「ピッチング」をどうつくり上げているのかを知りたくて、話を聞きにきました。まず、ブルペンでピッチング練習をする際のチェックポイントを教えてください。

「確認しているのは、変化量が一定か、どうかです。試合でいつも投げているのと同じ変化量なのか、というところですね」

── それは自分の感覚も踏まえて?

「そうです。感覚とデータを合わせるだけです」

── 数値を見ながら投球練習するようになってから、感覚とデータのズレは減ってきていますか。

「ズレは減ってきますね。感覚だけでやると限界があると思うので、数値も参考にしながら、より精度を高くやっているという感じです」

── 今季からジャイロスライダーを球種に加えました。そもそも最初にこの球種を投げたいと思った理由は?

「左バッターのインコースで、誰が一番空振りを取っているかを見ていったら、今井(達也/西武)さんでした。今井さんのスライダーはかなりいいボールなので、それをマネしようということです。回転軸さえ合っていれば、投げることは可能なので」

── もともとの持ち球にスライダーもカットボールもあるなかで、曲がり幅や軌道が違う球がほしかったのですか。

「そうですね。カットボール、スライダーを投げた結果、左バッターに対してあまり空振りが取れていなかったので、一番空振りを取れているスライダーを選んだっていうことです。今井さんのジャイロっぽいスライダーがいいんじゃないかっていうことになって、ただそれを投げているだけですね」

── 同じ「スライダー」と分類される球種でも、今井投手と平良投手のスライダーでは、軌道として落ちるかどうかが空振り率につながっているのですか。

「そうですね。僕のスライダーは横に大きく曲がるけど、今井さんのスライダーはあまり横に曲がらなくて、少し速い。でも、カットボールより速くないというところで、そこをマネしているだけですね」

── 習得までのアプローチとしては、ラプソードで球質を計測しつつ、ハイスピードカメラで指先を録画して微調整していくのですか。

「ハイスピードカメラで撮って、それを自分の感覚に落とし込むっていう感じですね」

── インタビュー日は3月13日ですが、現在のジャイロスライダーの安定度はどうですか。

「もう試合でしっかりコントロールできています。回転軸も安定していますね」

── もう満足のいくレベル?

「そこまで来ていますね」

── 先発転向した昨季、「思ったよりも三振が取れなかったという感覚が残っている」と話していました。昨シーズン中には「三振を全部取りにいくと球数がかさむ」という話をしている時もありましたが、基本的な考え方として全打者に三振を狙いにいくのですか。

「基本、三振を狙いにいったほうがやっぱりいいですね。三振ってそもそも打球が飛ばないので、失点するリスクが一番低い。だから三振を取りにいきたいです。球数がある程度かさむ部分もあるけど、しっかり狙っていきたいなって思っています」

── 三振を3球で取れれば、かさむといっても限られていると?

「3球なので。そういうことですね」

── 基本は3球勝負ですか。

「もちろん3球勝負です」

── ピッチングでは、「ストライクばかり投げるのではなく、際どいコースを突いて振らせろ」という考え方も伝統的にあります。現在の平良投手のボールがあれば、それはやらなくてもいいですか。

「やらなくていいですね、まったく。だって、そういうデータが出ているので。たとえば『アウトコース低めの出し入れ』とよく言われると思いますけど、それを何のためにするのかっていうところですね。意図があるならいいと思うけど、僕のなかではストレートをアウトコース低めに投げてもあまり空振りを取れないですし、やる意味がないっていうところです」

── ゴール(狙い)が三振だと、アウトコース低めを狙うのは意味がない?

「まったく意味がないです」

── 1試合単位だと、どういうことを考えるのですか。

「1試合単位でも、三振を取るのが一番いいと思うんですよね。球がまず、内野にすら飛ばないということなので。それをするためには、もしアウトコース低めで見逃し三振を取れる確率が高いなら、そこに行けばいいと思いますし。僕は高めのストレートで空振り三振を取るほうが確率が高いので、ただそれをやっているだけです」

── ストライクゾーンは何分割にイメージして狙っていますか。

「そもそも何分割っていう、そういう概念があまりないですね。真っすぐは高め、スライダーは右バッターのアウトコース。スプリット、ツーシームは左バッターのアウトコースみたいな感じで投げています。投げるコースはほとんど決まっていますね」

── そこに投げておけば打たれないという考え方ですか。

「そうですね。そのコースに投げておけば、途中までどうしても真っすぐに見えてしまうというか。ピッチトンネルと言われるんですけど、それをちゃんと構成するようなコースに投げたいと思っていますし、そうできるように練習しているっていう感じですね」

── ピッチトンネルを構成するイメージで投げれば、球種によって先ほどのような終着点になるわけですね。そういうイメージで投げ出したのはいつくらいからですか。

「2020年くらいです。新人王を獲った時くらいです」

── そう投げたほうが点を取られない確率が高いから?

「そうですね。2019年にちょろっと一軍で投げたくらいの時に、やっぱり高めの真っすぐで空振りをたくさん取れていましたし。変化球もバッターが空振りしているコースを見ると、やっぱりそういうふうになっていますので。だから、そういうピッチングをしているっていう感じですね」

── 真っすぐはコースを狙うというより、高めに?

「高めに」

── それは空振りになりやすいから? あるいは、コースを狙うより「高め」を狙ったほうが投げやすいからですか。

「空振り率が高いからです。投げやすいとかは関係ないですね」

── 「VAA」(Vertical Approach Angle)という指標が近年注目されています。VAAが0度に近いと三振を奪いやすく、身長の低い投手が三振を取れる傾向にあると言われます。そこは身長173cmの平良投手にとって有利な点だと思いますか。

「僕は身長が低い分、高めに投げれば入射角もプラスになっていくと思うので、そこは有利な点じゃないかなと思います」

── 長いシーズンはどう見通していくのでしょうか。たとえば2024年シーズンに向かううえで、まずは年間で目標とするイニング数がだいたいあるのか。

「根本的には、やっぱりクオリティスタートが基準です。でも、3失点もしてはいけないと思うので。6回3失点というクオリティスタートのなかで、失点を少なくするために、リスクを下げるために三振がほしいっていうだけです。だって、打球が内野にすら飛ばないので。それだけですね」

── 7、8回を投げて、無失点なら越したことはないけれども、2失点くらいなら仕事ができたと言える?

「そうですね。シーズントータルで見れば、仕事はできていると思うんですよ」

── それで週1回の登板を守っていき、年間25試合くらい行ければいい?

「25試合に行けばいいですよね」

── 目標にする年間イニング数は175回と話していました。「25試合×7イニング=175イニング」をクリアできたら?

「相当満足だと思います」

── 勝ち星は? 投手が左右できないものとも言われますが......。

「はい。まったく気にしないですね」

── 最多勝は?

「まったく興味ないですね。ただの運だと思います」

── 興味があるのはクオリティスタートとイニング数?

「そうですね。勝ち負けも、まったくすべてが運というわけではないんですけど。運の要素が強いっていうだけで。全試合0点に抑えていたら最多勝を獲れる確率が高まるかもしれないですけど、ただ別に......。そこは運の占める要素が強いっていうことなので。三振だったら、ピッチャーの実力かなと思うので。そこ(のタイトル)はやっぱり獲りたいところではありますよね」

── 三振を取ってフォアボールを出さなければ、ついてくるものがある、と?

「そうです。フォアボールもちょっと多いと思うんで、そこも減らしていければいいかなと思いますね(※)。フォアボールでランナーを出すと失点のリスクが高まるので、そこはやっぱり抑えていかなきゃいけないっていうところです」

※=2023年の与四球はリーグで4番目に多い55個。

(後編につづく)

◆平良海馬・後編>>目標は160km超え「一番の喜びは球速が出た時。沢村賞は興味ない」


【profile】
平良海馬(たいら・かいま)
1999年11月15日生まれ、沖縄県石垣市出身。八重山商工から2017年ドラフト4位指名で西武ライオンズに入団。2年目に一軍入りを果たし、同年8月に初ホールド&初セーブを記録。2020年はセットアッパーに定着して沖縄県出身初の新人王を受賞する。2022年は34ホールドで最優秀中継ぎ投手を獲得するも、2023年は先発に転向して11勝をマーク。日本代表としては東京五輪メンバーに選ばれて金メダルを獲得。ポジション=投手。身長173cm、体重93kg。