サッカー日本代表 北朝鮮戦のデータは不調を脱していない証 突きつけられた根本的な問題
サッカー日本代表の北朝鮮戦は1−0の辛勝。データの上でも、試合の流れを追っても明らかに低調な内容で、アジアカップ惨敗のショックを払拭できていないのがわかった。
【明らかに低調な試合内容】2026年W杯アジア2次予選第3節。ホームに北朝鮮を迎えた日本は、開始早々2分に田中碧が先制点を決めると、そのまま1−0のスコアで勝利を収めた。
田中碧のゴールで開始早々の先制から尻すぼみの内容だった photo by Kishiku Torao
しかしながら、いずれも5−0で勝利した初戦(ミャンマー戦)や第2節(シリア戦)と比較しても、明らかに今回の試合は内容的に低調だった点は見逃せない。しかも対戦相手は、FIFAランキングでシリア(89位)よりも下回る北朝鮮(114位)。いくら予選は結果が大事とはいえ、さすがに今回ばかりは結果を度外視し、内容にしっかり目を向ける必要がある。
勝ったことで試合内容を見過ごしてしまうと、おそらく前回W杯のアジア最終予選のように、日本は自ら泥沼に足を突っ込む可能性が高くなるだろう。
幸先よく先制し、ほぼ相手陣内でゲームを支配できていた前半の戦いぶりから一転、なぜ後半は劣勢の時間が続いてしまったのか。明らかに総合力で圧倒できるはずの日本が、どうして北朝鮮相手にここまで苦戦を強いられてしまったのか。
【前半はビルドアップの前進ルートを確保】前半と後半で、あらためてピッチ上で何が起こっていたのかを掘り下げてみる。
まず、この試合の北朝鮮の布陣は4−4−2。対する日本は、シチュエーションによって中盤3人が逆三角形(4−3−3)に変化する可変式の4−2−3−1だった。中盤を構成したのは、ダブルボランチの守田英正と田中、1トップ下の南野拓実の3人だ。
前半の日本は、開始直後に先制した事実を除いても、基本的には相手陣内でプレーする時間が続いた。北朝鮮は前からプレスを仕掛けることもなく、シンプルに4−4−2のブロックを形成してミドルゾーンで構えたため、日本は窮屈さを感じることなくビルドアップから敵陣に前進できていた。
とりわけビルドアップ時に余裕があったのは、日本の両サイドバック(SB)(右の菅原由勢、左の伊藤洋輝)だった。北朝鮮の両サイドハーフ(右の20番、左の12番)が日本のSBとの距離を空け、どちらかというと、日本の両ウイング(右の堂安律、左の前田大然)をSBとともにケア。日本としては、両SBが必要以上に高い位置をとらずとも、フリーでパスを受けてからボランチや南野を使う前進ルートを難なく確保できた。
また、日本のセンターバック(CB)(右の板倉滉、左の町田浩樹)が相手2トップ(10番、11番)からプレッシャーを受けた場合でも、田中もしくは守田がCBの間、あるいは町田の左側に落ちることで、数的優位を担保。つまり、前半の日本は複数の前進ルートを持っていたため、北朝鮮を相手陣内に封じ込めることができていた。
ただ、北朝鮮もそれは想定内だったのだろう。日本に押し込まれる時間は続いたものの、全員がハードワークを惜しまず、アタッキングサードで日本の選手に自由を与えるシーンはほとんど見られなかった。そしてボールを奪ったら、日本の両SBの背後のスペースを狙ってロングボールを躊躇なく配球。2トップがそのボールを全速力で追いかけるという、ロングカウンターに活路を見出そうとしていた。
日本にとって前半は大量ゴールのチャンスだったわけだが、しかし決定機は少なかった。最も大きな追加点のチャンスは43分。中盤で南野が15番からボールを奪った後にドリブルで前進し、上田綺世とのワンツーからゴール前に走り込んだ堂安に抜群のスルーパス。GKと1対1のシーンで堂安が放ったシュートがGKの足でブロックされたシーンだ。
それ以外にも、11分の守田、13分の堂安、29分の堂安と、決まっていても不思議ではないシーンもあったが、いずれも再現性の少ない偶発的とも言えるシュートに終始。そういう点では、ボールを保持する戦況で効果的な攻撃が繰り出せないという第2次森保ジャパンの傾向は、今回の試合でも変わらなかった。
【後半、前に出てきた北朝鮮に慌てる】ただ、追加点はならずとも、前半の日本は危なげない試合展開はできていた。にもかかわらず、後半に入ると状況は一変。日本は、北朝鮮に対して劣勢を強いられる展開となった。
最大の要因は、北朝鮮の両サイドハーフが日本のSBとの距離を縮め、チーム全体が前からプレッシャーをかけるようになったことだ。特に日本の4バックには2トップと両サイドハーフがマッチアップ、日本のダブルボランチにもセンターハーフ2枚(22番、後半開始から15番と代わった17番)が圧力をかけることで、日本のビルドアップを封じにかかった。
それに面食らった日本はボールの出口を失い、前半は余裕を持って確保できていた前進ルートを一気に喪失。苦し紛れのクリアやGK鈴木彩艶へのバックパスが急増すると、GK鈴木もパスの出しどころを見つけられず、ロングボールを蹴るしかなかった。
DFラインが下がってしまった日本は、ハーフライン付近に南野、最前線に上田がポツンと立つだけの状況となり、当然ながら、日本が蹴ったボールのほとんどを北朝鮮に回収された。しかも北朝鮮は丁寧につないで前進するのではなく、躊躇なくボールを蹴って敵陣に進むスタイルを貫いたため、試合はどちらかが落ち着いてボールを保持する展開ではなく、いわゆるアンストラクチャーの状態でボールを奪い合う展開が続いた。
こうなると、ボールテクニックや個人戦術で上回る日本の強みは失われ、お互いイーブンの競り合いの勝負となる。北朝鮮とすれば、それに日本が付き合ってくれたことが奏功し、両サイドからのクロスが増えると、前半は1本もなかったシュートも5本に増加。47分の幻のゴール(ファールがありノーゴール)がチームに勢いを与え、日本陣内でプレーする時間を増やした格好だ。
【最後は追加点よりも逃げきり作戦】そんななか、森保一監督は58分に守田に代えて遠藤航を投入したが、それでも状況が変わらないため、74分に3人同時交代を断行。谷口彰悟を最終ラインに投入することで布陣を5−4−1(3−4−2−1)にシフトチェンジした。その采配で、確かにクロスボールやロングボール対応は安定し、前田と浅野拓磨を使ったロングカウンター、という狙いも見て取れた。
しかし、実際に狙いどおりのカウンターから作った決定機は1度もなく、追加点よりも失点を防ぐ"逃げきり作戦"と化した印象は否めなかった。もちろん、この試合に限って言えば、この戦術変更が勝利につながったことは間違いないが、しかし今後を見据えた場合、その受け止め方は変わってくる。
今後も続く格下との試合でも、前からはめられ、ロングボールを多用されたら、どんな相手に対しても同じ5バック戦術で対応するのか。自ら主導権を手放すような戦術変更が、本当にチームを成長させ、W杯ベスト8以上という目標達成に近づけるのか。今回の試合で日本が突きつけられた根本的な問題は、そこに潜んでいるのではないか。
少なくとも、北朝鮮が後半に見せたプレッシングはとても組織的に機能していたとは言えないレベルで、ロングボール戦法にしても、アジアカップのイラク戦やイラン戦ほどの脅威とはなっていなかった。
この試合の日本は、最終的に65.5%のボール支配率を記録したものの、前半は10本だったシュート数が後半になると5本に半減。クロスも前半の9本から後半は4本に減少し、前半に5本あった敵陣でのくさびの縦パスも、後半は1本もなかった。この数字だけを見ても、後半から試合の主導権が北朝鮮に移ったことが分かる。
アジアカップのイラン戦では、同じような戦況を4バックのままでは耐えられず、パニック状態のまま敗戦を喫した。今回の戦術変更は、その反省から生まれた策と言えば聞こえはいいが、しかしそこには相手のレベルも加味した判断も求められる。
解決すべきは、選手を代えず、ピッチ上の11人のポジショニングだけで相手のプレスを回避し、新たなボールの出口を作ることではなかったか。それによって前進ルートを取り戻し、試合の主導権を手放さないこと。その課題から目を背けて5バック戦術という逃げ道を作ってしまうと、永遠に主導権を握る試合ができなくなってしまう。
W杯ベスト8以上を目指すなら、最低限、それくらいの実力はつける必要があるだろう。