先発ローテーション入りを目指し、春季キャンプ、オープン戦でアピールを続けてきた中日の根尾昂。3月21日、立浪和義監督は開幕2軍スタートを明言したが、臨時投手コーチとして春季キャンプに参加した中日OBの今中慎二氏は、大阪桐蔭の後輩でもある根尾をどう見たのか。間近で感じた根尾の課題や、自ら伝授した"伝家の宝刀" の極意を聞いた。


先発として活躍を目指す中日の根尾 photo by Sankei Visual

【キャンプでスローカーブを根尾に伝授】

――先発ピッチャーとしてはスタミナも課題のひとつだと思いますが、その点で根尾投手はいかがですか?

今中 おそらく、単純なスタミナがないわけじゃないですが、"投げるスタミナ"は投げていかないとつきません。例えば、どれだけ教育リーグで9回を投げ切ることができるようになっても、一軍の試合の5、6回を投げるのはもっとしんどい。コンディションに問題がなければ、投げるスタミナをつけるためにも、シーズンに入ってからも長いイニングをどんどん投げさせていったほうがいいでしょうね。

――キャンプで今中さんは根尾投手に対し、自身が得意としていたスローカーブを指導していましたね。

今中 根尾がカーブについていろいろと聞いてきたので、まずはブルペンではなく、「距離が長めのキャッチボールをやったほうがいいよ」と話しました。カーブは放物線をイメージしながら投げることで感覚を掴んでいけるので、まずは遊び感覚でいいから、その軌道を描いてみようと。

 放物線を描くためには、後ろ(テイクバック)の動作をコンパクトにして、前(フォロースルー)を大きくしなければいけません。前が小さいと、うまくボールが抜けてくれない。ほかの球種にも共通することなのですが、カーブは特にそうです。

 それと、カーブをストライクゾーンに投げられている時は体のバランスがよくなります。なので、カーブをうまく制球できれば、ほかの球種も含めて課題となっているコントロールの乱れもなくなるはずです。

――まずは、放物線を描くための感覚をつかむことが大事?

今中 そうですね。あとは、ストライクゾーンに投げるのではなく、ホームベースの上にボールをポトッと落とすイメージで投げること。慣れないうちは腕を振れなくてもいいし、腕が緩んでもいいから、とにかくそのイメージを作って投げてみるように伝えました。キャッチボールの時に遊び感覚でやって、うまく掴んでくればモノになるでしょう。

 その感覚を掴むことは、カーブを投げたことがないピッチャーに言っても難しいと思いますが、根尾はもともとカーブを投げていたので、なんとなく理解してくれるんじゃないかなと思います。

【根尾に自信を持ってほしい「持ち味」】

――オープン戦でのピッチングはどうでしたか? 3月2日のヤクルト戦では5回途中6安打5失点でしたが、3月9日の広島戦では6回途中1安打2失点でした。

今中 キャンプでの実戦では大胆にテンポよく投げていましたが、3月2日のヤクルト戦では結果を欲しがっていた。初回に山田哲人に二塁打を打たれた後もそうですけど、根尾のいい部分でもある大胆さがなかったですね。いいボールもあったのですが、悪いボールのほうが目立っていて、やはりコントロールで苦しんでいました。

「際どいコースに投げなきゃ」とか「低く投げなきゃ」と、余計な意識が働いたのかなと。現段階では細かいことは気にせずにバッターに向かっていったほうがいいと思います。9日の広島戦は、結果はよかったかもしれませんが、大事なのは内容です。現段階では打たれてもいいので、いろいろ試していってほしいですね。

――今中さんは、中日には体の開きが早く手の出しどころが見やすいピッチャーが多いと指摘していましたが、根尾投手もそうですか?

今中 根尾にも少しそういった傾向がありますが、そこまでは目立ちません。制球を乱すのも体が早く開いているのではなく、リリースポイントがバラついている時にそうなっていますね。

――今はとにかく経験を積むことが大事でしょうか?

今中 そうですね。シーズンは長いので、オープン戦から場数を踏んで経験を積んでいけば、シーズンの中で必ず戦力になるはずです。

――先ほども触れたヤクルトと広島とのオープン戦2試合では、よく三振が取れていましたね(奪三振率11.70)。

今中 真っすぐが少しカット気味に動くなど、回転があまりきれいじゃないのでボールが動くんです。それとは別に、カットボールも投げていますよね。高めに抜けるカットボールをバッターが打ちにくそうにしていて、三振も取っている。それはそれでいいと思いますし、根尾には「自分の持ち味」と思って自信を持ってもらいたいです。

――今中さんは以前、中日の先発陣は層が厚いので、一軍に居続けるためにリリーフでの起用から始めてもいいのではないか、と話していましたね。

今中 根尾のポテンシャルを考えれば、最終的には先発を目指してもいいと思います。過去にも、リリーフから先発に転向して成功したピッチャーも多いですし。ただ、まずは一軍の試合で登板経験を積むことが大事だと思っていますし、その考えは今も変わりません。

でも今回、臨時投手コーチとしてチームを見て思ったのは、リリーフ陣もけっこう層が厚いということ。そんな中で競争に勝つのは大変だと思いますが、立浪監督をはじめ、根尾にはみんなが期待していますから、これから時間がかかってでも、自分のポジションを確立していってほしいです。